アタッカーズ
ここからが物語の中盤です。まだまだ続く予定ですが、どうぞお付き合いください
学園都市には歓楽街―――いわゆる風俗店が立ち並ぶエリアがある。住民の6割が未成年で構成されている姫川にとっては、ここは学生というよりも都市で働く大人に対して作られた一角らしい。そんな歓楽街の中でもあまり人が寄り付かないオフィスビルが立ち並ぶエリア、そこに堂々と佇む1棟の病院、ここがヒメルたちの目的地、『姫川記念病院第5病棟』だった。
「ここが青柳の拠点・・・・・・見たところ普通の病院やな」
「データベースによると、2年前に潰れた病院みたいですね」
「廃病院か。う~ん、お化けが出そうだね~」
「お、お化けですの!?」
「いるんじゃないかなー?」
「ええか?・・・・・・これから恭弥救出するのに青柳の拠点に仕掛ける訳やけど――――メア、体は平気か?」
「・・・・・・問題なく歩けるくらいには回復しました」
「戦えるか?」
「激しく動かない限りは、大丈夫かと」
「OKや。じゃあ、これから突入してからは連絡はとれなくなるかもしれへんからな。今のうちに作戦をもっかい確認するで」
全員が頷いて、仁君に注目する。ホログラムを展開して仁君が先ほど話した作戦をもう一度繰り返す・・・・・・
☆
「ワイらとメアの目的は違ごうとる。せやから二手に分かれようと思う」
メアから青柳の拠点を聞いた後、自然公園の噴水の近くに置かれた東屋の中で仁君が作戦を話し始めた。真っ先に食いついてきたのは美夏だ
「目的が違うってどういうこと?その、青柳って奴をぶっ飛ばすことが目的じゃないの?」
「せやな。ただし、それはあくまでメアの目的や。ワイらの目的はあくまで恭弥の救出であって別に青柳を倒す必要は無いっちゅうことや」
「・・・・・・つまり『青柳を倒す』チームと、『恭弥を助ける』チームに別れるってことですの?ですが、結局のところどちらのチームも青柳と接触する事になるのですから、チームとして分ける意味はあまり無いように思えますわ」
「あ?あ~なるほど、そうとったか」
腕を組んで首を傾げて、納得すると手を叩くと仁君が、愛さんに答えた。
「言葉が足りんかったな。青柳と接触するまでは全員で行動、その後青柳を捕まえるチームと恭弥を捜索するチームに別れるっちゅうことや。んで、可能性は低いけど青柳と恭弥が共に現れたら、全員で青柳を捕まえること。そういうことや」
「ああ、そういうことですの」
「ということは戦える人が青柳さんチームに行った方がいいですね・・・・・・って、あ!ちょっと待ってください!」
「先輩、どないした?なんかマズイとこがあったか?」
「いえ、そうじゃないですけど、青柳さんを捕まえるって事なら、隊長が応援してくれるかなと思いまして。今すぐ連絡しましょうか?」
「隊長――ってーと、警備隊の隊長か!!なるほど、確かにあの女がおったら千人力やな。じゃあ先輩、今すぐ連絡に行ってくれるか?」
「はい!」
そう言って十和田先輩はかもしかのようにスラっと伸びた、長く細い脚で走り去っていった。さすが警備隊、鍛えてるだけあってもう見えなくなっちゃた。・・・・・・って、普通に見送っちゃたけど、そういえば
「仁君、携帯に連絡すればいいんじゃないの?」
「実は、警備隊の隊長って奴はえらい機械オンチでの~。連絡機能を持つ携帯端末を一切持たないんや」
「ぇ・・・・・・」
メアが信じられない、というような目で仁君を見た。美夏と愛さんはもう知ってたみたいで「ああそういえば」って顔だった。
「そんな人が隊長を勤められるのですか?D・PRGがないと満足な戦闘も出来ないのでは?」
「その隊長曰く『D・PRG?そんなことしてるなら殴った方が早い』らしくての。実際D・PRGの武器を素手で壊したり、身体強化した美夏と生身でやりあったりと確かな実力があるもの確かなんや」
生身で美夏とやりあうって・・・・・・な、なんだかワイルドな人だな。でも、確かにそんな人が仲間だったら心強いかも
「そんじゃ、話を戻すか。さっそくやけど、ワイが勝手にチームを分けたから発表するで・・・・・・まず、対青柳組やけど、メア、ワイ、須藤の3人と十和田先輩と警備隊。恭弥救出組は美夏とヒメルの2人ってことでどうや?」
「・・・・・・一応理由を聞いてもよろしくて?」
仁君がすぐに答えた。
「そりゃ、さっき先輩が言ったとおりや。戦える奴が青柳組に、戦えない人間が恭弥組にしただけやけど」
「では、どうして美夏は恭弥さんの方ですの?美夏の戦闘力なら青柳組に行った方いいのでは?」
