ⅩⅥ
「か、は……?」
痛み。
不覚。
驚き。
苦しみ。
セッテは膝をついた。
「セッテ、おい、しっかりしろ!」
「よ、く…。」
「え?」
「よく知ってます、よ。軍人なら、ば……その言葉の意味を…!」
二人の姿に比べ、主は淡泊だった。
笑ったのが嘘のように、冷静だった。
「名誉の戦死を遂げた軍人は、階級が二つ上がる。死んだ後にだ。」
乾いた音が再び響く。
主が撃った弾は、セッテの肩を貫通した。
「が、…。」
「止めろクソ親父!」
もう優しい笑顔や心地の良い言葉を、主はセッテに使わない。
「お前は少佐だ。つまり、死んだ後に大佐になるわけだ。……その意味がわかるな。」
薄い目でセッテを捉え、ただ、確実に、殺そうとする。
それはコワいこと。
だがセッテには、彼の言葉の意味がわかる。
だから、立ち上がった。
痛みが体を駆ける中、セッテは主を睨みつけた。
息は荒かった。
「ぃ…遺族への、補償の、ため…に。二階級特進の制度は、あります。遺族へ、支払われる……ゲホゴホ!…補償が、多くなるためにぃ…。」
「そうだ。ご名答。」
殺意を孕んだ弾丸が、セッテの頬をかすめる。
「戦死した軍人の階級が高い程、遺族への補償は高くなる。家族を失ったら悲しいからなぁ?だからその悲しみを癒すために、二階級特進の制度はある。貰える金が変わってくるからなぁ?沢山金が貰えた方が嬉しいからなぁ!?セッテ、邪魔者のお前が死ねば、後はゆっくりシークを殺せる。それで私は幸せだ。お前の家族へはたんまり補償が支払われる。それでお前の家族は幸せだ!!」
「わたくしの死が、家族の幸せ…?それはぁ!」
一瞬だった。
何が起きたかわかるまで、主には時間がかかった。
だが、理解した。
自分の右足から流れるモノを見て、主は理解した。
撃たれたのだと。
憤りを覚えたセッテの指先は速く、主には見えなかった。
「ぐ、ぎゃあああ!」
同時に激痛が彼を襲う。
醜く獣のような声を上げ、主は足を押さえる。
「それ、は…貴方個人の見方だ。家族を失ったら悲しい?金がそれを癒す?それは貴方個人の見方だ。お嬢様を蔑ろにして、遊んでばっかで家族のことを考えない、貴方個人の見方だ!!」
セッテの二発目は、主の左手を貫通した。
「ひ、!」
「そんな貴方に、わたくしは殺されるわけにはいかない!そんな貴方に、お嬢様を殺させはしない!そんな貴方に…『これから』も支配されたくない!!わたくしは、ここで倒れるわけにはいかない…!!」
「ぐ、くぅ…!!」
主は、脂汗を滲ませ、悶える。
手と足の痛みは憎しみに変わり、彼に呪いの言葉を口にさせる。
「……全部お前の所為だ、シーク。お前が一人ごっこ何てするから、私がこんな目に合うハメになったんだ!いや、私だけじゃない。セッテが傷を負ったのもお前の所為だ!お前が私に撃たせたんだ!この騒ぎもお前の所為だ!全部全部、お前がいるからだ!!」




