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青柳事件 第3幕

仁の最強の技が登場です。説明の通り、箱を投影するのではなく箱型に空間を切り取る技術のため、全く異質なプログラムとなっています。その分副作用や反動も強いのですが。


 姫川記念病院第5病棟ビル、1階エントランスは異様な雰囲気に包まれていた。

 立ち尽くす科学者・青柳時子と身動きの取れない2人のVenus、気絶している須藤さんとその傍らに立っている仁さん。そしてVenusの四肢で鈍く光っている禍々しい赤い箱。

仁さんが口を開く。


「結界は偶然見つけたもんやった。せやからコレの正体は全っ然わからへん」

「正体がわからない、ですか?」

「ああ。プログラムのソースコードはあるんやけで、どう頑張っても中身を開けへんし、D・PRGを起動してもウンともスンともなんよ」

「その話が本当だとして、では、コレはどのようにして投影したのですか?」

「・・・・・・それは・・・・・・」


 歯切れの悪い言い方。言いたくない、ということでしょうか?


「今は聞きません。ただ、その投影・・・・・・なかなか興味深いので後で解析してもいいですか?」

「ああ・・・・・・ええで・・・まあ、解析したとこで、何も、わからんとおもう、け、ど」

「・・・・・・仁さん?」


何か様子がおかしい。こちらが優勢なはずなのに仁さんの顔は全く余裕そうでない。いや、むしろ辛そう?

 呼吸は荒く、額には汗が滲み、顔色は蒼白い。そして、よく見ると仁さんの足元にはぽた、ぽたと水音が聴こえる。視線を下げてみてみると、赤いシミが幾つかできていた――――――これって、まさか

小声で仁さんに尋ねる


「(仁さん)」

「(ええか、メア。あいつ等に悟られるな)」

「(は、はい)」

「(青柳も不審にこっちを見とる、なんか注意を逸らしてくれや)」

「(わ、分かりました。やってみます)」


「仁さん、すこし気になった点があるのですが」

「なんや?」

「そのプログラムが投影の1種だとすると、投影先に物体があった場合はシステムエラーが出るはずですが、なぜVenusの腕に投影出来ているのですか?」

「ああ、安全装置セーフティーの事か」

「はい」


 学園都市全域には『怪我をしない為』と言う事で様々なプログラムが張り巡らされている。

 安全装置セーフティーもその一種で、特に投影系のプログラムに対して発動するプログラムだ。例えば、剣を投影しても刃入れされてない状態だったり、物体の投影だったら投影先に物があるとエラーが出て投影に失敗するなどがある

 だから、箱を投影したら失敗するはずですが・・・・・・


「・・・・・・直感的に分かるってだけやし、理屈はわからへん。けど1つ言える事がある。これは物体やない、『境目』が視認できるようになっただけのもんなんや」

「え?」

「あの結界の中はこことは別の世界なんや。よく聞くやろ、『平行世界』とか『ブレーンワールド』とか『異次元空間』ってやつや」

「・・・・・・?」

「異質な世界同士を結びつける投影物、せやからワイはこれを『結界』ちゅうふうに呼んどるのや」

「それは・・・・・・量子力学的な話で・・・?」

「ちゃうって。そないなメンドイ理屈なんてしらん。ただ、直感的に分かるってだけや」

「か、軽いSFですね。まさか生きてる間に異世界を垣間見れるとは思っても見ませんでした」

「・・・・・・メア、信じるんか?」

「信じるも何も今目の前で起こっている現実ですからね。受け入れるしかありません」

「・・・・・・そか」


 この短い期間だけでも仁さんという人間がこのような場面で嘘をつくような人でないということがわかります。それに

 と――――


「・・・・・・くくっ・・・・・は、ははは・・・はははははははは!!!!!」


 突然、狂ったかのように青柳が笑いはじめた。焦点の定まらない眼が小刻みに震え、千鳥足で仁くんに歩いてくる。

 ゆっくりとした歩調なのに、有無を言わせぬ異様な狂気に体が固まって動けない


「はは・・・・・・感情に呼応するプログラム・・・・・・それは・・・まさしく・・・・・・さあ、解剖して・・・脳を・・・・・・」

「メア構えろ!!」

「っあ!!!」


 仁さんの言葉にハッと我に帰った。仁さんは怒鳴るように私に言った


「『結界』の反動でワイは指一本動けせへん!今戦えるんはメアだけや!!」

「は、はい!!」


 空中にホログラムを出してデスクトップ画面からD・PRG開発環境LinkGebetMear、通称LGMを起動する。画面いっぱいに英語が映し出された中で、迷うことなくプログラムを選択し開く。

