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クリスマスの爆破計画

作者: kii

 今年のクリスマスイブは雪が降った……いや、今も降っている。というか、今日がクリスマスイブである。

 そんな寒い寒い夜空の下、男子高校生及び女子高生達は幸せそうに、また楽しそうに電飾に照らされた道を歩いて行く。その中には、当然大人も混じっている。一人でぽつぽつと、家族が待つ家に帰るのだろうか……。

 そんな中、一人ぽつんとその場に立ち尽くしている男子高校生が居た。大人なら一人でもおかしくないが、男子高校生で一人、というのはその場所においてとても珍しいものだった。

 しかし、彼もただその場にぽつんと立ち尽くしているわけでは無い。その理由は、彼の視線の先にある。

 全身とても目立つ真っ赤の服を着た、その顔に白いふわふわとした髭を蓄えている男。そう、誰もが知っているであろうサンタクロースが、彼と同じようにそこに立っていたのだった。






 革靴がコンクリートの地面を叩く音。さっきまで鬱陶しいと思っていたその音達も、気付けば全く気にならなくなっていた。

 12月24日。子供たちが夢を胸に眠る日。そんな日に、俺は一人イルミネーションが眩しいある街中に来ていた。

 俺が住んでる街の中でも、一番イルミネーションが綺麗な場所。人がたくさん集まる場所。笑い声がたくさん聞こえる場所。

 そんな場所に、こんなクソ寒い中、俺はある理由で一人で来ていた。その理由とは……。


『リア充爆発しろ』を実行する事。


 最近、よくネット上で見る言葉の中に上記の言葉がある。まあ、リア充の基準については置いといて、リア充(リアルの生活が充実している)なんて死ね! という感じの意味だろう。……合ってるよな?

 まあ、リア充とは対極の存在、と言っても必ずしもそうでは無いが、それがリア充を一方的に非難する為の言葉、その言葉こそ『リア充爆発しろ』である。

 少子化の進む現代になんて事言うんだ、と言われそうな言葉でもあるが、これを本気で言ってる奴もいないし、実行に移した奴もいないだろう。……いないよな?

 だが、俺は今日この広場でそれを、その言葉を実行する。所謂リア充ってのは、クリスマスイブの夜に外で複数の男女で、またはカップルで歩いてる奴の事だろ? なら、そいつらまとめて爆発させる。

 じゃあ、どうやるかって? 『爆弾』を使えばいい。

 そう、この日のために夜なべして作った最高級の素人爆弾。でも、この爆弾の殺傷能力は確かなものだ。……まあ、これじゃあ、リア充を爆発させるというより、爆発した物体で傷つけるという意味合いに変わってしまうのだが……まあ、いいだろ。仕方ない。さすがに、リア充を内部から爆発させる方法は無いからな。


 なんで、そんな事するかって? ……単純な嫉妬だよ。

 あいつらには、彼女が居て、友達が居て……とにかく、リア充なんだろ? 充実してるんだろ?

 でも、俺はしてない。

 おかしいだろ。別に性格が悪いわけじゃない、顔も普通か普通より少しいいくらいの筈だ。

 なら、モテるだろ。

 でも、俺は恋人というのもが居たことが無い。

 別に、選りすぐりをしてるわけじゃない。面食いでも何でもない。性格が悪くなくて、何より俺の事を好きになってくれたらそれでいい。

 ……なのに、恋人が出来ない。

 不公平だろ!

 最早、これは男女平等よりも先に声を大にして世間様に言うべきだ!

 恋人のいない人の無い世界を作ろう。

 きっと、それが世界平和へと繋がっていくんだ……。


 っと、少し話が飛躍したな。まあ、理由はそんなところだ。




 さて、そろそろ時間かな。早くしないと、彼ら彼女らは自分達の住むマンションへと行ってしまうからな。全く、お前ら年幾つだよ。もし出来たらどうすんだよ。

 はあ……俺はこのまま魔法使いコースなのかな……。制服でデートしたかったな……。つか、サンタさん。クリスマスプレゼントに女の子くれない? それとも、こんな悪い子にはプレゼントをくれないのか?




 俺は、暖かく、しかし貧乏臭い店から外へと出た。と、扉を開くと同時に吹き抜ける冷気。しかし、この冷気も今だけ。数分後、これが熱気へと変わるんだ。

 と、一歩踏み出した俺の足に何かが当たった。

 ん? 缶か。ったくこれだからクソリア充は、これくらいちゃんと捨てろよな。

 俺は缶を、リア充の頭に向け……否ゴミ箱に投げ捨てる。俺の手から投げられた缶は、勢いよくゴミ箱の中に吸われた。

 我ながら、ナイス! さて、次は爆発だな。


 そして、一歩また一歩と俺は歩を進めだす。出来るだけ人が多い箇所。また、カップルが多い箇所。ざっと、辺りを見渡す。皆、幸せそうな顔をしてるなあ…………うん? サンタクロース?


 俺の目線の先に映ったのは一人のサンタクロース。普通ならば、バイト君かな、と歩を止めないのだが…………。


「!?」


 サンタと目があった瞬間、奴から放たれた殺気に俺は思わず歩を止めた。

 なんだこいつ……何者だ? ……サンタか。そうだサンタだ。見た目はサンタ。子供の頃、毎年一回、夢を届けてくれた"あの"サンタだ。

 いや、違う。"あの"サンタがこんな殺気を放つわけがねえ。

 何故だ! 何故、俺をそんな目で……。まさか、俺のやろうとしている事を知っているのか!? いや、サンタにそんな力が……ある。サンタだぞ、あるに決まってる! だって、サンタさんだぞ!!

 …………なら、先ずはお前からだ!


「夢を貰うのは夢を持つ子供だけ。なら、俺にもその資格はあるよなあ!」


 サンタは、俺がやろうとしている事を全力で止めにかかるだろう。こんな、腐った俺がやる事を。でもな、サンタが相手だからって、俺も引くわけにはいかねえんだよ!

 これは、大いなる一歩を進むための爆発だ!!


「サンタ! 爆発しろ!!」


 先手必勝。微動だにしないサンタに向かって走り出した。






「うん?」


 目を擦りながら、俺は上体を起こした。すぐ横の窓から差し込む光が眩しい。

 ここは……俺の部屋? じゃあ、あれは……夢?


 サンタとの激闘。夜、キラキラ光るイルミネーション、幸せそうに歩く人々、雪、寒い。よーく、憶えている。


「…………」


 夢だったのだろうか? いや、夢じゃなかったらどうだというのだ。どのみち、サンタには負けたって事だろう。なら……夢でも、そうじゃなくても。


 はあ、と俺は一つため息をつき、布団から出る。窓の外、雪は積もってはいない。いい天気だ。

 今日は何しようか。と俺は携帯を開く……ん? なんだ? ダンボール?


 さっきまで気付かなかった、ベッドの横に置かれた縦長のダンボール。特にこれといって、何も書いていない普通のダンボールだ。だが大きい。俺の身長程はあるだろうか。


 開けてみよう。


 蘇る、子供の頃の記憶。ドキドキしながら開けた包装。俺は、ガムテープをカッターで丁寧に切って中にある物を取り出した。入っていた物に少し驚き、改めて落ち着いて、それを下から上へとじっくり見た。


 ………………。


 ふっ、粋な計らいを……。




「メリークリスマス、サンタさん」

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