『さよなら』
愛輝薙と喧嘩した。
付き合って一週間目だというのに。
原因は俺なんだけど。
彼女の過去を知ってしまった俺が悪い。
「もうあいつなんか知らねぇ 、」
自暴自棄になっていた俺は、
飲みかけのミルクティーの紙パックを
地面に置き、蹴り飛ばして
ふかふかの芝生に寝転ぶ。
____あーあ。仲直りできたらな。
なんて思うけど。
もう無理だろう。所詮、俺の恋も
一週間で終わるのか。
とぼとぼと帰宅する。
適当に荷物を投げ捨て、ベッドにダイブする。
本来は暖かいはずなのに、
冬の寒さでひんやりとしたシーツが心地よい。
「霙ー。あんたに電話きてるわよ 、」
姉の声だ。 相変わらず五月蝿い。
「はぁー?誰からだよ」
「神崎...さん?だっけ。女の人の声だよ」
「愛輝薙!?」
ベッドから飛び降り、階段を下る。
受話器越しに、彼女の声よりトーンの低い声がする。
「もしもし 、黒田です。」
「あ、君が霙くん?」
「あ、はい。僕が霙です」
「いつも愛輝薙がお世話になってるわ 、」
「僕の方こそです。」
「あのね 、愛輝薙がね 」
受話器越しの声が吃る。
緊迫した状況の中、先に静寂を引き裂いたのは、
彼女の母親らしき人だった。
「交通事故で救急搬送されて___ 」
「...っ。」
「もう長くないのよ 、」
「え...。あの。お母さん。嘘ですよね?」
「いいえ、本当よ。愛輝薙も、最期に霙くんに会いたいと思うの。こんな時間に悪いけど、駅前の病院に来れる?」
「はい、 わかりました。」
電話を切って、リュックに荷物を無造作に詰め込む。
「ごめん、母さん。ちょっと行ってくる」
「え、どこ行くのよ!!」
母さんの声も俺に届かず、俺は
長い長い坂を下り始めていた。
その後に待つ、結末なんてどうでも良かった。
今はただ、
『愛輝薙に会いたい』