『出会い』
「黒田くんのことが好きです。
私と付き合ってください。」
粉雪がはらはら舞う冬の日、
黒田 霙、14歳。
俺は生まれて初めての告白を受けた。
二つ返事で引き受けてしまったが、
俺は正直、彼女の事をよく知らなかった。
神崎 愛輝薙さん。
まだ、数回しか喋ったことがなかった。
(いったい、俺のどこがいいんだか...)
そんな事を考えながら、
隣を歩く彼女の横顔を見つめていた。
「ん?どうしたの?」
「あ、あぁ。なんでもない、」
目が合ってしまい、気不味い雰囲気になる。
しばらく、長い沈黙が流れた。
「あ、あのっ!! 駅前にできた、新しいカフェに行かない?ケーキが凄く美味しいの」
先に沈黙を破ったのは、愛輝薙さんだった。
「いいよ、行こう」
部活も休みだったので、丁度良かった。
「黒田くん、風が冷たいね 」
「うん、寒い」
殆ど、中身が空っぽの会話を交わす。
そうしているうちに、カフェに着いていた。
コーヒーとチョコレートケーキを注文して、
空いていた2人用の席に着く。
彼女は、パンケーキとココアを注文して、
俺の座っている向かい側に座った。
「黒田くん、ブラックコーヒー好きなの?」
ブラックコーヒーを啜る俺を、
不思議そうに、ビー玉のように丸く、大きな目で見つめてくる神崎さん。
「うん。後、霙でいい」
「じゃあ、霙くん。」
「何」
「霙くんは『I love you』の訳し方知ってる?」
「え、普通に愛してる、じゃないの」
「ちがうよー 月が綺麗、だよ」
「そっか。」
「うん。付き合って初日から、こんな話するから、変な人だと思った?」
「ううん、全然」
「やっぱり、いい人。好きだよ、霙くん」
『好き』 と言われて、
不覚にも眩んでしまった。
でも、この感覚も嫌いじゃない。
「じゃ、そろそろ帰ろっか。」
「うん、」
日が落ち、秒針も疲れた頃、俺達は
カフェを後にした。 時刻はもう午後7時。
「なぁ、お前のこと、なんて呼んだらいい」
「愛輝薙でいいよ」
「うん、分かった」
さっきよりは、
内容のある会話が出来ているはずだ。
この日、黒田 霙は 神崎愛輝薙を好きになった。