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化生

作者: あらいぐま
掲載日:2026/03/13

いつからだろう?物語の、伝説の、伝承、噂の生き物が実在するようになったのは?


ボサボサ頭を掻き、よれよれの白のシャツには襟元が茶色がかって見るからに清潔感のない男。

これでも身長は高く、細身で、メガネの下の顔は整っているのに周りからは残念に思われても気にせず、黙々と研究に没頭し続ける准教授だ。

いつも大きなリュックを背負い、ふらっと大学からいなくなり、いつの間にか戻ってくるので学生からは「幽霊先生」と呼ばれ、出会うと吉兆か、大凶となるかで二分されている。

「幽霊先生、収穫あったんですか?」

一人の学生が質問した。

この学内で唯一、幽霊先生と交流のある学生のユウキ。幽霊先生とは対照的に小柄で、清潔感も人付き合いも出来る。専ら幽霊先生と他者とを繋ぐパイプ役になっている。

それが僕だ。

幽霊先生は、小さな部屋の机にどかっとリュックを下ろし、パイプ椅子に座り俯きながら

「いや、これといって収穫なし。目撃情報もバラバラで誤情報か滅した後かもわからない。やっぱり、化生けしょうを追うのは難しい」

と、疲れた表情をしながらも楽しそうに言った。

化生けしょうは、数十年前から各地で発見されている生き物だ。明らかに現在の生き物と異なり、突然発生し消えていく。龍や河童、麒麟といった伝説・伝承のような生き物だが人の言葉がわかったり、特異な能力をもつ。時には災害を起こすこともあるが、関わらなければ無害な方が多いとされている。UMAと異なるのは実在していることを確認されたかどうかだ。

多くが未知の生物のため調査や捕獲依頼もされるが、関わると何があるかわからず毛嫌いされている。

その化生の研究者が幽霊先生であり、ほぼ自由行動が許されている理由だ。

「化生を追う必要あるんですかね?関わらなければほぼほぼ無害だし、いつの間にか居なくなる生き物なんて生きているかどうかもわからないじゃないですか?未だにUMAと区別する意味がわからないですよ」

「UMAと違いは関わった人達がいたかどうかだよ。見たんじゃなくて、実際に触れ合い、数日あるいは数年一緒に生活したものもいる。ただ何から生まれ、消えるようにいなくなる者を、生き物と捉えるべきかは議論の余地がまだある」

真面目に質問したわけではないが、顔を頬杖をついて返答する准教授は幽霊と言うには生き生きとしている。化生はどこに発生するかわからない以上、情報があれば何処にでも行き、山籠りすることはしょっちゅうだ。清潔感がないのはそのためだが、顔はいいのだ。

「だが、今回はあまりに収穫がなかった。目撃情報もバラバラどころか、聞いたことも見たこともないときた。化生が本当に出たのか眉唾物だ。時間も浪費し過ぎて、経費としておりるだろうか?」