「犯罪者が人質を取ったのに、ノーマークにすると思うか?美夏の役割は恭弥の護衛を撃破することや。あとヒメルは恭弥の反応が分かるみたいやし、恭弥の捜索をするために入れた。それ以外は全面的にメアに協力、ってな具合でチーム分けしたんやけど」
「なるほど・・・・・・くっ私が恭弥さんを助けたかったのに・・・ブツブツ」
何か須藤さんが呟いているけど仁君はスルーして美夏たちに確認を取る。当然、美夏もメアも首肯して、「じゃあ」と仁君がサッと立ち上がる。これから犯罪者と立ち向かうのにその姿には興奮や震えを一切感じさせない、堂々としたものだった。
・・・・・・仁君たちってホント、すごいな。普通なら怖がるよね?それで警察に電話して、助けてもらうよね?絶対、自分達で行くなんて思わないもん
そして、サッとヒメルたちの顔を見渡して、真っ直ぐ通る声で言った。
「ミッション・・・・・・スタート!!」
☆
「という感じで作戦が決まったわけやな」
「そうね。恭弥が捕まっていて気が気でない中でも、確実に助ける為の最善の策をとったってところかしら」
「でも、今はその隊長さんが来てないから本拠地の前で待機ってことになってるんだよね。でも何時連絡がくるのかな?」
「さあの、そろそろ連絡が来てもええ頃なんやけ―――『SAN値!!ピンチ!!SAN値!!ピンチ!!』」
「な、なに!?」
なんだかとってもコミカルな曲が聞こえてきたよ!?それに、さんち?ピンチ?
「お、すまんの。ワイの携帯や」
「仁、アンタか!!ってか何よ。その曲は」
「え、知らんの。コレ、いま流行の邪神アニメのOPで、」
「知らないわよ!!あと、さっさと電話に出なさい!」
「というか、これから戦うというのにSAN値がピンチと連呼する曲を流さないで欲しいのですが。精神衛生上よろしくありません」
珍しいね。あのメアがツッコミを入れるなんて・・・・・・ところで、さんちって一体何なんだろう
「ヒメルは知らなくていいことです」
「・・・・・・あう」
しゃべる前にツッコミまれちゃった。たぶん顔に出てたんだと思う
「ふむ、ふむ。なるほど・・・・・・それで?・・・・・・そうか」
「電話の相手って、たぶん先輩だよね」
「十中八九そうでしょう。大方隊長さんと合流できたって話でしょう―――そろそろ、ですね」
「そうね。じゃあ―――「はあ!?な、なんやと!?」」
とつぜん、仁君が大声を上げた。「えっ?」と振り返ると仁君がすごく焦っていた・・・・・・さっきまでクールに振舞っていたのにいきなりこうなるなんて。一体・・・・・・
とおもっていたら、
「ああ・・・それで・・・・・・なるほど、ほな、先輩は連中に付いていってください」
「・・・・・仁さん?」
「どうしたの?なんだか様子がおかしかったけど」
電話を切って、
「ああ・・・・・・作戦変更や」
「い、いきなり作戦変更って!」
「急ですね。それほどまでに切羽詰っているのですか?」
「ああ・・・今、十和田先輩から連絡があっての。例の隊長は来れなくなった」
「ど、どうして!?こんな一大事なのに!」
「理由はわからへん。せやけどマズイのはこのあとや・・・・・・先輩、隊長が行けないって知ったら、ひとまず副隊長に連絡したらみたいでの。そしたらその副隊長はん、『100人体制で乗り込むぞ』って言ったみたいや」
え?それって悪い事なのかな?むしろ良いことみたいだけど・・・・・・ヒメルと同じ考えの愛さんが仁君に聞く。
「それのどこが、マズイ事なのですか?むしろ大人数のほうが捕まえやすい気がするのですが」
「―――アホか!そないなことしたら、逃げられるに決まっとるやろ!!」
「ええっ!?」
「相手は指名手配犯なんやぞ。こっちが相手の動きを知っとるちゅことは!!相手もこっちの動きを見ててもおかしないちゅうことや」
「金髪さん。確かに青柳はこちらの動きを読んでいる節があります。彼女が姫川に入った時、警備隊のパトロール範囲外に拠点を構え、しかも警備隊が動いた時はすぐに拠点から脱出して警備隊を避けるようなルートで逃げた事もわかっています」
「なるほど・・・・・・ほな、すぐワイらが特攻せなアカンちゅうか!!ほな、作戦は大きく変更は無し、美夏の優先順位は恭弥。ワイらは青柳や!!ちゅうことで行くで!!」
仁君が飛び出していき、全速力で病院のほうへ駆け抜けていった。一瞬呆気に取られたけど、すぐに美夏と愛さんたちが走りだした。
ヒ、ヒメルも行かなきゃ・・・・・・!!!