そして、デバックボタンを押し正常起動する音声と共に、蒼色の光を帯びた銃が投影される。


「M1911A1!」


 軍用自動拳銃、コルトガバメント。

拳銃ゆえに装弾数が7発と決まっているが銃弾を弾倉のなかに直接投影することで、自動で何発も撃てるように設計してあるのが、私の銃の特徴だ。

 まあ、それはともかくゾンビのように仁さんににじり寄る青柳に向け――――引き金を引く


「うるさい!!!」

「な・・・・・・!!手で止めた!?」


 こちらをチラリとも見ず、仁君に一直線だ。今度は3、4発と次々と撃つが一発も当たらない。なにか見えない壁に遮られているようにも見える。

 ど、どうして・・・・・・なんで当たらないの!?

 ワケが分からなくなって、撃つのを止めた。すると青柳も止まりギョロリと目玉だけをこちらに向ける。

 

「・・・・・・全く。大人しくしてくれないかな?メア・フリードブルク」

「そ、そういうわけには行きません。私の目標はあなたを捕まえること。ここで見逃しては学園都市どころか、世界中の人々が危険に晒されてしまうのですから」

「あははっ! 人々を危険に晒す? どうして!! 私が!! そんな無意味な事を!?」

「無意味って・・・・・・わ、忘れたのですか!?あなたは100名以上の人々を殺したのですよ!?そんな人間が危険じゃないわけ―――」

「あ~~っ、それって学園都市を追い出された頃だったっけ。いや~懐かしいね、4年くらい前のことだったなぁ・・・・・・でも、そんなことどうでもいいだろう?」

「なっ!?―――どういう意味ですか!?」

「そうカッカしなさんな。せっかくの美人が台無しだよ?」

「うるさいです!!―――――とにかく今重要なのは、国際指名手配されているあなたがここにいるということ!そして私はあなたを捕まえるということです!!」


 ダンッ―――!!

 銃声が響く。ケタケタと笑う青柳に本能的に嫌悪を抱く。

鳥肌が立って言い様の無い不快感を振り払うように、再度引き金を引いたが、その体に届かなかった。

 ・・・・・・やはり何か障壁のようなものがある?遠距離からの攻撃が通じないなら多角的にアプローチをしていきましょうか。ただ仁さんから引き離さなければいけませんね。まずは牽制しましょうか。

ある程度の方針は決まった。後は実行するだけです。幸いにも今青柳の注意はこっちに向いている。チャンスです。


「ハァ・・・・・・そんなに死にたいのかい。ならお前から殺してやろう!!蒼き銃姫!!!」

「あなたを倒す。絶対に!!」



☆美夏、ヒメル



「ヒメル疲れた?」

「ちょ、ちょっとだけ~。でも、大丈夫だから。早く行こう」

「うん。確かさっき見た見取り図じゃ非常階段はこの近くにあるのよね」

「えっと・・・・・・そうだね。そこの休憩スペースってとこに非常口があるよ」

「わかったわ。さ、急ぎましょう」


 再び走り出した。さすがに仲間がやられたから私達の存在に気付いたのか、5階から6階につながる階段は破壊されていた。

なら、非常階段で6階に行こうと思い、階段がある休憩スペースを通らなければいけなかったので急いで目指しているけど、気付かれたって事は当然、そこにはさっきみたいな見張りがいると考えられわね。


「ヒメル、場所は?」

「・・・・・この通路を真っ直ぐ進んで突き当たりの部屋。他の部屋に比べてだいぶ広いよ。―――――あっ!!」

「・・・・・・誰か、いたのね」

「う、うん」


予想どおりね。さて、ちょうどその部屋に着いたみたいだし覚悟決めてさっさと部屋に入りますか。

 半開きのスライドドアを開ける。錆付いたドアはなかなかに開け辛かったが全て開けたところで部屋に入った。

5階、休憩スペース。

照明は点いてなかったが、月明かりが差し込んで大体の様子は把握できた。

教室くらいの大きさの部屋には、壊れた自動販売機が数台と、破れて綿が飛び出たソファがいくつか置いてあるだけの何もない部屋だった。

 そして部屋の中心に佇む1つの影。警戒しながら部屋に入った。


「あなたは、誰かしら」

「―――――」


――――ヒュンッ


「ひゃわっ!!」

「っ!?」


 風切音と共に耳元に何かが掠めた。耳に一筋の赤い線ができ、じわりと熱い液体が滲み出る。

ちらりと横目で壁に刺さったそれを見ると・・・・・・苦無くないだった。

 

