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A tale begins to move 「一目惚れ」

舞台設定④「研究区画」

学園都市中央部に位置する浮島で、姫川の中で最初に建造された建物だと言われている。円形の地形に全長572mの円柱形のビルがある以外何も無く、中に人が住んでいるのかさえも分からない。が、屋上にヘリポートがあるので誰かしらいることは確かだとされている。

 サブテレで起きた騒動は学生警備隊が出動するほどの騒ぎになってしまったうえ,一時は刃傷沙汰になりかけたが、厳重注意だけで済まされたのは幸運だった。

 ぶっちゃけサイレンが聞こえたとき、もう終わったと思ったなぁ・・・・・・まあ、俺より先に仁と、須藤さんが怒られたから心の準備はできたけど。

 そして、それ以上に学園のマドンナ兼次期学生会会長が警備隊に引きずられて店に連れ戻されてくるというシュールな展開に戦慄したほうが印象的だった


 と、まあそんなこんなでサブテレを出た俺たちは、今日は解散しようということで、現在、学生街のメインストリートを帰宅中。昼間は賑やかなこの通りも、さすがに夜は昼間に比べ人の通りは少なくなっていて、閑散としていた。

 夜風が頬をなぞり、思わず体が震える


「うっ、4月とはいえこんな時間だと、さすがに寒いな」

「おおうっ、ほんまや。背中がぽかぽかなのに前はごっつ寒いな~」

「zzz~~~」

「・・・・・・いいよなー酒で体ポカポカなうえ爆睡なんて、こっちは説教でクタクタなのによ」

「ほんまや、なんでワイらだけこってり絞られなあかんねん」

「お前の場合は因果応報だろ、むしろ俺は被害者だぞ」

「まぁ、うん。そうなんやけど」


 ガックシと、目に見えて仁は肩を落とす。

 4月の学園都市は昼間なら薄着でもいいが、夜になるとパーカーが必要なくらい寒くなる。そんな中、俺は黒のデニムに手を突っ込んで寒さに耐え、仁は眠りこけた美夏をおぶってとぼとぼと歩いているわけなのだが


「それにしても、明日で俺と仁が最初に美夏と出会ってからちょうど1年経つのかぁ」

「おお。なんか、めっちゃ早かったの~」

「あぁ」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・」

「そいや、恭弥はなんかお祝いなんかするんか?たしか、明日って休みやったし」

「そうだな。なんかしら用意しようかな~、と思ったけど」

「zzz~~~~♪」

「こいつの明日の体調しだいかな」

「せやな、最悪二日酔いしとるかもしれへんし」

「ったく、お前もなんでこんな面倒なことしたんだよ」

「ん~~?そりゃ、美夏に酒盛ったらおもろくなりそうやし。あとは、恋する奥手な友達の背中を後押ししたった、ってとこかの」

「はぁ?」

「ま、つまるところ企業秘密や」


 仁ってたまにこういう隠し事するんだよな。特に美夏と出会ってからは回数が増えた気がするし。

ま、仁が胡散臭いのはいつものことだしあまり気にしなくてもいいかな

 なんてことのない些細なことを話しながら話していると、気づけば俺たちの学生寮のある西通りと、学生街の境付近に来た。


「おっと、そろそろお別れかの」

「そうだな。女子寮はここを真っ直ぐ行くんだよな」

「ええよな~男子寮はそこ曲がってすぐやん。ワイはあと、1km弱おんぶするんやで・・・・・・まったく、可哀想と思わんのか!」

「全然、まったく、これっぽちも思わないな」

「やっぱな~」


 仁が美夏の体勢を整えなおして、器用にもおぶったまま手を振る


「ほな、またな~。あ、そうそう。もしかすると、曲がり角から女の子が飛び出してくるかもしれへんからタイミングはかって抱きとめられるように注意しながら帰るんやで~」

「そんな神がかった偶然なんて起きるわけないから安心しろ。それに飛び出すと言ったら、通学途中に食パン銜えたくせになぜか『遅刻遅刻~』ってしゃべってるほうの女の子だろ」

