七日目・後編
男はしばらく黙っていた。
ヴェリアはその沈黙を観察する。
怒らない。
否定もしない。
(やはり妙だ)
普通の帝国軍人なら、今の言葉で反応する。
だがこの男は違う。
むしろ、少し考えている。
やがて男は言った。
「君は自分をどちらだと思う。」
ヴェリアは瞬きを一つした。
「何がだ。」
「まともな指揮官か?」
ヴェリアは小さく笑った。
声は出ない。
「部下に聞け。」
男は首を振る。
「君に聞いている。」
ヴェリアは天井を見上げた。
石の天井。
薄暗い光。
しばらくして言う。
「分からん。」
男の眉がわずかに動く。
「意外だな。」
「そうか?」
ヴェリアは視線を戻す。
「戦場では分からない
…生き残った奴が評価する。」
それだけ言って口を閉じた。
男は黙っていた。
それから、ゆっくり頷く。僅かに鼻を鳴らし
「確かに。」
短い言葉だった。
ヴェリアはその反応を見て、少しだけ目を細める。
(否定しない)
帝国軍人らしくない。
男は椅子から立ち上がった。
「今日はここまでにしよう。」
ヴェリアは眉を動かす。
「短いな。」
「十分だ。」
男は椅子を戻す。
姿勢は相変わらず整っている。
扉へ向かう。
そこで少しだけ振り返った。
「君の話は」
一瞬、言葉が止まる。
「軍人として興味深い。」
ヴェリアは肩をすくめた。
「光栄だな。」
男は何も言わない。
扉を開ける。
外の光が少しだけ差し込む。
そのまま出ていく。
扉が閉まった。
足音が遠ざかる。
ヴェリアはしばらく動かなかった。
やがて小さく息を吐く。
(……本当に聞いている)
尋問ではない。
会話に近い。
彼女は鎖の音を立てないように足を動かした。
「変な尋問官だ」
小さく呟く。
だがその声には、昨日よりわずかに――
警戒とは別のものが混じっていた。




