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セブン  作者: 明るいあかり@ユリ
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いつの間にか二人の間には距離が置かれていた。

女と男が置く距離と、男と男が置く距離は異なる。

故に、彼女の中にいる彼は、セッテから距離を取って、そう言った。

「え、エータ様、いらっしゃったのですか?」

あからさまに動揺している男を見て、エータもわざと聞こえるように舌打ちをした。

「あ?さっきからオレはずっとここにいんだろ?」

そしてぼやくように言うと、エータはセッテを睨みつけた。

同じ体を使って喋っているとはいえ、シークとエータは別人である。

そう認識しているセッテにとって、今のこの状況は、「好きな人への告白を、その人の兄に見られた」という、ただ単に恥ずかしいモノであった。

「そう、ですよね。それもそうですよね。はは、あははは…。」

だから、笑った。

照れ隠しで。

そうすることしか彼にはできなかった。

「お恥ずかしいところをお見せしちゃいましたね。で、では!」

だから、部屋を飛び出した。

照れ隠しで。

そうすることしか、彼にはできなかった。

「…変なセッテ。どうしたのかしら?」

一人になった女には話し相手はいない。

彼女は自分の体で、一人ごっこをするしかなかった。

「お前の方が鈍感すぎて変だっつーの。」

そうせざるを得ない、という考えは、彼女にはない。

極々自然に、エータは彼女の口を借りた。

もはや、彼は一人の人間で、一人の兄だった。

シークにとって、ただ一人の兄だった。

「……まぁお前に、楽しかった時のことを話すあいつも、中々頭可笑しいけどな。」

妹を想うからこその発言であった。

しかし、シークに彼の想いは届かない。

「鈍感?何が?」

鈍感という言葉だけに反応し、それさえも理解していない。

エータは頭を抱えた。

「バカみたいな反応してんじゃねぇよ。」

窓に映る自分の顔を、エータは見る。

自分の意思とは関係なく、頬は膨らんでいた。

どうやらシークの機嫌を損ねたらしい。

エータは真剣な顔をつくると、次の言葉を口にした。

「……なぁ、シーク。お前は本当に外に出たいと思うか?」

外の話をシークにする、ということをタブー視している彼のその発言は、傍から聞いたら相応しいモノではなく、無神経なモノかもしれない。

だが、彼には考えがあった。

彼女を外に連れ出す為の、考えがあった。

「えぇ、もちろん!」

窓に見える女の顔は笑っていた。

それを見て、エータもまた、心の中で微笑んだ。

だが彼の気持ちとは裏腹に、窓の女の表情は曇っていった。

「けど……何か、不安なの、お外のこと考えると。あんっっっなに楽しかったはずなのに。あの頃のことを思い出すと……うぅん、思い出せないの。心の中にもやがかかってる感じ。」

「そうか…。……やはりあの方法しかないか。」

エータが考えていることはシークにはわからない。

シークは首を傾げた。

そんな女の反応を気にすることなく、エータは窓に映る自分の顔…いや、妹の目を手で覆った。

「なぁに、お兄様?」

「お前は何も考えなくていい。そのまま静かに眠っていれば、オレが何とかしてやる。だから、」

兄は妹の頭を撫でた。

「おやすみ…。」

傾いたままの首が、そのまま落ちそうになる。

だがそれを防げたのは、この体に意識があるからだ。

眠ってしまった人格の代わりに、ただ一人の男が、この体を我がモノとしたからだ。

「…よし、良い子だ。お前は何も心配する必要はない。この体は、今からオレのモノだ。あのクソ親も周りもみんなオレらのことを腫物扱いしやがる。……オレが兄だというのならば。オレには、あいつをここから出してやらなきゃならない義務がある。だったらこうするしか、ないな。」

窓には、女は映っていなかった。

女の顔をしているが、それはシークではなかった。

「オレがシークになればいい。」

コンコン。

突如聞こえてきたその音に、エータは狼狽えなかった。

狼狽える必要はない、何故なら自分はシークなのだから。

「お嬢様、お食事をお持ちいたしました。」

チンクエだ。

エータは自分のモノとなった体で、扉を開ける。

「ありがとう!そこに置いといてくれるかしら、チンクエ♪」

「畏まりました、お嬢様。」

疑っている様子は微塵もない。

シークの顔をした女が、シークの言葉を口にして、疑われる道理はない。

「あと、これからは『一人分』でいいわよ。ごめんなさいね、せっかく運んできてもらったのに。」

料理が『二人分』から『一人分』になれば、不審に思われるのは当然であろう。

だが、やはりエータには考えがあった。

「わ、わかりました。…?」

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