「ヒメル、この部屋から出て!」

「い、言われなくてももう退散してるよ~」


 ドアから顔だけを出してヒメルが答えた。

ってよく見ると床に積もったホコリが綺麗に掃除されてるわね。たぶんさっきの不意打ちで腰を抜かして這いずっていたのかしら

その姿を想像すると噴き出しそうになった。けど、敵もそんな暇はくれないみたいね。右手に何かを持っていた。おそらく苦無ね。


「ヒメル、アイツはなにか言ってる?」

「え、えっと・・・・・・何も言ってないのかな。全然伝わってこない」

「心が読めるんじゃないの?」

「違うよ!?ヒメルは『伝えたい』って言葉が聞こえるってだけで、何も言いたくない人は何言ってるか分からないから!」

「そーなの」


 喋りたくないってことは会話で無駄な情報を与えたくないということ。つまり警戒していることになるわ。彼女はさっきのベータと違って慎重みたいね。そういう相手では私も警戒しなくちゃいけないわね。

 改めて気を引き締めて、構える。


「・・・・・・」

「――――――」


 だんだん周りの音が聞こえなくなってきた。集中していく事で次第に相手の行動を予想していくように体が切り替わっていく


「(右手のグリップが甘い。苦無はまだ投げてこないわね。いや、もしくは牽制?)」

「――――、――――」

「(全く、サングラスで視線が読めないわ。コレじゃ目線から軌道予想するにしても精度が落ちちゃうな。ならいっそこちらから仕掛けてみるとか?)」

「――――――」

「(いや、止めときましょう。相手の実力が未知数だし、あの感じだと少なくともベータ以上といっていいほどの相手。下手に動かないほうがいいわね)」

「―――――」

「(けどこのままじゃジリ貧になるだけね。なんとか打開できるものかしら)」

「―――、―――」

「(ああ!!も~どうすればいいのよ!!はっまさか狙いは時間稼ぎ?)」

「―――――」

「(く!早く、行かなきゃ!!恭弥を助けな――――)」

「美夏!!」

「へっ―――」

「どうしたの?すごく焦ってる」

「あ、焦ってなんか・・・・・・」


 ハッと我にかえった。昔、パパに言われたっけ『焦りは判断を鈍らせる。心が不安定な時こそ、落ち着き、心を沈めるんだ』だっけ。そうね・・・・・・私、焦ってたかも


「す―――・・・は―――」

「――――?」

「み、美夏?」


 胸を大きく張って、腕を伸ばして深呼吸した。

ヒメルが不思議そうな目で見てくる。そしてあの子は神妙な面持ちで私を見てくる。まるで何かの罠なんじゃないかって目だ。

 まあ、おかげさまで頭がスッキリしてだいぶリラックスしてきたわ。


「恭弥が一番優先することは変わらないわ。でもそれで私が焦っちゃ意味無いでしょう」

「―――」



 落ち着け・・・・・・落ち着くのよ、私。実力未知数の相手。遠距離用攻撃を兼ね備えたVenus。最善の一手を考えるな、安全な一手を取ることを考えるのよ。

 迎撃可能な自分の間合いで、敵にアクションを起こす。考えついた時には体が自然と動いていた


「――――虚空の感」


 背筋を伸ばし、肩幅に足を開き、歩幅は一定に、ゆっくりと前進する。

 特に攻撃をするわけでもなく、目で追えない速さで移動しているわけでもない。ただ歩くだけ・・・・・・まあ、自分でも言うのもなんだが、まさしく罠だ。


「―――――」

「どうしたの?こないの?」

「――――」


 一歩、また一歩近づいていく。それでも彼女はまだ動かない。

 なるほど相当の心配性なのね。おそらく彼女は自分の攻撃が100%決まるような状況じゃないと攻撃したくないとみた。・・・・・・いや、もしくは


「来ないと私からいくわよ?」


 それでも動かない彼女。いい加減痺れを切らしてくれると思ったんだけどなぁ。まだ動かないってなると・・・・・・乗ってみますか


「じゃあ、くらいな―――」

「――――!!」

「み、美夏!!待って!!これ以上歩いちゃダメ!!!今あの子が―――」


 ――――――カチッ

スイッチが入る音と同時に、四方八方から刀、苦無、槍、火矢、火炎瓶、斧等々数え切れないほどの凶器が襲い掛かってきた。なるほど、今まで動かなかったのはこの罠の布石だったのね。

止めといわんばかりに吊天井が迫ってくる―――そして


「そうか、感圧式のトラップ―――」

「み、美夏―――っ!!?」


 ヒメルの声は爆音によってかき消され、美夏の姿は強烈な光の中に消えていった。


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