九日目・前編
牢の扉が開いた。
ヴェリアは視線だけを向ける。
男が入ってくる。
椅子を置き、座る。
九日目。
男は何も言わない。
書類も出さない。
机の上は空のままだ。
ヴェリアは男を見た。
男もこちらを見ている。
沈黙。
長い。
ヴェリアは壁に背を預けたまま動かない。
鎖も鳴らさない。
(始めたな)
昨日までの会話が消えている。
今日は違う。
男は腕を机に置いたまま、ただ座っている。
時間が過ぎる。
ヴェリアはゆっくり瞬きをした。
それだけだ。
男の表情は変わらない。
沈黙が続く。
ヴェリアはわざと足を少し動かした。
鎖が小さく鳴る。
男の視線がわずかに落ちる。
すぐに戻る。
それだけ。
ヴェリアは口元を少しだけ上げた。
「質問は?」
男は答えない。
沈黙。
ヴェリアは肩をすくめる。
「ずいぶん静かな尋問だな。」
男はまだ黙っている。
ヴェリアは男の目を観察する。
焦りはない。
苛立ちもない。
ただ待っている。
(……なるほど)
彼女は小さく息を吐いた。
「沈黙か」
男の眉がわずかに動く。
それが答えだった。
ヴェリアは天井を見上げる。
石の天井。
薄い光。
「つまらない手だ。」
男は言わない。
ヴェリアは視線を戻す。
「普通は拷問の前にやる」
「沈黙で焦らせる。」
男はやはり何も言わない。
ヴェリアは少し笑った。
「残念だな」
男の視線がわずかに動く。
ヴェリアは続ける。
「私は焦らない。」
沈黙。
男は机の上で指を少し動かした。
動きは相変わらず硬い。
ヴェリアはそれを見る。
(癖か)
まだ判断はつかない。
沈黙がまた落ちる。
長い。
ヴェリアは視線を外さない。
男も外さない。




