に話
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オルト=アウレリウスは孤独である。
彼のあらゆる才能は空前絶後の天才と言われるほど優れ、また顔も非常に見栄えの良いものだ。それにより彼の周りには多種多様な人間が腹に一物を抱えてやってくるので、彼の信用及び信頼できる相手は主の全ての言うことをきく奴隷くらいしかいない。
もう一度言うが、オルト=アウレリウスは孤独である。
彼の隔絶した才能は要らぬ虫を引きつけるくせに、心の清い者を遠ざける。あまりに並外れたその才能は、利用してやろうという魂胆がない限り、付き合うもの全てを傷つけるのだ。
何でもできる存在。それは自尊心をひどく傷つけ、どんな善人でも嫉妬の心を生み出す。常人が百年経っても習得できない技を見ただけで覚え、血の滲むような努力の末に体得した秀才の奥義を勘で放つのだ。彼の側にいる者は努力に励めば励むほど、努力そのものを馬鹿馬鹿しく感じることになる。
圧倒的過ぎる天才が故に、対等な友人というものが存在し得ない。また、天才的であって隔絶した力を持つが故に、友人というものを必要としない。思春期の真っ只中の学生に彼のような存在を受け入れろというのは難しいし、オルト自身、友人を欲しがらないどころか好んで敵を作る傾向があるため、彼の孤独化は避けられなかった。
再度重ねて言うがオルト=アウレリウスは孤独である。
それ故に、彼はよく屋上でぼっち飯を食べている。
※ぼっち飯とは、一人で食べるご飯のことである。一般的には独身男性などはだいたいがぼっち飯であり、別の言い方では孤食とも呼ばれる。また、集団に馴染めない学生などがよく行う。亜種としてトイレで食べる便所飯というものもある。
あれ、リナリアは?と思うかもしれないが、彼女は諜報役なので昼休みも仕事中なのだ。また、彼のような高い地位の者は派閥、取り巻きを作ったりするのが普通だが、先ほど述べたような理由や、自分に媚びへつらうようなものを自身の周りにおくことを良しとしない性格なオルトなので、もはや公私両方の孤独化は不可避だった。
よって、希代の英傑であり天才であり金も権力も持っている最強のリア充(偏見)は一人でご飯を食べているのだ。
一人、正座をしながら学園の屋上でもつもつと自作した手製の弁当を食べるオルト。世が世ならネタキャラ扱いである。彼の身長が平均より低いことは、さらにその滑稽さを増すスパイスになっている。
ばたん!
屋上の扉が開く。瞬時にオルトは正座していた足を尊大に座っているように座り直し、公爵としての威厳を保った状態で来客を見る。はむっ、とサンドイッチをくわえながら。
「わっわっわっ、きた、きたきたあっ!生オルト様だぁぁっっ!!!!」
ビク。突然聞こえた歓声にオルトは肩を震わせた。が、気合でマイクロ単位のごく僅かな揺れに留める。変な歓声で驚いた、なんてことは威厳ある公爵家の当主にはふさわしくないのだ。
扉から現れたのは一人の女子生徒。顔立ちは非常に整っており、身なりもしっかりしているところからオルトはどこかの貴族だろうとあたりをつけるが、顔を覚えていないのでどこかの弱小貴族だろうと思い視線を外した。
「凄い!凄い!握手してください!」
急に近寄ってくる女子生徒にオルトは暗殺を警戒するが、魔力の反応もなく、探知による金属の反応もなく薬物の臭いもしなかったので、少しばかり警戒心を下げる。
「近寄るな」
ぺちんと差し出された手を叩くオルト。注目するのはぺチンッ、ではなくぺちんというところだ。
「きた!オルト様のツンデレきたこれっ!!」
なんだこいつ。オルトは全力で思った。外面的な体裁とは裏腹に基本人見知り、引きこもり気質、平穏好きな彼からすると現状は可能ならばその場から逃げたしたかったが、公爵家当主としての体面がオルトの逃げ道を塞いだ。
「何だお前は。あまりに無礼を働くようなら......」
間を置き、魔力を込めて威厳があるように発言するオルト。
「潰すぞ」
その姿は余計なフィルターを通さずに見れば、恐怖心を煽り、気の弱い者なら恐慌状態にも陥るほど威圧的な雰囲気だった。
しかし。
「生潰すぞきたーっっ!!」
ばたっ。女子生徒は鼻血を吹いて倒れた。オルトには完全予想外の反応である。
「.....??」
オルトは訳が分からなかった。本気で目の前の女子生徒の精神疾患を心配し、少しオロオロしていたほどである。一先ず倒れた際に怪我をしてないか確認し、念のために回復の魔法を使って、学園の保健室に自分が運んだとバレないように、こっそりと女子生徒をおくりとどけたのだった。
とある少女の独白
好きなゲームは何?と聞かれたら、私は一秒も間を置かずにブレクエと答えるだろう。
ブレクエとは、ブレイブクエストの略で、かなりの人気を誇るRPGだ。
内容は、異世界に勇者として召喚された主人公が魔王を倒すというベタな展開だけど、そこに至るまでの様々なシナリオと登場キャラが本当に感動的で泣ける。
ブレクエには数々の名キャラクターがたくさんでるが、その中で最も人気があるのがオルトというキャラだ。終盤まで天才型の悪役で主人公のライバルなのだが、実は裏でただ一人いる妹のために頑張る健気な兄、というのが彼のキャラクターだ。
私のオルト様ラブは以前友人にドン引きされ、それさえなければあんた良い子なのにねぇ.....としみじみ言われたような記憶があるが、私は他人の評価など割とどうでもよく、本気で二次元に行きたいと常日頃思っている。しっかり中学の卒業文集には、将来の夢はオルト様に会いに行って、みんなと和解させてオルト様をハッピーエンドに導くことです。と書いておいた。何故かその後職員室に呼ばれた。解せぬ。将来の夢を書いて何が悪いんだ。
そんな感じで、私のオルト様ラブは凄まじい。私自身もそれを誇りに思っていて、これが私のアイデンティティの一つとも言える。なんせ、車に轢かれる瞬間もあっ、これでオルト様に会える可能性ワンチャン。なんて考えていたのだ。私はちょっとおかしいかもしれない。
だけどまあ、私はこんな私が嫌いじゃない。オルト様をここまで好きになれた私は、きっと正義だ。
さて、違和感に気づいたかなみんな?一先ず現場を整理しよう。私はついさっき車に轢かれたはずだった。しかしなぜか無事に生きている。地獄でも天国でも賽の河原でもない。私にはしっかり足がついていて、今も呼吸をしているのだ。
そして、目の前の鏡にはブレクエのサブヒロインであるナタリー=バルテアが写っている。
数秒シンキング。そして結論。.....これ、きたんちゃうか?今流行りの転生きたんちゃう?
少し落ち着こう私。まず深呼吸。そして冷静になったら私がすることを考えよう。
すーはーすーはー。
オッケー、私はもしかしたら今流行りの異世界転生って奴をしたかもしれない。多分大好きなブレクエの世界に。なら、検証も含めて私がまずすべきことはーー
ーーオルト様に会いに行くこと
オルト様、今、会いに行きます
そうして、ナタリーは凄まじい勢いで学園へ駆け出した。
菜種 春子
ブレクエ好きのオタク女子。ご臨終は高校生。けっこうな狂人だが美人。
ナタリー=バルテア
弱小貴族の令嬢。勇者の選択次第で親密な仲になれる。とても可愛い少女。
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