「あはは!それもそうやな。そんじゃ、いきなり銃突きつけてぶっ放してくる女の子と、エンカウントするかもしれへんから注意するんやで~」

「いや、もっとありえねえだろ」

「わからんで~もしかしたら起こるかもしれへんで」

「はいはい、じゃ、さいなら」

「さいなら、さいなら~」


 美夏をおぶりながら歩いていく仁を見送る。だんだんと仁の背中が小さくなっていく。

と、ふと気づく。あれ、美夏が起きたのかな?なんか背中が動いてる・・・・・・おお、暴れだした暴れだした。完全に起きたなこりゃ。あ、今赤い光が――――――――

 どこか、聞きなじんだ打撃音が2度、3度響き渡り、そして西通りは静かになった。


「仁・・・・・・」


 おそらく、今朝の俺と同じ末路を辿ったであろう友人に心の中で合掌しつつ、俺も帰路につく。

 現在、21:36





「っぁ・・・・・・はぁはぁ・・・・・・しっつこいな~」


 人の姿が無くなった夜の西通り、学生寮付近。まばらに設置された電灯では通り全体を十分に照らすことはなく、夜になると視界は極端に悪くなる。

 そんな西通り、本来は夜の闇が覆いつくしているはずのこの通りに、今夜は一筋の色が映っていた。

かすかに煌く金色だった。その金色は髪だった。姫川第2高校の学生服を着て、息を切らして走っている女の子。肩にかかるほどの、軽くウェーブのかかったボブカットの金髪は土埃で煤け、カーディガンや真っ白なシャツは所々擦り切れている。滝のように流れる汗は地面に滴るが気にしている素振りも見せず、気づけば肌はベトベト。

 それでも、

 

―――――――タタタタタッ


「うっ!?もう近づいてきてる・・・・・・はぁ、逃げなきゃ」


 常人以上に敏感な彼女の耳は500m離れたところにいる人の足音も正確に聞き取れるほどだ。少女は一度は止めた足に叱咤を打ち、溜息を吐きながらも再び歩みを進める。

 そして走りだす。目的もなく、行く当てもなく、ただ逃げるために


「もう、あんなとこに帰るもんか・・・・・・」

「・・・お願い・・・・・・誰か・・・・・・誰か助けて――――――」


届くはずないと分かっていながらも、少女は助けを求める。

 終わりのない暗闇の中に、一筋の光を求めるように、少女―――――ヒメル・フリードブルクは走る。





「ん!!はぁ~~、今日は一段と濃い一日だったな」


 のびをして、真っ暗な西通りを歩きながら、今日のことを思い出す。


「朝は美夏に突撃されて気絶したから、朝飯と昼めしを食いっぱぐれるし、

目が覚めたら仁のせいでエロゲーが全滅したうえ、また気絶するし、

きわめつきは学園のマドンナに目をつけられるし。ってか俺、今日だけで5年分のイベントを回収したんじゃね」


 思い出すだけでげんなりしてきた。間違いなく今日は厄日だな。その上テストも迫ってきてるときた・・・・・・はぁ、なんかもういいや。このままだと鬱になりかねん


「まあ、こんな濃密な一日だったんだ。もうなにか起こることはないだろ」


 とりあえず、今日は帰ったら勉強しなきゃな。テストも近いし。さて、まず家に帰ったら風呂入れて、その後は――――って、家ってたしか


「ドア、吹っ飛ばされたんだっけ・・・・・・はぁ、明日修理出さないとな。しっかしドア壊すのは2回目だからなぁ。大家さん、なんて言うか」


 青筋立てながらニコニコ笑う妙齢の女性を思い出し、冷や汗が垂れる。そして再びゲンナリ。

 なんか俺って、かなり不幸なのでは?。


「ま、まあ明日は仁たちと遊ばなければいい話だ。うん、今日大変だったのは仁が居たからだな。あいつがいなきゃ平穏なはずだ。間違いない。っと――――ん?」


 メールだ。スマートフォンをタッチして内容を確認―――っげ、仁からだ


「『美夏が忘れもんしたらしくてな、今から取り行くわ』ってうわ~、また来るのか・・・・・・あれ?なんかデジャビュ」


 仁はこっちが困っているときにやってくる天才。また何かめんどくさいことになる可能性は高いだろう・・・・・・とはいえ、今日が終わるまであと、2時間弱。そこまでとんでもないことにはならないだろう・・・・・・たぶん、きっと

