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セブン  作者: 明るいあかり@ユリ
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『桃色は、美しい少女』





「急に連れ出して申し訳ない。」

長い長い廊下を戻った先。

大広間の前まで来たその時に、セッテは口を開いた。

彼が握っているチンクエの腕には、

「い、痛いです、セッテさん…。」

不自然な力が入っていた。

「あっあぁ、すみません!」

チンクエはここに来るまでの間、何度も「痛い」旨を彼に伝えていた。

が、それが耳に入っていないということはセッテの中で、早く「あの場所から離れたい」という思いが強いということではないだろうか、と、チンクエは思った。

そして、何か話したいことがあるのでは、と考えた。

その予想が的中したかのように、セッテは重いであろう口を開いた。

「……一つ聞きますが、ここでの仕事は慣れてきましたか。」

その質問はチンクエにとっては拍子抜けするものでしかなかった。

話したいこととはこのことだったのか。

わざわざそんなことを聞く為にここまで連れて来たのか。

何故そんな仰々しい態度を取るのかはわからなかったが、少しの憧れを、セッテに抱き始めていた彼女は、この簡単な質問に答える。

「先程お嬢様にも聞かれました。段々慣れて、」

「慣れているのなら、何故あんなに狼狽えていたんです?」

男の静かな、しかいどこか語気の強いその言葉を聞き、女は理解した。

これが、本題。

シークに聞かれたくない、本題。

チンクエにとって、シークの『あれ』は『イヤ』なものでしかない。

だからあの時、彼女は困惑していたのだ。

だが、その気持ちを男に伝えるのは、女には難しかった。

「それは、その…。」

チンクエはセッテの前で狼狽えた。

セッテは、答えにくい問いをしてしまったと、己を恥じた。

「…すみません、貴方を責めているわけではないんです。ただ、個人的に…貴方の姿を見ているのがきつかった。」

男は帽子を取ると、深く頭を下げた。

畏まったその態度に、女は相応しいモノで返そうと、自身も何度も腰を折り曲げた。

「こちらこそすみません…。」

謝り合いが幾度か続いた後、チンクエはある疑問をセッテにぶつけた。

「…お嬢様はいつから『あの』調子なんですか?」

『あの』調子。

それを聞いたセッテの目は下に向いていた。

チンクエにとってその反応は意外だった。

セッテなら真っ直ぐな視線で答えてくれると思ったからである。

女は不安な気持ちになりながらも、男の次の言葉を聞いた。

「……十年ぐらい前からです。あの方はある事情で、あそこから出られなくなりました。それからというもの、ずっと一人で架空の兄と双子ごっこをしているのです。」

ある事情?

チンクエは新たな疑問をそのまま口にした。

「その事情っていうのは?」

セッテの目が女と合う。

だが彼の瞳に、チンクエに安心を与えるようなモノは含まれていなかった。

それには負の感情しか孕まれていなかった。

「貴方は知らなくていいことですよ。」

彼のその発言は、意外という言葉で済まされるモノではなかった。

言葉に詰まるチンクエをよそに、セッテは続けた。

「……結局、わたくしは何も守れていないんですよ。」

この時、チンクエは今、自分の目の前にいる男に苛立ちを覚えた。

質問に答えてくれなかったからではない。

自分を安心させてもらえなかったからではない。

ただこの男の態度が、一人の女からしたら、腹が立つモノに見えた。

「…は?」

そしてチンクエが捻り出した声とほぼ同時に、彼らは目の前に現れた。

「何ぺちゃくちゃ喋ってんの?セッテ。」

お世辞でも綺麗とは言えない厚化粧。

醜く太った足。

似合っていないブロンドヘア。

「サボっている暇があるのか?ん?」

お世辞でも体形が良いとは言えない肥えた体。

どこで買ったかわからない怪しい時計。

濃い腕毛。


彼らはこの屋敷の、

「こ、これは旦那様、奥様…申し訳ありません。」

主だ。

セッテは先程よりも深く、頭を下げた。

それにチンクエも合わせる。

だが二人が責めているのは明らかにセッテだけであった。

「これだから貧乏人上がりは…。その気になれば、すぐにクビにすることだってできるんだぞ?」

「もっともそんなことをすれば、貴方の家族は路頭に迷ってしまうわねぇぇえ??軍隊だけの収入であぁんな大家族は養えないものねぇえ?」

チンクエは主人とセッテが会話をするのを見たのは、この時が初めてであった。

だから彼女は驚いた。

自分はこんないびりを受けたことがないからだ。

「ふふ…。……わたしは今からパーティに行ってくる。」

「アタシは今日はお茶会♪あの子の世話を頼むわよ。金持ちは金持ちで、忙しいからねぇ。ほほほほほほ!」

話していたのを注意したかったのか。

セッテをいびって楽しみたかったのか。

それとも金持ち自慢をしたかったのか。

どれともはっきりわからぬまま、二人は姿を消した。

セッテの『あの』話といい、チンクエにとっては色々なことが起こり過ぎていた。

故に彼女は、今起こったこの事象に対しての思いを、優先的に口にした。

「あんな言い方しなくてもいいのに…。」

「いいんですよ、本当のことです。さ、お互い仕事に戻りましょう。」



……。



なんだろう。



なんか、



むかつく。





チンクエのセッテに対する尊敬の念は揺らいだ。

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