第9話ー2-
「小川美咲さんの火傷はそれほどひどいものでなく、痕も残らないと思います。」
私はそう告げる医者の言葉に一喜一憂することもなく、私の目は光を受け付けないかのようにただひたすらに1点を見続けていた。
私はベットの上で座って、私がいるベットの横には心配そうな顔をした山岡さんがいた。
「小川、大丈夫か?何か飲みたいものとかないか?」「痛い。」私の口からは無意識にその言葉がこぼれ出た。
「火傷がか?」山岡さんのその言葉に私は首を振った。
不思議そうな顔をした山岡さんは、「じゃあ、どこが痛いんだ?」と、私に言葉をかけた。
その言葉に、私の目に熱いものがこみあげてくる。こらえることができない。
「心が・・・心が痛い・・。」そう言い切って私は涙をこぼした。
そんな私の姿を見て、山岡さんは「何があった?」と、私に問いかけた。
私は涙のせいで会話を途切れさせながらも、さっき合った出来事を山岡さんに話した。
私の話を全て聞いた山岡さんは壊れ物を扱うかのように私を抱きしめた。
私に山岡さんの熱が伝わってくる。その暖かさに私はまた涙を流した。
山岡さんは私の頬を伝う涙を指で拭い、そっと私にキスをした。
その出来事に私はさすがに驚いたが、唇から伝う山岡さんの暖かさに、私は身を任せた。
そんなに時間は経っていないと思う。それでも私には3時間も時間が進んだように思えた。
山岡さんの唇がそっと離れた。「やまおかさ・・・。」
私が何かを言い出そうとするのを遮るかのように山岡さんは私の唇をふさいだ。
2回目のキスは離れるのが早かった。
山岡さんは唇を離して、今度は強く私を支えるかのように抱きしめた。
山岡さんは私の耳元のところに少し顔を近づけ、いつもより少し声の低い、力強い男の人の声で私に囁いた。
「俺は絶対小川の・・・美咲のそばにいる。美咲を幸せにしてみせる。あいつの・・・元カレのことも忘れさせてやる。もう、お前のつらそうな姿を見たくない。だから、俺のものになってくれ。俺は、お前のことが好きだ。」
私の頭の中に山岡さんの言葉だけが流れ込んでくる。
だも、今の私には答えられなかった。まだ、夏樹のことが好きだ。
でも、私が山岡さんに心惹かれているのもまた、事実だった。
答えられない私はただ山岡さんにしがみつくかのように背中に回した手に力を込めた。