『失う』
霙くんと喧嘩した。
全て、自分の過去と病気について
霙くんに話した私が悪いと思うの。
私は、幼き頃に心臓病を患い、
体育も、クラブ活動も出来ない状態だった。
そして、余命宣告までされていたのだ。
これ以上、病状が悪化しても、霙くんに
迷惑をかけるだけだと思ったから、打ち明けた。
「霙くん、あの、実は私...」
「どーした?」
「幼い頃に心臓病を患って、余命三ヶ月なの。」
私が告げた真実を、本当のことと信じられないのか、
霙くんは俯いて、黙っている。
「なぁ、嘘だろ?何で今まで言わなかったんだよ、」
「だって、霙くんに迷惑を掛けたくなくて。」
「迷惑じゃねえよ。一人で抱え込まれるほうが、よっぽど迷惑だよ!!」
「ごめん。本当はいつか言おうと思ってたけど、」
「もういい。知らねぇよ。」
止めどもなく、両目から涙が溢れる。
初めて見た、霙くんの怒った顔。
私は、謝ることしかできなかった。
霙くんと別れてから、タッチパネル式の携帯電話を開いてみる。
最近撮った写真。二人ともが笑い合っている。
「私が、悪かったけどな、」
ボーっと、視点の定まらない虚ろな目で歩いていると、
急に視界が真っ暗になる。
薄れゆく意識の中で辛うじて見えたのが、
血に濡れたと思われる、赤い車輪だった。