本当に唐突な作戦の始まりに緊張はピークだった。足は震えてるし心臓は今にもはちきれそうだ。けれど・・・・・・けれど
「ヒメルが頼りにされているんだ・・・・・・私が、私が頑張らなきゃ―――」
「・・・・・・ヒメル」
「ぴゃっ!!!!」
「なんですかその声は。・・・・・・はぁ、案の定緊張してますね」
「だ、だって~・・・・・・」
人生の内でまさか犯罪者と関わることになるなんて思っても見なかったし、相手はなぜか女の子ばっか狙うっていうし、でもでも神林君が心配だし・・・・・・
「混乱しているようですね・・・・・・なら、ヒメル。難しい事は考えないで一つのことだけを考えてください」
「・・・・・・えっ」
「もっと単純に考えればいいのですよ。今、あなたは何がしたいのですか?」
「ヒメルが、したいこと?そ、それは・・・・・・えっと・・・・・・・」
「では、言い方を変えましょう。ヒメルは神林さんを助けたいですか?」
「そりゃ!!もちろん神林君を助けたいよ。それに、仁君の作戦にもヒメルが入ってたし、それって期待されてるってことだと思う。たぶん・・・・・・」
「だから神林さんを助ける為に期待に応えたいと?」
「う、うん・・・・・・」
それもそうだけど、何か違う気がする。なんていうか、こう、ヒメルってみんなより頭が悪いから難しい事はあんまり考えられないし、すごいことも出来ないけど、そういうことじゃなくて・・・・・・うう、 悶々とした気持ちだ。
「何か違う、って顔をしてますね」
「・・・・・・うん」
「第一、あなたは頭が良くないのですからそんなに悩む事はないのです」
「えっそれ本人の目の前で堂々というの!?」
「だって自覚しているでしょう?」
「まあ、そうだけど」
うう、半遠回しにバカって言われても大丈夫って訳じゃないんだけどな。
けど、お姉ちゃんが単にバカにする為に言ったわけじゃないのは分かる。姉妹だしね。だからこそお姉ちゃんが次になにかアドバイスをくれるってことがなんとなく分かった。
そして、
「あなた、神林さんが好きなのでしょう」
「・・・・・・え」
よ、予想外だったよ――――!!!えっ!?ちょ、まっ!え、えええ!!ななな、あに?あんでいま、そんなこと、いうの!!?
な、なんだかなにも、かんがえられないよぉう~~、どう、かえしたらいいの!?わからないよ~~~!!