 まずは家に帰ることが先だ。足を動かし、歩みを進めなおす。もう家は見えてるんだ。さっさとかえ―――――




――――――ドンッ




「うおっと!!」

「ひゃわっ!!」


 突然、路地裏から何かが突っ込んできた。

 いきなりのことに反応することができず、押されるがままに地面にしりもちをついてしまう。そして突っ込んできたものは腕にすっぽりと納まって、ちょうど抱き合うような形に


「いってててて・・・・・・なんだ? 一体」

「うぅ~・・・・・・」


 視界が金色に染められる。ほのかに香る甘い匂い、顔にかかる絹糸のような滑らかな感触。これ、もしかして髪か?それに、何か腹に柔らかいものが押し付けられているような気が。

女の子ということを認識する・・・・・・なんで女の子ってこんないい匂いなんだろ、それにこの柔らかいものって多分―――って、ま、まずいだろ!この状況

 女の子と抱き合っているという状況に気付き、すぐさま腕を開放する・・・・・・が、女の子は俺から離れず、跨ったまま不思議そうに見つめる。


「ご、ごめん」

「どうして謝るの?それはこっちのセリフだよ」


 よかった~抱きしめたことについては気にしてないみたいだ。もしここで叫ばれたら社会的に終わっていたな、そう思い、ほっと胸をなでおろす。

 ただ、女の子は俺に馬乗りしているから油断はならないが、少し余裕がうまれたのか、改めて、腹の上の存在を確認する。

 こんな暗闇だったからか、はたまた俺が鈍かったからか、お腹の上にまたがっている存在を認めるのに数秒かかったが、やっと視界に姿を認めたとき、思わず思考が停止した。お腹の上から「あの~大丈夫?」と声をかけられるが、返事をすることもできず、ただ絶句してしまった。


 ベージュのカーディガンに、白いTシャツ、濃紺のミニスカートと、紺のソックス。多少着崩しているとはいえ、一般的な学生服だった。赤色の大きなリボンが金色の髪にアクセントを加えている。

 電灯に照らされた腕は白磁のようで、触ることすら躊躇われる。それと小さい顔にはサファイアのように蒼く大きな眼。

 そして、二つ結びでまとめられた金色の髪は光を反射して、煌いていた。

 一見すると人形と見間違えてしまうような人間離れした美しさ――――――というより可愛らしさを持つこの少女に、不覚にも見惚れてしまった・・・・・・年は俺と同じか、ちょっと下くらいか。こんな子、学校にいたかな?


「あの!ホントに大丈夫?」

「・・・・・・っあ!ご、ゴメン。なんかボーっとしてた」

「よ、よかった~~頭打ったのかと思って冷や冷やしたよ」


 胸をなでおろす、ただそれだけの動作でも魅力的に見えてしまう。

とはいえ、跨っているってことは、その・・・・・・い、色々あたっているわけで、って、なんか意識したら余計に恥ずかしくなってきた!!

 これ以上は、精神衛生上よろしくないということで残念ながら退いてもらうことにする。


「とりあえず、降りてくれないか。う、動けないんだが」

「ああ、そうだったね。今退くよ――――ってヤバッ!!」


 いままでのんびりした調子の少女だったのに、突然、俊敏に立ち上がり、目を細め、辺りを見渡しはじめた。

 俺も埃を落としながら立ち上がって、つられるように見渡す・・・・・・が、当然何も見えない


「きみ、一体どこを見て――――――」

「四方、異常なし。上方も・・・・・・異常なし、っと。ふい~なんとか撒けてたかな」

「撒く?」

「君には迷惑かけちゃったね。ゴメン」

「い、いやぁそんな気にしなくていいぞ。怪我もしてないし」

「そう言ってくれると助かるかも」


 そう言って微笑みかける少女に一瞬、ドキッとするが、ぶんぶん頭を振って雑念を振り払う。

 いま大事なのは、この少女が何者かってことだ。素性、目的、敵意が有るか無いかも確認する必要がある・・・・・・まあ、少なくとも敵意は無いと思うが。この子と少し話してみようか。

