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九日目・後編
やがてヴェリアが言った。
「根比べか。」
男が初めて口を開く。
「そうだ。」
短い声だった。
ヴェリアは小さく笑う。
「悪くない。」
鎖が少し鳴る。
彼女は姿勢を少し変えた。
「だが勝てると思うな。」
男は言う。
「なぜ。」
ヴェリアは肩を壁に預け直す。
「戦場で待つことには慣れている」
「何日でもな。」
男は黙る。
それから静かに言った。
「私もだ。」
ヴェリアの目が少し細くなる。
(やはり)
この男は前線だ。
役人ではない。
沈黙が戻る。
だが空気が少し変わった。
ただの沈黙ではない。
互いに測っている。
時間が過ぎる。
やがて男が椅子から立ち上がった。
「今日はここまでだ。」
ヴェリアは眉を動かす。
「結局、質問なし?」
男は椅子を戻す。
「十分だ。」
ヴェリアは鼻で笑った。
「変な尋問官だな。」
男は扉の前で止まる。
振り返る。
「君もだ」
ヴェリアは小さく首を傾けた。
男は続ける。
「普通の捕虜ではない。」
ヴェリアは肩をすくめる。
「光栄だ。」
男は何も言わない。
扉を開ける。
外の光が少し差し込む。
男はそのまま出ていった。
扉が閉まる。
足音が遠ざかる。
静けさ。
ヴェリアはしばらく動かなかった。
やがて小さく呟く。
「……面白い」
鎖がわずかに揺れた。




