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セブン  作者: 明るいあかり@ユリ
1/18

これは幸せな物語。



とてもとても幸せな物語。



これは幸福な物語。



凄く凄く幸福な物語。



これは幸運な物語。



きっと、幸運な物語。



だって、彼がそう願ったのだから。





『赤は、あなたを愛します』





正午。

屋敷の廊下を歩くチンクエの両手は塞がっていた。

彼女は憂鬱だった。

別に、まだ昼食をとっていないから空腹だとか、自分が運んでいる盆に載っている料理が、自分のモノでないからだとか、そういうことで、気分が沈んでいるわけではない。

ただ、今からあの部屋に行くのが、イヤなのだ。

「……はぁ。」

この屋敷のメイドになって二週間

給料は毎日、仕事が終わってから渡されていた。

その中身はいつも弾んでいた。

だが、メイド、というモノに憧れ、また、金に特別困っているわけでもないチンクエにとって、それはどうでもいいことであった。

だから、仕事や給料に不満はない。

ただ、あの部屋に行くのがイヤなのだ。

長い長い廊下を渡るのには慣れた、苦痛じゃない。

ただ、あの部屋で彼女に会うのがイヤなのだ。

チンクエは足を止め、窓を見た。

鏡代わりにそれを使うと、彼女は作り笑いをしてみせた。

「……うまく話せるかな、私。」

せっかく屋敷で働くんだから、と、毎日セットしているツインテールもうまく決まっていることを確認し、彼女は歩を進めた。

イヤだイヤだと考えていてばかりいると、時が経つのが遅く感じるモノだ。

だが、彼女が気がついた時、廊下の明かりは薄暗くなっていた。

こうなると、もうあの部屋は近い。

すぐに彼女は部屋の前に着いてしまった。

閉じている扉の脇に置かれた、台座に盆を置くと、

「…すぅ、」

彼女は深呼吸をした。

そして二回ノックをすると、

「お嬢様、お食事をお持ちいたしました。」

自分が思う、落ち着いた礼儀正しい声を出してみせた。

「はーい♪」

間髪入れずに返ってきたのは明るい女の声だった。

その女によって、扉は開かれる。

「ありがとう、チンクエ!」

チンクエにはその女がとても同い年の二十歳には見えなかった。

この部屋に来る度に彼女は思う。

この人はなんか、自分よりも、幼いような気がする。

「わ、今日のは凄く美味しそうね!」

女は盆を手に取ると、目を輝かせながら己の昼食を眺めた。

「そ、そうですか?私にはよくわからないです。」

チンクエは彼女と部屋へ入ると、取り繕った笑顔を顔面に貼った。

「ワタシは昔から毎日食べてるから、違いがわかるのよ、新人さん♪ここでの仕事は慣れてきたかしら?」

「は、はい、おかげさまで…。」

「そう、良かった!」

そう、確かに慣れてきた。

ここに料理を運ぶことも。

「最初はよく間違えてたけど、今日はちゃあんと『二人分』用意してるわね♪」



料理は『二人分』持って行かなければいけないことにも。




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