真の黒幕
「これで終わり・・・・・・鳳華流 纏絲正貫突き(てんしせいかんづき)!!」
強烈な正拳突き。
真っ直ぐに放たれた紅い拳はメアの胸に突き刺さり、華奢な身体を吹き飛ばした。無抵抗でくらったメアは何度かバウンドしてから受身も取れないまま地面を転がって、公園の噴水に直撃してようやく止まった。
時が止まったかのように、しばらく誰も言葉を発する事ができなかった。あまりにも突然の展開についていけないみたい。ヒメルだって何がなんだか分からない
―――壊された砲身が粒子となって霧散し、蒼い光が雪のように降ってきた。辺りには噴水の水音だけが響く中、美夏がゆっくりとした歩調でメアに近づいていき、屈む。
「・・・・・・うん、気絶してる」
一斉にはぁ~、と安堵に溜息が漏れる。やっと終わったんだ。
「ワイらの勝ちや」
「やった、ですわね。美夏、お疲れ様ですわ」
「はぁ~・・・・・・ギリギリだったよ~」
「ふ、ふあぁぁぁ・・・・・・」
「先輩、どうしましたか?座りこんだりして・・・ま、まさか怪我でも!」
「あ、あはは。違いますよ須藤さん。ほっとしたらこ、腰が抜けちゃって」
「あら、そうでしたか。まぁ、気持ちは分からなくもないですわ」
「ははっ、先輩はつくづく戦闘にむかんのう」
「あら?でも十和田先輩が居なければ絶対負けてましたわよ」
「うっ、まぁ、それもそうやな。ちゅうわけで先輩、あと須藤。今日は手伝ってくれておおきにな。ほんま助かった」
珍しく仁君が2人にお礼を言っていた。先輩も愛さんも応えるように笑顔になって
から次にメアのことについて話し始める・・・・・・もう、本当にこれで終わったんだね。あっけないって言うのもそうだけど、何よりあのメアに勝てたことがいまだに信じられないよ。
「メア・・・・・・」
「ヒメル?どうしたの」
気づいた時にはメアの傍に歩いて来ていた。不思議そうに美夏が見ている。メアは倒されたあと美夏に介抱されていて、仰向けに寝かされていた。そのメアの頬にそっと触れる。
―――砂にまみれた頬。クマの出来た目元。煤けた髪。4日前とは別人みたいにひどい格好だった。
「・・・・・・」
こんな時、何を言えばいいのかな。いつもだったら自然と話せるのに、今はなんていえば言えばいいか分かんないよ。
家出してゴメンなさい?―――ううん、ヒメルは悪く無いもん
二度と来ないでって言う?―――む、無理無理!絶対無理。メア好きだもん
体、大丈夫って言う?―――って大丈夫なわけないよね。気絶してるくらいだし・・・・・・ううぅぅ~どうすればいいのかな~
「・・・・・・何かメアに言いたいことがあるの?」
「えっ!?なんで分かったの?」
「ハッキリ顔に出てるわよ」
そんなに顔に出やすいかな、ヒメル。でも・・・・・・この際だから美夏に訊いてみるのもアリ、かな
「ねえ、美夏。メアに何て声かければいいかな」
「えっ・・・・・」
はは、やっぱそうだよね。ダメだなぁ、ヒメル。美夏が応えられるわけ無いって知ってるくせにこんな事訊いて。はぁほんと―――
「ゴメン、今の忘れ―――」
「っつぅ・・・・・・あ、相変わらず甘えんぼさんですね。ヒメル」
「――――っ!!!」
「嘘っもう起きたの!?ヒメル、私の後ろに!!」
美夏がメアとヒメルの間に割って入る。背中から見えるメアの蒼い瞳がヒメルを射抜くように見つめていた。もしかしてまだやるの?って思ったけど、眼が少し穏やかにも見えた。たぶんもう戦う気は無いと思う。
「美夏、大丈夫だよ」
「えっ・・・・・・」
「はい。もう戦いませんよ。というか体が全然動きません。一体どんなD・PRGを使ったのですか?」
いつもの無感情で、だけど穏やかな口調で話していた。なんだかいつものメアみたいで安心してきた
「知ってた?強い衝撃が入ると人間は反射的に気絶するらしいわよ?・・・・・・あなたが恭弥を倒した時、恭弥も気絶したでしょ」
「美夏・・・・・・」
「ああ。そうでしたね・・・・・・恭弥、さん。ですか」
「メア。あの、あのね!!「ヒメル」――――」
「先ほど、『私が無理している』って言ってましたよね。その事が訊きたいのですか?」
「あ、あう・・・・・・」
図星だった。やっぱメアってすごいなぁ、もしかして人の心を詠むプログラムがあったりして
「あなたは昔から顔に出やすいから」
「・・・・・・」
やっぱ出やすいのかな、ヒメル。
「それで?」
「はい・・・・・・私が無理をしている、それは間違っていません。あなたが家出してから今日まで家に戻っていませんし、あまり睡眠もとっていませんでした」
「そ、それってやっぱりヒメルを連れ戻すため?」
「はい―――と言いたいところですが少々違います。私は6日前にある任務を受けました。その内容がとある人物を探し、拘束して研究区画に連れてくるというものでした」
