一日目・後編
「俺が惚れている女だ。仮にお前が惚れたとして
“思想的転向の兆しあり”とでも報告書に書けば多少の時間は稼げる。
ただ、長くはもたん。
時間を買う。そのために来た。」
数秒の沈黙。互いに目は逸らさない。
ヴェリアが口を開く
「……甘いな。
報告書一つで革命は止まらん。」
もう一歩詰める。また鎖がジャラリと音を立てる。
「私が折れたふりでもして生き延びることを選ぶとでも?
そんな小細工までして命を守る女なら、最初からここにはいない」
ヴェリアは男の話を鼻で笑った。
「勘違いするな。
私はただ生きるために戦っているんじゃない」
ヴェリアの瞳が燃える
「勝つために戦っている。
貴様の同情も、恋も、いらん。」
鎖の余韻が石壁に消える。
地下牢はまた、湿った静寂に戻った。
男はしばらくそのままヴェリアの怒気の残滓を真正面から受け止め、ただ見ている。
やがて
「……そうか。」
感情を感じさせない声で呟く。
「だが俺は退かん。
次も俺が来る。
お前が嫌でもな。」
そう言うと男は軍靴をコツコツと鳴らし去って行った。
一瞬、冷たい外の空気が入り込んだがどうやら扉が閉じられたようですぐに淀んだ空気に戻ってしまう。
ヴェリアは立ち尽くしていたが、やがてゆっくりと座り直す。
「馬鹿が…」
ポツリと呟いたその言葉からは感情は読み取れない。
その呟きを最後に、地下室は何も語らないのであった。