 とりあえず、自己紹介からはじめる


「俺の名前は神林恭弥。姫川第二高校の2年だ。君の名前を聞いてもいいか?」

「ん?いいよ。ヒメルの名前はヒメル・フリードブルク。お姉ちゃんがいるからヒメルって呼んでね」

「ああ。じゃあ、ヒメル。何か焦ってたみたいだけど、詳しく話してくれるか?」

「う・・・・・・」

「まあ、話してくれる範囲でいいさ。じゃあ・・・・・・まず、ヒメルはどこから来たんだ?」

「ヒメル?ヒメルは研究区画からきたよ」

「け、研究区画?!」

「うわっ!どうしたの、いきなり素っ頓狂な声なんかだして。そんなにおかしいかな?」

「いや、おかしいというか・・・・・・」


 この学園における研究区画という場所は、バミューダトライアングルのようないわゆる、「いわく」つきの場所として学生には認知されている。


 曰く、一度入ったら2度と出てこれない

 曰く、実験によって生みだされた怪物が跋扈している

 曰く、学園どころか世界最強のD・PRG使いがいる


などなど結構眉唾な内容も多いが「研究区画は危険」というのが学生達の共通認識となっている。

当然そんな所に人が住んでいるなんて聞いたこと無いし、ましてやこんな可愛い女の子。

 そんなこと信じられるはずもない。


「どしたの?そんな難しい顔して」

「いや、なんでもないよ・・・・・・それじゃ質問を変えるけど、何か急いでたみたいだけど一体?」

「うん、さっきまで追われてたけどもう撒いたみたいだから平気かな」

「追われてる?一体誰に?」

「う~ん・・・・・・悪魔みたいな怪物かな?」

「あ、悪魔ぁ?怪物?!」


 ま、まさか噂は本当だったのか・・・・・・!!ってことは彼女はその怪物から逃げていたってことなのか?

