17、終盤での注意点②
結論からびしっと書いてしまいましょう。
ラストはあんまり語り過ぎない方がいいです!
お話において、終盤というのは肝心かなめです。ここでの出来が作品のすべてを決めると言っても過言ではないくらいです。ぶっちゃけ、序盤、中盤で積み上げてきたものがどんなに素晴らしいものであったとしても、ラストで提示される光景が上滑りしてしまうと、とんでもない駄作になってしまいます。
前回お話ししたように、終盤は序盤・中盤でちりばめられた伏線をまとめる役割を有しています。そのまとめが上手くいかないと読者さんからすればフラストレーションがたまる、というのが前回のお話しでした。
なのに、今回の結論は、その逆を言っているような気がしますね。
でも、これは何ら矛盾しないのです。
たとえば、おとぎ話なんかで、こういう最後、ありますよね。
『こうして、王子様のキスによって目覚めたお姫様は、王子様と結婚して、幸せに過ごしましたとさ……』
これ、白雪姫のラストでよく使われる定型文ですが、わたしは、もし大人向け(性的な意味でなしに)の小説を書いていたとしてこのラストの文章が思い浮かんでも、この文章を書き入れることはありません。なんでかというと、この文章は、「分かり切ったことを形にしているから」です。
白雪姫の話の筋を思い出してみましょう。
色々あって毒りんごを食べさせられた白雪姫が昏睡に落ちてしまいました。七人の小人がなすすべなくオロオロとしているところに、白馬の王子が現れました。そして(このあたりの理屈がわたしにはよくわからないんですけど)王子様は昏睡する白雪姫の美しさに見とれてキスをします。そしてその結果、白雪姫は目覚めて……。あのラストの文章につながるわけです。
でも、実は、「王子様がキスをして白雪姫が目を覚ました」場面を書いてやるだけで、実は読者の側でもある程度お話のオチが了解出来るんです。
どういうことか。
白雪姫におけるラストというのは、『いろいろあったけど、最後は幸せに暮らしています』という図です。突然眉目秀麗の王子様が現れて、キスをして、それで昏睡から目が覚めた時点で、読者は、「ああ、白雪姫、よかったね」となるんです。だから、「王子様と結婚した」だの「幸せに暮らした」だのと書き入れてやる必要はないんですね。そういうところはむしろ、読者さんの想像に任せてやればいいんです。
作者の側で、すべての出来事に決着をつけさせる必要はないのです。ある程度は読者に下駄を預けてしまっても大丈夫です。
ちなみに、白雪姫の原作はグリム兄弟による「白雪姫」なのですが、実はグリム兄弟は、現代に伝わる白雪姫以上に作者の側ですべての出来事を解決させてしまい、当時の読者に深い傷を与えています。
現代に語られる白雪姫において、そのラストが語られない重要人物がいます。そう、白雪姫の継母です。中には改心した、と語られることもあるんですが、大抵はラストにおいてその存在をなかったことにされます。
何でかというと、グリム兄弟がやり過ぎてしまったからです。
詳しいことは少し前に流行った「本当は怖いグリム童話」なんかを参照いただければいいんですが、実は継母、白雪姫の差し金によって殺されます。しかも、現代のわたしたちから見れば、ひどく非人道的な方法で……。
きっと、グリム兄弟が生きていた頃には、この残虐なラストにも一定の理由があったのでしょう。(当時のヨーロッパは、産後の肥立ちが悪くて実の母が死んで、継母が家に入るのが普通だったようです。なので、継母―先妻の子の対立はありふれた出来事だった、というのが背景にありそうですね。そんなことはさておいて)しっかし、後味が悪いですよね。
確かに、己を迫害して手に掛けようとした継母に復讐を果たす、というのは人間としてなんとなく共感できるところではあります。でも、どこかで、「せっかく王子様と結婚して幸せに暮らしてるんだから復讐なんてしないでよ!」と言いたくなるのもまた人情です。
と、このように下手にオチをつけると、お話の方向性まで変わってしまう恐れがあるんですね。だったら、継母のことなんかなかったことにして、あとは読者さんの想像にお任せします、とやってしまった方がいいんですね。
というわけで、なんとなく脱線気味でしたが結論が出ましたね。
結論を喋り過ぎない!
これが終盤でのコツなんです。
P.S.
原作「白雪姫」の残虐性について、まるでグリム兄弟が主犯であるかのように説明していますが、厳密には違います。
グリム兄弟は母国に散らばる昔話を集めて、それを刊行しました。その際、グリム兄弟はあまりに残酷な展開やショッキングな光景を書き直ししている形跡もあると言います。でも、一方で、グリム兄弟独自にショッキングな場面を書き込んだりしている形跡もあるらしく、「お前、どっちやねん!」状態らしいです。
ただ、物語というのは、それを読む読者によって形が変わるものです。現代になって、エログロを子供から遠ざけるべきだ! という風潮の高まりとともに、原作の筋を変えずにそういったものを排除していった流れがあるのです。
閑話休題。
とにかくも、ここで知っておいてほしいのは、「継母を殺す」というラストを書くか書かないかで、こうもお話の印象が変わってしまうんだよ、ということなのです。