長州女のリアル
最近流行の、転生とか異世界とかタイムスリップとか・・・・・・そういうの正直嫌いなんだよね。
だって現実には有り得ないじゃない。
まぁそんな事を言ったら、少女漫画も少年漫画も何もかも・・・・・・創作物はみんなそうか。
あんな恋愛は現実ではできないだろうし、やたら凄い技だって会得できるはずが無いもの。
なにか面白いことないかなぁ。
私は自他共に認めるリアリスト。
小説や漫画やお伽話の類は大嫌い。現実にありえない事に時間を割いて何が楽しいの?
そう思ってこの20年間を生きてきた。
そう、この日までは・・・・・・
私こと、高杉琴葉が生まれ育ったのは海が程近い街。何だっけ? 確か昔は長州とか言う名前だったはず。県外からうちの大学に来た歴女とかいう人種たちは、長州の誰某が良いだの何だのって騒いでいるけど、正直良さが分からない。私の苗字が高杉だからって色々と尋ねられても困るのよ! 地元の事だけど興味は無いからよく分からないもの。だって昔の事を覚えても無意味でしょ? どうやったって過去には戻れないのだから。そんな事よりも明日の試験勉強に時間を割くほうが利口よね。
そんな訳で、リアリストな私は地元で一番の大学に通い、安泰コースまっしぐら。将来は地元で公務員でもやれれば良いと思ってる。地元の高校、大学と進み地元に就職する。つまらない人生と言う人は多いけど、これって最高なのよ。堅実に生きることこそが大事なの。今遊んでるような子達はきっと、後で後悔するの。あの時勉強しておけば良かったって。
この日は大学から帰宅するなり、お母様に呼ばれた。うちは少し複雑でね。かなりの名家だそうなのだけど・・・・・・あいにく私はお母様の子ではないの。正妻の子ではなく、所謂お妾さんの子。妾腹って奴よ。うちの先祖たちも相当遊んでいたらしいけど、何もそんなところまで遺伝しなくても良いじゃない。代々、妾が居て私みたいな子供も居て・・・・・・本当にろくでもない血が流れているものね。名家だなんて名ばかりなもの。本当に嫌気がさす。
そう、お母様の用事というのがまた嫌な事ばかりでね。明日が試験だって分かっていて言っているのよ、きっと。うちの蔵の掃除をしろなんて・・・・・・有り得ないでしょう? そんなもの使用人にさせなさいよ! お母様にとっては私は使用人のようなものだから仕方が無いのかもしれないけど。さっさと終わらせて勉強しなくちゃ。面倒だけど、私は蔵へと向かった。
蔵の中はひんやりとした冷たい空気。真夏なのが嘘みたい。そもそも、こんなところを掃除って・・・・・・何をしたら良いの? 本当に嫌になる。この蔵には相当な値打ち品があるらしい。仕方が無いからそれらを見て時間を潰して出よう。そう思った。
奥の方へ行くと、そこは真っ暗闇だ。そんな中一筋の光を見つける。何だろうと近づくと、それは刀のようなものだった。
「日本刀?」
私は刀を手に取る。ただの刀のように見えるが、それは青白く光っているように見えた。いや、刀が光るわけなんて無い。目の錯覚・・・・・・もしくは夢だろう。そうに違いない。非現実的なことはたとえ目の当たりにしていても信じはしない。
私はゆっくりと刀を鞘から抜いた。この発光の正体が分かるような気がしたからだ。何か発光するような塗料が塗ってあるに違いない。そう思った。
「なに・・・・・・これ」
刀を抜いた瞬間に訪れる眩しい光。頭の中に流れてくる不思議な映像。
「これは・・・・・・侍?」
見知らぬ男がこの刀を手入れしている映像。三味線を優雅に弾きながら綺麗な女性たちとお酒を酌み交わす映像。大砲に、軍艦に、鉄砲に・・・・・・彼に関わる多くの人に。まるでこの刀が自分の思い出を語っているかのようだ。
そこまで映像を見たところで、突然の頭痛に見舞われる。耐え切れず頭を抱え、刀とともに倒れこむ。
「やっと・・・・・・思い出したのか」
「何・・・・・・を?」
頭の中に流れる声に反応をしたかどうか不確かなまま、私は意識を失った。