 改めて彼女の服装をよく見る。一見すると綺麗な制服だが、細かいがところどころ破けているし、金髪も心なしかくすんで見えないことも無い。

 たぶん、嘘じゃないんだろうな―――――でも、そしたら一介の学生である俺に出来ることなんて無いし


「その、警備隊に助けてもらったりしないのか」

「うん。そう思って警備隊の詰め所に行ったんだけど、何でも学生街の喫茶店で事件があったらしくて受付の人しかいなくて・・・・・・その受付の人もすぐ出かけちゃって」

「えっ?」

「だからヒメルは途方も無く彷徨いながら逃げて、今ここで君と会ったの」

「そ、それは大変だったなー」


 お、俺たちのせいだ―――――!!あんなくだらない事件のせいで女の子が命の危機に立たされるとは・・・・・・うう、良心の呵責が

 な、ならせめて罪滅ぼし程度になにかできることをしよう


「その、どこか逃げる当てとかあるのか?俺、この町に住んで長いから大抵の場所は案内できるぞ」

「え?い、いや、気持ちはうれしいけど、そんな迷惑かけちゃうし。いいよ。私だけでどうにかするから」

「でも今、追われてるんだろ?」

「大丈夫だって!さっきまでこの近くに居たけど、いまは反応がなくなったから。もう諦めたと思うし」

「・・・・・・ちょっとまて、さっきってことは俺とぶつかった時まで逃げてたってことだよな」



「うん。西通り入って、ちょっと逃げてて、急にいなくなったの」



「――――――――!!」


 まずい、非常にまずいかもしれない。とりあえず、俺もプログラムを作動しておくか。

 最近プログラム演習で音を消すプログラムについて学んだからこそ、この可能性をできたのかもしれない。急いで逃げる準備を始める。

 学校支給のスマートフォンにインストールされてる身体強化のプログラムを起動。特に脚力を強化する。

そして、あの少女――フリードブルクの腕を強引に掴み、半ば引きずるように走り出した。


「逃げるぞ、フリードブルク!!」

「うぇっ!?と、突然どうしたの?」

「プログラムの中には姿や音を消すプログラムがある。それを応用すれば、一時的にステルス化することも可能なんだ!」

「そ、そうなの・・・・・・?」

「まあ、先生が言ってたことなんだが」


 とたんに、フリードブルクの顔が青ざめる。


「そ、それじゃ、ヒメル捕まっちゃうの?」

「大丈夫、とりあえず人通りの多い所に出れば―――」




「させません」



「「!?」」


 突然、目の前に何かが現れた。暗くてよく見えないが・・・・・・隣の少女の怯え方からして、今、目の前にいるのが『怪物』なのだろう。

 その怪物は再び話し出す


「ようやく見つけました。観念してください、ヒメル」

「ひぅっ!?」

「さぁ、研究所に帰りましょう」

「い、いや!!」

「主任や、みなさんが心配していますよ」

「う、嘘だ!!いっつもヒメルを狭い部屋に閉じ込めて、実験動物みたいにしてたもん」

「それは実験のときだけでしょう?それ以外の時間はむしろ――――――」

「と、とにかく!!ヒメルはもう研究所には戻らないから!!」

「ヒメル・・・・・・今は時間がありません。だったら力ずくで連れて帰るのみです!」


 ・・・・・・えーと、これが、怪物なのか?どちらかというと妹を心配するお姉さんみたいだな。

 それに暗闇のせいで姿形は見えないとはいえ、声からして、女の子みたいだし。

 まあ、よかった。少なくともクトゥルフの邪神みたいな奴じゃないなら直視しても平気だろう・・・・・・あ、いや。声だけ女の子で容姿はゲテモノというパターンもあるのでは?うん、やはり―――

 なんて疑問が渦巻いてたが、唐突に、疑問が晴れることとなる。


「覚悟はできましたか?」

「もちろん!!逃げきってやるんだから」

「・・・・・・」

「そこのあなたもですよ」

「え!なんで?」

「本来、私たちは人目に触れてはいけないのです。ですが、あなたはヒメルだけでなく私とも接触してしまった。消すしか方法はありません」

「ま、待てよ!いきなり消すってそんなの納得できるか」


 つい数分前に出会って会話をしただけで死ぬなんて納得出来っこない。当たり前だ


「安心してください。記憶を、こう~ちょこっと弄るだけですから」

「安心できるか!!」

「あ~も~うっさいですね。ともかく2人仲良くさっさと捕まってください」


 怪物はゆっくり近づく。

 一歩一歩踏み出すたびに、街灯が怪物の姿を照らしていく。

 まずは、下半身。スニーカーは見えたが、ズボンやスカートの類は見られず、代わりに純白のコートのようなものの裾が覗く。


 ――――――よかった。足があるってことは少なくとも幽霊ではないな。


 次に上半身が見えてくる。そのことで服の全貌が明らかになる。比較的大きめのボタンに簡素なつくりの白いコート、研究者や病院でよく見る白衣と呼ばれるものだった。


 ――――――白衣か。服を着てるってことなら、まず人類で間違いないだろう・・・・・・いや、元人類という可能性もあるかもしれないが


 最後に、ゆっくりと、その顔が照らされていき、ついに全身を見えたとき――――――俺は、先ほどのフリードブルグ以上の、いや、下手すれば人生で最大級の衝撃を受けた。


 その姿は少女だった。身長はフリードブルクと同じか少し下くらいか。たぶん年も同じくらいだろう。そして、何よりも衝撃を与えたのはその容姿。

 腰まで届く、青空のような澄んだ蒼髪は特に結われることも無く、風に流されている。真っ直ぐこちらを見据えるのはフリードブルク同様、サファイアのような青い瞳。だが、少しつりあがっているあたり、フリードブルクとは異なり敵意のようなものが窺える。

 そしてなにより、そのスタイル。白衣を着ているからはっきりとはいえないが恐らく


 貧☆乳


 おっと、興奮して星なんか使ってしまった、自重自重。

 

 まあ、ともかく何でここまで興奮するのか。昼間の仁の会話を思い出して欲しいのだが、


――――――『腰まで届く薄い蒼髪に、青い眼。貧乳で背が低くて頭が良いうえひねくれているけど、寝顔が可愛い年下の女の子』が好きなんよな――――――


 つまるところそういうことだ。まあ、早い話。彼女は俺のストライクゾーン、ドストライクの女の子で俺は不覚にもたぶん一目惚れしてしまったんだ


「ってなんで説明口調で思考してんだ、俺」

「「?」」

「いや、こっちの話だ」


まあ、ともかく。

一目惚れしようと、今の彼女は俺たちの敵だ。―――この現状をどうにかしなければな。ゆっくりと、しかし確実に思考を加速させていく。

そして、魔法の言葉をポツリとつぶやく


「―――――D・PRG、起動」


現在、時刻は21:42

神林恭弥の物語はようやく動き出す。


期末試験の真っ只中なので投稿日をど忘れていましたが、何とか思い出しました。・・・・・・そして今回は新キャラが2人ほど出てきましたが、その中の白衣の方、そう、彼女こそがメインヒロインです。

7月4日から投稿を始め、約3週間後の第5話にてようやくメインヒロインの登場です。これから彼女と恭弥たちとの絡みも書けるようになるので、楽しみにいただけたら思います。では、次回は1週間後の8月5日です。

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