「それってつまりは誘拐ってことでしょ。そんな犯罪行為が許されると思っているの?」
「ちょ、ちょっと美夏!?」
「・・・・・・」
「ま、その通りやな」
「あ・・・・・・仁君」
メアが起きたのに気づいて仁君たちが集まってきた。みんな武器は出していないけど警戒はしているみたいで空気がピリピリしていた
「けど、美夏も今は大人になれ。コイツに話くらいはさせてあげようや」
「別に止めたつもりは無いけど」
「はいはい。ほんなら、続きを聞こうや」
メアは話を再開させる。ただし仰向けで首だけをこっちに向けて話していた。まだ体を起き上がらせることが出来ないみたい。
「・・・・・・今回私が連れてくるのは、一人の犯罪者。人体実験を幾度と無く繰り返し多数の命を奪っていった研究区画の元職員です」
「「「―――!!!」」」
「・・・・・・」
「元々生理学の分野で活躍していた彼女が目指したのはC原子による人体生成、その過程で人間にも人工臓器の移植なども行いました。その結果としてたくさんの人の命を救ったので医学界においては革命児とも言われました。が――――彼女の研究は暴走していきました」
「暴走?」
「はい。暴走、というか彼女にとってはこれが真の目的だったのでしょう・・・・・・彼女は脳の投影のために、100人の人間の脳を取り出し、解剖し、壊し、入れ替え、そして――――全員殺しました」
「!!!!」「うっっわ・・・・・・」「ひぅ!?」
ゾクリ
何か冷たいものが背筋を撫でたような感覚に襲われる。ブワっと冷や汗が出てガタガタと体が震えだす。まるで怪談を聞いてるみたいだ。
「当然、学園都市がそんな犯罪行為を見過ごすはずも無く、7年前に彼女を逮捕しました。研究も永久に凍結、関係する資料は全て廃棄しました。しかし5年後、彼女は脱獄して学園都市から逃げ出しました」
「そして現在、彼女は再び学園都市に戻り、動いているようです」
「その目的は?」
「分かりません・・・・・・ただ、私達、研究区画の意向としては彼女を拘束して再び逮捕することです」
一頻り話し終えて「これが私の目的です」と言ったところで、仁君がちょい待ち、と話をする。
「その女、学園都市の何処におるんや?」
「禁則事項なのでいえません」
ただ、とヒメルのほうを見て話す。
「何より問題だったのは、同じ頃にヒメル―――あなたが家出したことです」
「あ・・・・・・」
「なるほど、な・・・・・・」
「えっとーつまりメアがヒメルを追っていたのは」
「彼女から守る為です。彼女に捕まるくらいなら、最悪両足を折ってでも連れて帰るつもりでした」
「・・・・・・」
う、う~ん。ヒメルのためを思って追って来ていたのは嬉しいけど、なんだか素直に喜べないよ。誘拐されるから足折るって・・・・・・だけど、
「じゃあ、あなたは―――メアはヒメルの味方だってこと?」
「そうです。紅髪さんも私も立場は異なっていますがヒメルを守りたいという気持ちは同じはずのようです」
「・・・・・・」
それでも、ヒメルはメアが心配してくれたことが凄く嬉しかった。それに美夏だって・・・・・・はあ、ヒメルって幸せ者だったんだなぁ。
ふと「そういや」と仁君が話に入ってくる
「なんでお前が追ってるんや?こんなちっこい女の子一人に任せるくらい研究区画は人材不足なんか?」
「そういうわけでは無いのですが・・・・・・ここから先は禁則事項になるのでいえません。ただ、今回私が任されたのも私なら出来るとの判断によるものでした」
「じゃ、じゃあさ。ヒメルも訊きたいことがあるんだけど」
「いいですよ」
「その彼女さんの本当の目的ってなんだったの?脳を投影することなの?」
「そ、それは・・・・・・わかりません。7年前の事情聴取では脳の投影が目的ではないという事ははっきり言っていたのですが、本当の目的は話しませんでしたから」
「ふ~ん」
ヒメルの訊きたい事は終わったと同時に仁君が動いた。居住まいを正してメアの顔を覗き込む。
「ほな、最後にワイからの質問や」
「はい」
「その『彼女』のことを詳しく教えてくれへん?」
「無理です」
即答だった。よいしょと上体を起こして、疲れた声音で仁くんに言う
「まず、どうして知りたいのか。目的を教えてください」
「メア的に言うなら禁則事項や。ただ、ワイらにその女の居場所を教えるっちゅうなら、言ってもええで」
「なんでそんな約束をしなくてはいけないのですか。私は事情によっては教えてもいいって言ってるんですけど」
「ん、んん~・・・・・・その情報が嘘かも知れへんやろ?」
「・・・・・・」
図星だったみたい。眉がピクッ動いた。それでもあくまで平静な口調で話そうとするメアの言葉を遮って、仁君が人差し指を立てる。そしてこれから推理をする探偵みたいな口調でつらつらと話し始めた。
