八日目・後編
男が視線を向け、口を開く。
「なら聞く」
「大軍の戦術は?」
ヴェリアは少し考えた。
それから言う。
「単純だ」
「潰す。」
男の眉が上がる。
ヴェリアは続ける。
「数で囲む」
「時間をかける」
「補給を切る」
「逃げ場をなくす。」
それだけ言って口を閉じた。
男は黙っていた。
それから、ゆっくり頷く。
「……正しい。」
ヴェリアはわずかに肩をすくめた。
「つまらない答えだろ。」
「いや」
男は言う。
「現実的だ。」
短い沈黙が落ちた。
ヴェリアは男を見る。
男もこちらを見ている。
数秒。
どちらも視線を逸らさない。
やがて男が言った。
「君は優秀な指揮官だな。」
ヴェリアは瞬きを一つした。
それから小さく笑う。
「敵を褒める尋問官か。」
「評価だ。」
男は淡々と答えた。
ヴェリアは少しだけ首を傾ける。
(本気か)
軽口には聞こえない。
男は椅子から立ち上がった。
「今日はここまでだ。」
ヴェリアは息を吐く。
「短いな。」
「十分だ。」
男は椅子を戻す。
扉へ向かう。
その背中をヴェリアは見ていた。
歩き方は変わらない。
姿勢も崩れない。
扉の前で男が止まる。
振り返ることはない。
ただ言った。
「君と話すのは」
一瞬、言葉が止まる。
「有意義だ。」
ヴェリアは少し目を細めた。
男はそのまま出ていく。
扉が閉まる。
足音が遠ざかる。
静けさが戻った。
ヴェリアはしばらく動かなかった。
やがて小さく呟く。
「……妙な男だ。」
だがその声は、最初の日ほど冷たくはなかった。




