つくし、にょきにょき!
霜月透子事務局長、鈴木りん副館長の『ひだまり童話館』の『にょきにょきな話』に参加しています。
春休みに、お祖母ちゃんの家に来た佳菜ちゃんは、川原を毎日散歩するのが楽しみだ。にょきにょきと頭を出したツクシを見つけるのが、とても珍しくて気に入っている。
「あっ、背がのびたよ」
昨日は、全身ハカマに被われていたのに、今日はにょきにょきと伸びたので、肌色の茎が見えている。
「そろそろ食べ頃だね」
お祖母ちゃんは、ツクシの頭が破裂する前が美味しいんだと、プチッと摘んだ。
「えっ! 食べちゃうの?」
佳菜ちゃんは、折角、ツクシを見つけたのにと、少し残念な気持ちがする。
「そうだよ、ツクシは食べられるんだ。佳菜ちゃんも見つけておくれ。でも、びっしりハカマで被われているのは、明日、ツクシを取りに来る人の為においておくんだよ」
ツクシが摘まれた時は、少し残念な気持ちもしたが、佳菜ちゃんは、お祖母ちゃんと一緒に川原を散歩しながら探す。
「なかなか見つからないよ~」
草に隠れて、ツクシは見えにくい。
「そりゃ、そうだよ。簡単に見つかったらスギナも困ってしまうだろうからね。ほら、これがツクシの親のスギナだよ」
緑のツンツンしているスギナが、可愛いツクシの親だとは思えない。
「本当に親子なの?」
お祖母ちゃんは、一本抜いて佳菜ちゃんによく見てごらんと差し出した。
「ほら、色や形は違うけど、節から葉っぱが出ている感じは、ハカマに似ているだろ?」
佳菜ちゃんは、そんなに似ているとは思わなかった。
「ママと佳菜も、あまり似ていないから、親子でも似ていないんだよ」
背が高くてすらりとした美人のママは、佳菜ちゃんの自慢だ。参観日でも、友だちのママよりずっと綺麗なので嬉しくなる。
「そうかなぁ? 佳菜ちゃんは、ママの小さい頃にそっくりだよ」
お祖母ちゃんに、そう言われると佳菜ちゃんも嬉しい。
「ママもツクシを食べたことある?」
お祖母ちゃんは、大好物だよと答えたから、佳菜ちゃんははりきって探す。
「あんまり取れなかったね」
ママの好物なら、いっぱい食べさせてあげたかったと佳菜ちゃんはがっかりする。
「ツクシは、いっぱいとったら後が大変だから、このくらいで良いんだよ。それに、ツクシを全部とったらスギナが困るだろ」
お祖母ちゃんと家に帰って、佳菜ちゃんはハカマの取り方を教えてもらう。上手くツクシを回しながらとらないと、ポキンと折れてしまうのだ。
二人で、ハカマを取っていると、奥の座敷から赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
「あっ、陽菜ちゃんが起きたね!」
赤ちゃんが産まれた頃は、ママが自分だけのママでは無くなった気がして、少し寂しく感じたが、今では妹の陽菜ちゃんが可愛くて仕方ない。
でも、赤ちゃんが寝ている時は、ソッと静かにしておかなければいけないのだ。
「ママは、夜中も赤ちゃんにおっぱいをあげているから、赤ちゃんがお昼寝している時は、ママも身体を休めなきゃね」
お祖母ちゃんに、夜中もママが起きていると聞いて、佳菜ちゃんは、陽菜ちゃんがとてもわがままだと腹を立てたこともある。
「おや、佳菜ちゃんも夜中に何回も起きては、ママにおっぱいを貰ってたんだよ」
佳菜ちゃんは、お姉ちゃんになったのだから、かなり我慢をしているが、赤ちゃんが起きてる時ぐらいはママの側にいたい。
ツクシのハカマを取っていたので、指が茶色く染まってる。石鹸でごしごし洗って、ママと陽菜ちゃんが寝ている部屋に行く。
「佳菜ちゃん、ツクシを取ってきたの?」
ママが台所での話を聞いていたのだと、佳菜ちゃんは嬉しくなる。
「そう! お祖母ちゃんと、川原でツクシを取ったんだよ。にょきにょき生えているの」
ママが懐かしそうに笑う。
「私も子どもの頃は、よくツクシを取りに行ったわ」
佳菜ちゃんは、その頃のママは自分と似ていたのだろうかと思う。
ツクシの玉子とじは、少しほろ苦く、佳菜ちゃんは美味しいとは思わなかったが、ママとお祖母ちゃんは美味しそうに食べた。
「春の味がするわ」と、微笑むママの為に、明日はもっとツクシを取って来ようと佳菜ちゃんは考える。
その夜、佳菜ちゃんは、ツクシがにょきにょき伸びて、いっぱいいっぱい取る夢を見た。