4円玉
(また負けた)
自動ドアを背にパチンコ屋を出る。財布の中身を見つめ軽くなったそれを後ろポケットに入れる。生活費の5万円を全て使ってしまった。給料日までほぼ半月、どうやって生きていけばいいんだ。
ため息を吐き出し、ポケットに手を入れ歩きだす。
「ん?」
ポケットに入っているものを取り出した。手のひらに転がるのはパチンコ玉。これだ、全てはこれのせいだ。
怒りが沸々とこみ上げてくる。あのリーチは期待度が高いのになんで外れるんだ、店側が何かしたに違いない。その前に最初からパチンコなんかしなければこんなひもじい思いをしなくてすんだのに。
(やめてやる)
もうパチンコはやめよう。百害あって一利なしとはこの事。今日で俺は変わるんだ。
手のひらのパチンコ玉を握りしめる。
(こんなものっ!)
ピッチャーのように振りかぶり、パチンコ玉を投げた。青空と太陽、キラリと光るパチンコ玉。これで最後だ。さよなら俺のパチンコライフ。
「さて……」
これからどうしよう。まずはお金を稼がなければ。バイトを増やそうか、それとも前借りしようかな。よし、そうと決まればまずはメシを食おう。
「おい」
背後から声。しかし自分には心当たりがないので華麗にスルー。
「おい!お前だよ」
がっちりと肩を掴まれた。恐る恐る振り返るとそこには強面のお兄さん。
「ども」
取りあえず愛想笑い。なんだ?俺が何をした?
「あれ、どうしてくれんだ」
強面のお兄さんはあごで示すその先には黒塗りの車。あのエンブレムはベンツというのではなかろうか。
「何かしましたでしょうか」
あくまでも低姿勢にお答えする。何でキレるかわからない。
「こっちこい」
襟下を掴まれ引きずられるように車の下へ。
「ほら、見てみろ」
そこには何かをぶつけたような跡が。少しの跡だがこれだけでビカビカとした黒塗りだと目立つ。
「あの……これがどうしたんでしょう」
「しらばっくれんな、お前がやったんだろ」
「へっ?」
時間は少し前に遡る。握り締めた手。そして投げたパチンコ玉。
「あっ……」
パチンコで求めていた大当たりがここでなるとは。
「すいません!そんなつもりはなかったんです」
土下座だ。下がコンクリートだと関係ない、死んでしまうよりましさ。
「いいんだ、俺は弁償さえしてくれれば」
強面お兄さんは不気味な笑みを浮かべ、タバコを取り出し火を付けた。
「なぁに、ざっと100万」
「なっ……」
嘘だろ、おい。汗がどっと出てきた。ヤバい、これはヤバいぞ。ありませんなんて言ったらどこに飛ばされるかわからない。
「ほら……。だせ」
どうする俺。選択肢は2つ。【たたかう】か【逃げる】だ。
【たたかう】を選んだ場合。
強面お兄さんが現れた。強面お兄さんの先生攻撃。強面お兄さんはメンチをきった。効果はてきめんだ。俺は身動きが取れない。強面お兄さんの攻撃。俺は9999のダメージ!力つきた……。
自分の想像力を疑う。新たな力が目覚めるとかないのか俺は!
必然的に【逃げる】1択になってしまった。そうと決まればあとは隙を見つけて逃げるだけだ。
「逃げるとか考えんなよ」
「ハハ、そんな訳ないじゃですか」
隙がない……だと。額から一筋、汗が流れる。
「叔父貴、お疲れ様です」
仲間が現れた。A、B、Cのお兄さんになってしまった。これはただの大当たりではない、確率変動大当たりだ。
ええい、こうなりゃヤケだ。
「くらえー」
軸足に体重をかけ、腰をひねり右手を振りかざす。
パシッ!
がその右手は相手に届かない。まるで蚊を叩き落とすかのように張り手を受け、俺は力つきた……。