「あ、ああ、あう、あうあう」
「・・・・・・予想外です。ここまでオーバーヒートするとは」
「だ、だだだ、だって!!神林君のこと、す、すすす、好きとか!!な、なんで!???」
「ヒメル落ち着いて・・・・・・わたしが言ったのは友達としての好きのほうです」
「にゃ、にゃにおって、え?」
「言うなれば、LOVEではなくLIKEの方です」
「・・・・・・ああ~」
「もしかして、本気で神林さんのことが好きなのですか?」
「い、いやいや!!!LIKEの方だよ!ヒメルは、と、友達として神林君のことが好きだよ!?」
「・・・・・・・・・・・・ふっ」
「も、も~~!!『ああ、そうなんですね。わかってます。わかっていますよ。私はヒメルを応援しますよ』的な目でヒメルを見ないでよ~~~!!」
思い込んだら一直線思考、ほんとメアの悪い癖だよ。も、もう~~!!完っ全にヒメルが神林君のことが好きって思ってるよ!!本当に違うのに!!というかこういうのは美夏の役回りだよね。ヒメルがそんなことするなんてぇ
「あう~・・・・・・」
「ふふっ」
「う~何よ~・・・」
「ご、ごめんなさい。あんなに慌ててるヒメルを見たのは久しぶりだから、つい」
「う・・・・・・」
「ですが、分かったでしょう。あなたは神林さんを好き―――までとはいかなくとも、見捨てて平気という間柄でないのは確かですね」
「そ、そう・・・・・・だよ」
「なら神林さんを助けることだけを考えなさい。仁さんの役に立つと紅髪さんの邪魔にならないなど考えなくて良いのですよ」
「・・・・・・」
あ。なんだかこの感じ久しぶりかも。的確で、分かりやすい教え方と優しい声。お姉ちゃんがヒメルにだけ見せる姿だった。
昔、勉強教えてもらった時の話し方と同じだ。
「・・・・・・でも、ヒメルにできるかな」
「できるのか?ではなく、出来る、と思えば何でもできます」
「うん・・・うん!」
「さ、行きますよ。置いてけぼりにされてますから急ぎましょう」
駆け足で病院に向かって走り出した。・・・・・・さっきよりも幾らか気が楽に感じられた。
☆
仁たちが突入する少し前・・・・・・
姫川記念病院第5病棟、1階ナースステーションにある回転扉の先にある鉄扉を開けるとそこが青柳の部屋だった。ホコリ一つ落ちていない床に、コンピュータ以外何も置いていない机、そして汚れが全くない白い壁。研究所というわりには綺麗に整頓されていた―――というより、なにもない部屋だった。
その部屋の中心で青柳時子はディスプレイを眺めていた。その顔はいつもよりも不機嫌そうに見える。
「警備隊100人が一斉にここに向かってくる、か。まさかこんなに早くに来るとは少々予定外だよ。しかも予想外のお客人ときた・・・・・・Venusはどこだい?」
「・・・・・・・・・・・・ここに」
音も無く5人の少女達が現れた。リーダー格のリボンの少女が代表して尋ねる。
「いかがなさいましたか、マスター」
「招いていないはずのお客がこちらに向かって来るらしい。しょうがないからこのラボは廃棄することにしたよ」
「・・・・・・はい」
「なので急いで出掛ける仕度をしなくてはいけないのだが・・・・・・その前に神林君の様子はどうだい?」
「被検体のことですか?」
「そうだ。君が熱いベーゼを交わした彼のこと」
「なっ!?ななな、なんでその事を!?!?」
「はっはっは、私は何でもお見通しなのだよ――――それで?」
「は、はいっ!・・・・・・ただいま全Venusが彼の身体情報をコピーしました。また、彼に対しての催眠用D・PRGも正常にかかりました。今は最上階612号室で眠らせています」
「なるほど」
「あと、彼の情報を得る際に自然言語処理系統と咽のシステムの変調をおこしたのか、話せるようになりました。ただ、私以外のVenusは以前言葉が発せられませんが」
「へぇ、それは興味深いね。やっぱキスしたからかな?」
「~~~~~っ!!!」
「ははは!!そんなに顔を真っ赤にして~。かわいいな~」
「か、からかわないでくらしゃい!!」
「いや、わりと真面目だったんだけど」
「どこがですか!?」
「・・・・・・そんなことはいいとして」
さらっと自分のファーストキスを流されたが、さっさと話を進めようとする青柳に逆らう事は出来ないとわかっているのか、はたまた無駄だという事を知っているのか、文句は言わなかった。
そして、青柳はVenus5人をざっと見て、指示を飛ばした
「α、キミは神林君を起こしに行き、βとγは4、5階の書架から可能な限り本を持ってくるんだ。そして終わり次第1階エントランスに集合する事。残り2人は私に付いてきなさい。―――いいね?」
「―――はい!!」
αと呼ばれた少女の声が青柳の部屋に反響した。




