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セブン  作者: 明るいあかり@ユリ
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『白は、束の間の印象』





シークの部屋の前に立つ、セッテの背筋は伸びきっていた。

「入ります。」

ノックをすると同時に、彼は声をかけた。

間髪入れずに戸は開かれ、満面の笑みをした女が彼を迎える。

女の姿をした男が、シークの姿をしたエータが、セッテを迎える。

「セッテ!今日も来てくれて嬉しいわ!」

「はい、世話係ですから。」

セッテは淡泊に答える。

彼の態度を不審に思うことなく、エータは会話を続けた。

「今日はどんなお話を聞かせてくれるの?」

当たり障りのない話を振るエータを、セッテは薄めた瞳で見つめた。

「……お嬢様、本当にわたくしが来て、嬉しいと思っていますか?」



ドクン、と。

女の心臓が、男の意思によって跳ね上がる。

セッテが何を言わんとしているか。

セッテが何を疑っているか。

それがわかっても、エータは白々しく取り繕う。

「も、もちろんよ、どうしてそんなこと、」

「お嬢様は…。」

刹那で遮る男の声は静かだった。

「お嬢様は、昔から嬉しい時には瞬きを三回なされます。今貴方はそれをしなかった。いや、何日も前からしていませんでした、かね?」

そこまで言われたら、隠す必要は、ない。

エータは自分の仕草で、セッテを睨んだ。

「セッテ、お前…!」

セッテは不敵に、不気味に笑った。

「ふ、嘘ですよ。鎌をかけただけです。」

「な、…?」

セッテは確かに疑っていた。

最初から疑っていた。

それが今、確信へと変わる。

「……その様子だと、やはりわたくしの勘は間違ってなかったようですね。」

男は、女の体をした男の瞳を据える。

「お嬢様をどうされたのですか、エータ様…!」

想い人を隠された男は、再び熱くなる。

チンクエに自分の気持ちを伝えた時と同様に、熱くなる。

自分の気持ちに素直に、感情の赴くままに、熱くなる。

「…いつから気付いていた?」

「先にわたくしの質問に答えて下さい。」

エータはエータで、セッテを相手には最後まで騙せるとは思っていない。

だから笑った。

素直なセッテを見て、自分も素直に吐こうと、笑った。

「…別にどうもしねーよ。オレの中で眠っている。それだけだ。」

「何のために?」

喰らいつくような視線を放つセッテを、エータは笑う。

馬鹿にしているわけではない。

ただ、何となく、笑いたくなったのだ。

「は、オレの質問にも答えてくんねぇかな?いつからだ、気付いてたのは?」

「最初からに決まっているでしょう。」

「……そうか。」

セッテの想いを知っているからこそ、シークの『兄』として、笑った。

「何のため、ねぇ。シークを外の世界に連れて行くためさ。オレがいなくなったと思えば、あのクソ親共は油断し、この体を外に出すだろう。何せ、自分達が閉じ込めた後に、娘が二重人格になったんだ。オレが消えたと思えば…。」

閉じ込められたシークを。

ある事情で閉じ込められたシークを。

守るために、エータは生まれた。

「そうだ、所詮貴方は、いない存在だ。なら、本当に消えることもできるはず…。どうしてこんなまどろっこしいことを…。」

閉じ込められたシークを。

ある事情で閉じ込められたシークを。

守りたくて、セッテは屋敷へ通った。

だが、自分の気持ちに素直すぎた。

「オレが消えたら、誰がシークを守るんだ?」

「それはもちろんわたくしが、」

もちろん?

その言葉に違和感を感じ、エータは感情を露わにした。

「十年前、ただシークが閉じ込められるのを、指をくわえて眺めていたお前が、か?」

いくら守りたいと思っても、行動が伴わない。

セッテのむき出しになって熱くなった心を、エータの言葉が抉った。

セッテは項垂れた。

「……すみません。」

謝る男を見て、また、感情のまま声を荒げてしまった自分に対して、エータは今度は、自嘲気味に笑った。

「…まぁ謝んなよ。悪いのはあのクソ親共だ。」

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