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二日目
軍靴の硬い足音は石段を、ゆっくりと降りてきた。
一段ずつ、確かめるように。
地上の気配は段を重ねるごとに希薄になり
やがて完全に途切れる。
階下は、世界から切り離されポツンとそこに浮いていた。
湿り気と水音、松明の炎だけが浮いた世界を彩っていた。
そして彼女は今日もそこに在った。
ヴェリアは顔を上げない。
来るとわかっていた。
だが待っていた訳ではない。
扉が開く。ゆっくりとした規則正しい足取り。迷いのない歩幅。
「律儀だな。」
椅子が引かれる前に、ヴェリアは言った。
「帝国もずいぶん人材不足らしい。捕虜相手に二日も使うとはな」
男は静かに椅子を引く。石床を擦る音が短く響いた。
「まだ二日目だ。」
「何か成果は出たのか、無能な尋問官さん?」
視線を向けて観察するも、見たところ感情の揺れはなく、それが更に苛立たしい。
「何か焦る理由でもあるのか」
淡々とした問い。
その切り返しに、ヴェリアは口角を吊り上げる。
「処刑の日を引き延ばして何を期待している?
私がお前に泣きつくとでも?」
「決まっているとも聞いていない。」
曖昧な返答。
嘘か、本当か。
断定しない態度が、意図的にすら思える。
「拷問でも何でもやれ。時間の無駄だ。」
「必要ならやる。」
男は“やらない”とも“やる”とも口にしない。
地下牢に沈黙が落ちる。水滴が石床を打つ。




