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セブン  作者: 明るいあかり@ユリ
7/18

チンクエはテーブルに拳を振り下ろした。

揺れた大皿が奏でる音が、片づけをしようとするセッテの動きを止めた。

「自分の娘のことをあんな風に言うなんて…。」

憤りを覚えた女のその態度は、メイドとしては失格だった。

「しかもあの言い方、まるで自分達がお嬢様を閉じ込めたかのような…。」

「…はい、そうですよ。旦那様方が、お嬢様をあの部屋に閉じ込めました。」

女に比べて、セッテのそれはあまりにも淡泊だった。

世話係に相応しいであろうその冷静さは、余計にチンクエ怒りの炎に油を注ぐこととなる。

「それを知っていて、貴方は何も思わないんですか!?罵られてまで、仕える意味があるんですか!?」

しかし、男は男で、

「…罵られるのは構いません。」

我慢していた。

「わたくしが我慢すればいいだけですから。」

彼は、震えていた。

「ですが…。」

男は、我慢していた。

「好きな人があんな仕打ちをされて、何も思わないわけないでしょうが…!」

自分の気持ちを。

「え…好き?お嬢様のことが?」

この時のセッテは、自分の気持ちを曝け出すことを、恥ずかしいとは思わなかった。

彼の心は、それ程熱くなっていた。

「そうですよ、閉じ込められる前からもずっと!ずっと、ずっと好きで……。」

だから男は聞いた。

自分の気持ちが正しいかどうかを、女であるチンクエに聞いた。

「…いけないですか?」

「…いえ。」

チンクエはセッテの気持ちを否定しなかった。

だが、彼の行為は否定した。

「ですがそれだったら尚更、お嬢様をあそこから出してあげたいとは思わないんですか?何もしないままでいいんですか?」

「思いますよ。けど、旦那様方に歯向かったら、わたくしは仕事が無くなってしまいます。家族を養えなくなってしまう。お嬢様にも、会えなくなってしまう。」

セッテがシークのことを好きな気持ちは、十分過ぎるくらいにチンクエに伝わった。

男のその、自己中心的とも取れるその発言が、シーク自身のことを考えていないその発言が、彼の一方的な気持ちを表していた。

「……結局自分が可愛いだけじゃないですか。」

チンクエは感情を放出し、セッテを睨みつけた。

その目つきに、かつての尊敬の念も憧れの思いも、含まれていなかった。

「サイテーですね。」

「貴方に何がわかる!?弟や妹たちを支えなければいけないわたくしの気持ちが!」

女にはわがままに聞こえても、男には男の考えがある。

自分から質問をしたセッテは、チンクエの反応の悪さに語気を荒げた。

彼のその言動は、チンクエの眉間に、深くしわを寄せていく。

「貴方にわかるか?この叶わない気持ちが!」

「それがサイテーなんですよ。」

女は男を一蹴した。

チンクエには詳しい事情はわからない。

他人から聞いただけで、実際はどういうことがあって今に至るのかはわからない。

だが、やはり。

女として、今のセッテは、

むかつく。

「……失礼します。」

チンクエは片づけをすることなく、食堂から捌けた。

「……わたくしは、」

一人、残された男は、感情を処理できず、

「無力だ。」

自分を卑下することによって自身を肯定した。

壁を殴るその姿はみじめだった。

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