12、書き出しについて悩んだら
さて、前回の流れからして今回はライトノベル、あるいは一般文芸の傾向と対策かな? とお思いの皆様、大変申し訳ありません。わたしの心が折れてしまいました。いや、一口にライトノベルとか一般文芸といいましても、種類が多すぎるんですよ。その傾向と対策をまとめるだけで一年間くらいこのエッセイを引っ張れてしまいます。でも、初心者向けエッセイにおいてそこまでやるのは逆に非実用的なので、ここではスルーすることにしました。それに、ケータイ小説は文芸の中でもかなり特殊な文芸なので(「小説」をご先祖にしない文芸なんです、ケータイ小説は)、ああやって別に章を立てて説明する意味はあったかなと思ってます。
さて、構想も練って、書きたい傾向の本を読みました!
きっとこの頃のあなたは、小説を書きたくてしょうがない、と思っていることに違いありません。
そして、ワードか一太郎を開いて、真っ白な画面を前にぐむぐむと唸っているかもしれません。
でも、ここで悩む人って結構多いんじゃないでしょうか。
「あれ? どう書き出したらいいんだ?」と。
実は書き出しって、中級者や上級者、それどころかプロの作者さんですら悩みどころらしいです。どう書き出したらいいか分からずにずっとアイデアを温めていたんだ、という作者さんさえいるくらいです。
ハッキリ言えば、最初に小説を書かれるあなたにとっては、一番の難関です。なので、「書きたい!」という衝動で乗り切ってしまうのも一つの手です。でも、真っ白な紙を前に悩んでしまう人も絶対にいると思うので、どうやって書き出しを決めたらいいのか、そのおせっかいをしてみようと思います。
まず、一番簡単なのは、おとぎ話のフォーマットを使うことです。
「昔々あるところに~」っていうやつですね。
ただこれ、使ってしまうとおとぎ話みたいな世界観になってしまうので、ハードなスパイアクションとかダークファンタジーの書き出しに使ってしまうと、非常にちぐはぐなことになってしまいます。でも、ほのぼのファンタジーや童話を書きたいというのなら、これを採用するのも一つの考え方です。
でも、この「おとぎ話」のフォーマットには弱点もあります。
このやり方だと、「昔、あるところにおじいさんがいて、その伴侶にお婆さんがいて一緒に暮らしていたんだけど」という風に、説明ばっかりの文章が続いてしまいます。説明の文章って、実はお話の外枠を決めているだけで、お話そのものは全く動かないのであんまりおもしろくないのです。おとぎ話くらいの文量だったら気にならないかもしれませんけど、たとえばめちゃくちゃ世界観が練られたファンタジーでそういうことをやったりすると、読者さん側が疲れちゃいます。もちろん、「俺は書くだけで満足なんだ!」という人は、冒頭から設定を書いちゃってもいいんですが、書いたからには読まれたいのが人情というものです。
じゃあ、どう書いたらいいのでしょう?
たとえば、会話文から書き出す手です。
会話文から書き始めるということは、既にそこには二人以上の人間がいることになります。また、言葉を交わしているということは、(よっぽどどーでもいい会話をしていない限り)話が動いています。こんな感じで。
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「アベル、貴様、裏切ったのか」
短く吐き捨てて、レイモンドはゆっくりと霊刀を引き抜いた。
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ね? お話が動いてますよね。
でも、こういうのって、作者の側はすごく不安です。だって、「アベルとレイモンドの説明をしてないし、そもそもこの霊刀は……」と。読者さんが、こちらの設定を了解してくれないうちにお話を動かしてもいいのかなあ……、と。
結論から申し上げると、大丈夫です。読者さんという存在は、あなたが思う以上に行間を読んでくれる存在です。もちろん、この文章の場合だと、どこかでアベルとレイモンドの因縁を説明しなくてはなりませんし世界観を説明しなくてはなりません。でも、お話が動いている時に、あんまり読者さんは設定なんて気にして見ていません。
また、インパクトのある場面から書き出すという手があります。
たとえば、もしわたしが童話「桃太郎」を書きなおすとしたら、こういう書き出しにします。
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川の上流から流れてきたものは――桃だ。
それも、岩場に転がる大岩くらいの大きさのある、化け物じみた桃だ。
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大きな桃が流れてくる、なんて光景、あまりにシュールかつインパクトがあります。なので、それを前面に出して、読者さんの度肝を抜こうかなあというのが、この文章での狙いです。
とまあ色々と書いてしまいましたが、結局、書き出しで大事なのは、「勢いのいい、話の動いた場面から書き出す」ということです。