そんなこと一学生の僕にはわからないと言いたいが、今回の情報源は僕だから言わないでおいた。

「そんな先生に1つお願いです」

お金の話しは厄介だから、前置きをしながらこっちに注意を向けてもらおう。

「なんだ?早く」

先生は前のめりに聞いてくる。僕からのお願いなんて1つしかないと確信しているのだろう。

それは少し寂しく思うが実際そうなのだから仕方ない。

「Y県に化生が発生したようなので、調査をお願いします。詳細は後で送りますね」

先生は話しの途中から、リュックを背負い部屋から飛び出していった。

「やっぱり幽霊先生は合ってないよ」

飛び出していく先生を見ながら、僕はそう思った


――――――――――――――――――――――


Y県の山の麓にある町には数年に一度、周期的に化生が現れる。

化生は関わらなければほぼ無害なものがほとんどだが、今回は化生の方が人に近づいてくる厄介なパターンだ。

名前が付いてないことも多い中、この化生には妖怪の名前から取られた。

「サトリ」

人の心を読み取ることができ、しかも声に出すから秘密が周りにバレるという、精神的な実害が大きい化生だ。

「サトリは今どこに?」

以前別の化生の件で会った、市の職員数名が既に捜索を始めていた。

化生が出るようになって各市町村の環境保全課などが対策することになっている。

「町からは少し外れた所にまで追い込みましたが・・」

一人の職員が疲労困憊ながらも答えてくれた。

「ああ、なんで言うんだよ」

「大丈夫、大丈夫周りには聞こえてない」

「奥さんには言わないでおくから」

「さすがに、それはないよ」

「お前、男だったの?」

お互いを励ましあったり疑いあう職員を見るに、サトリは逃げながら秘密をバラしていたらしい。

「すみません、先に行きますね」

気になることはあるが、関わらない方がいいだろう。

サトリを見つけるのはそう難しくない。

人が近くにいれば、相手の思ってることをそのまま喋るからだ。

だが捕まえるのは困難だ。

数人がかりでも、罠を仕掛けても、心を読まれたら簡単に流れてしまう。

捕まえ方は何も考えない、別なことを考える、突発的な動きするしかない。

走り続けてものの数分で悲鳴めいた声と子供のような高い声が聞こえた。

『この人話し長いんだよなぁ』

『やば、不倫してるのバレてない?』

うん、サトリの声だ。

声の方にかけ出すと、青ざめた顔の人達がいたが気にしないでおく。

少し先に猿に似た姿をしている、ケケケと笑いながら4本足で走っているのが見えた

『サトリだ』

サトリはぐるんと振り返りながら叫んで、またケケケと笑いながら走っていく。

「待て」

『ケケケ、捕まえてみなよ』

嘲笑いながら走るスピードを落としていく。

『歩いても捕まらないってか、その通りだよ』

こっちの考えを読まれる。

でも、これなら

『他のことを考えたら大丈夫ってか、無駄だよ』

他のことを考えようにも目の前のサトリに、意識を持っていかれる。

「何で」

『何で、ここに出てきたかって?何をするつもりかって?ふーん、捕まえに来たんじゃないんだ』

逃げるのをやめ、くるりと回ってこっちをじっと見つめてきた。心の奥底まで見入られているように感じ、走ってきた汗なのか冷や汗なのかわならなかった。 

あまりに逃げるから捕まえようと思ったが、最初からしたいのは化生の研究。捕獲はその一環でしかない。

『お前、イラつくな』

「え?」

意外なサトリの言葉だった。

そんなことは思ってない。

なら、サトリの言葉のはずだ。

『お前わかってないだろ』

「何のことを言ってるんだ」

本当にわからない。

『自分を守るためにオレを言い訳にしたな』

「あっ」

そうか、ユウキとの会話のことだ。

化生の情報ですぐに飛び出したから、逃げ出したように

『違う!!そうじゃない』

今までに大声でサトリは否定した。

『人間はいつだってそうだ、勝手に決めつけて知ったように言う。自分達で名前を付けて、分類して、利となるか悪となるかで分ける。ヒトとしてならまだいい。だけど人間は、他の生き物を解剖したり実験し識ろう《しろう》とする。何で受け入れない。何で勝手に決めつける』

サトリが饒舌に人間について語るとは初めて聞いた。

心を読み意味も理解していることはわかったが、ここまで意思表示を自分の考えを持つ知的なものとは思っていなかった。

ボイスレコーダーを使ってないとは、研究者として恥ずかしい。

『おい』

悔やんでいると、すぐ目の前にサトリが来てこちらを覗き込んでいた。

深い緑色の目。

今にも吸い込まれそうな目だと思った。

『お前、まだわかってない』

「・・・」

『お前は自分が恥ずかしいんだろ?何も成してないのに准教授とか言われてさ。だから学内で関係を持ちたくないんだろ?短期間の付き合いでないと自分のダメさがわかるから。好意を持ってくれてる相手にも真っ直ぐ向き合えないから、何かあるごとに急いで調査に行くフリをする。いや、実際に行っても収穫がなくてもいいと思ってるんだ。自分が何かしてるフリのきっかけが欲しいだけ。それはいい、それはいいがオレを理由にするな。不愉快だ』

サトリは捲し立てるように言って山の方へ去っていった。


その後、市の職員にはサトリは山の方へ行ったと報告し、それなら問題なしと帰路についた。

電車に揺られ、帰りながらずっとサトリの言葉が耳から離れなかった。

サトリの言葉が合っているとは言えない。研究も調査も一筋縄ではいかないものだし、人間が識ろう《しろう》とするのは自然なことだと思う。

その性質がここまで発展し、急成長しその弊害が環境に及んでいる。

ただ、確かに私は自分のことを卑下している。

コンコンコン

ぼぉーっと考えていると、あり得ないことに動いている電車の窓をノックしてきた

「サトリ!?」

『ケケケ、1つ言い忘れていた』

「は?」

外の声が聞こえるはずないだろうに、サトリは片手で体を支えながら話してきた。その声は、なぜかいつもと変わらずに聞こえた。

『何をするつもりか、だったよな?』

「あ、あぁ」

捕まえようとしていたときの話か。

『仲間を、出来たら好きな奴をさがしているんだ』

ケケケと笑いながらサトリはそう答え、じゃあなと笑いながら消えていった。

「は、ははは」

電車の中で1人笑っている。

不審者に思われても構わない。

何も成してない自分が恥ずかしい、別にいいじゃないか。

こんな不思議なものを見て感じて、追い求めているんだ。この一瞬でわかる、やっぱり化生は面白い。

サトリについてもまとめないと、他にも文献ないか探してみよう。

とりあえず帰ったらユウキと話そう。

「ああ、帰るのが楽しみって初めてだ」

ニヤニヤと笑う幽霊先生は、少し不気味だった。


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