「まず前提として、お前ら研究区画の人間は、一般市民に自分らのことを知られたくないと思ってる。だから橋も鉄道も通っていない離れ小島に研究区画を作ったんやろ」
「・・・・・・はい」
「せやけど、ここ一週間のうちに、イレギュラーな事態が立て続けに起こった」
「仁、それってメアとヒメルが私達と関わったってこと?」
「ああ、それもある。せやけどもう一つ、指名手配中の彼女が現れたこと。これも研究区画にとっては大問題やったはずや・・・・・・ここまでで間違ごうとることはあるか?」
「いえ、概ねそれで合ってますよ」
「ですが、仁さん。指名手配中の犯人が現れたらメアさん一人ではなく、研究区画総出で動くのでは?」
「ああ、そこはワイも疑問やったとこなんやけど・・・・・・たぶん、いきなり研究区画の人間が一斉に動いたら、目立ちすぎるから、やないかの」
「でも、そんな余裕はあるんですの?もし、捕まえられなかったら。と考えなかったんですの?」
「考えたやろな・・・・・・せやからお前がワイらの傍にいるんやろ」
「はい?―――」
仁君はメアに向き直して、訊く。
「メア。お前、ワイらと最初に会った後、おそらく通信で研究区画にこう言ったんやないか?『ヒメルを見つけました。ただ、やむを得ず撤退を余儀なくされてしまったので、私の代わりにヒメルを守る人間を傍においてください』ってな」
「・・・・・・」
ま、まさか――と、愛さんが仁君に噛み付くような勢いで話しに割り込む
「研究区画から教導会経由で学生会に要請をしたってことですの!?」
「そう、あえてワイらに協力しろって言ったのもあくまで建前や。理由をこじつけ易かったからにすぎん」
「で、でも、仁さん。なぜメアさんはご自分でヒメルさんを守らなかったのでしょうか?いくら家出している立場とはいえ状況が状況ですから、それこそ強引にでも連れて帰るべきだったのでは?」
「ん~・・・・・・そこまではわからんの。メア、何でや?」
ここで、私に振りますか、と関心が半分、呆れが半分くらいの何とも言いがたい言い方で応えた。
「先ほど言ったとおりです。ヒメルが心配ではあったのですが、それと同時にあお――『彼女』を捕らえる任務もありましたから。最終的にはヒメルは彼らに任せておいていいから、あなたは『彼女』の捕捉に全力を注ぎなさいと言われてしまって・・・・・・それだけですよ」
「なるほどぉ・・・・・・って、あれ?ならメアさんはどうして私たちと戦ったのですか?そもそも理由が無いですよね」
「そ、それは・・・・・・そのぉ・・・果たし状を出した手前、『やっぱやめ』なんていえないですし・・・・・・」
「煮え切らんの。いい加減本当のことを言ったらどうなんや」
「――――!!」
突然、仁君が割り込んできて吐き捨てるように乱暴な口調でメアに言い放った。
「なんとなく分かってきたで・・・・・・ワイらがメアと戦ったのか。そして、『彼女』の正体が」
堂々と言い放った仁くん。ヒメルを含め、みんなが仁君に注目する。メアも反論しそうではあったけど、仁君の有無を言わせぬ雰囲気に、たじろぎ萎縮してしまう。
口調は穏やかに戻り、メアに向き合いはっきりといった。
「メアがワイらと戦った理由・・・・・・それはワイらがヒメルの敵だと思ったからやろ」
「ちょ、ちょっと!それ、さっき言った事と矛盾するんじゃ―――」
「ああ。研究区画はワイらを信頼してヒメルを任せた。せやけどメアはワイらが『ある人物』と繋がっていたことを知った」
「そして、その人間はメアが追っていた『彼女』と同一人物だった。つまり、ワイらも『彼女』の関係者なのではないかと思うようになった」
「・・・・・・はぁ、そうです。その推理で70%位はあってますよ。だから私はあなた達を倒し、研究区画に連れて行こうとしました―――――ここからは私が話します」
メアが観念したように、深い溜息をついて、語り始める。何が何だかわからないヒメルたちはただただ、呆然と2人の話を聞くしかなかった
「犯人の性別は女、本名、青柳時子。得意なプログラムは変装です」
「私の調べでは、学園都市からの脱走後、156回変装による犯罪を行い、小学生から高校生までの女子学生を213人誘拐しました」
「なんで女子だけなんや?」
「さぁ、趣味なんじゃないですか」
「・・・・・・」
「そのうち死亡が確認されたのは47人、今も意識不明な方は104人、残り62人は・・・・・・行方不明です」
「そして、6日前に西通りにいるのが確認され、私がマークをつけていたらとある学校の保健医に変装したのを確認しました」
「その保健医の名前は――――」
「鹿島 梢です」




