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第9話〜先輩と第二の星〜


リアが部屋に入ったのを見送った後、僕はアークの耳を掴んで近くの部屋へ引き摺り込んだ。


その部屋は僕の書斎で、他の部屋よりも壁が分厚く、防音がしっかりしている部屋だった。


その部屋に防護結界を魔法で張る。友人とはいえ相手は第二王子だ。下手なことをして怪我でもさせたら、囮潰しになりかねない。


僕は一通りのすべきことをし終えて、ソファに腰掛けて口を開いた。


「どういうつもりだ」


僕は厳しい声でアークに言った。


僕の大切な後輩に馴れ馴れしい態度をとったこの男を許せなかった。たとえ、第二王子だったとしても、だ。


本当なら、リアの見えないところで制裁するのだが、相手は第二王子だ。怪我はさせられない。


「どういうつもりも、こういうつもりも、君が誰よりも、何よりも大事に? 守って守って守っているらしい後輩ちゃんに会ってみたかったんだよ」


アークは僕の肩に手を置くと「想像以上だったよ」とにやにや笑った。


「あんなに可愛いなら、隠そうとして仕方ないよねぇ? ハムスターみたいな小動物で可愛いね」

「やらんぞ。僕のだ」


チッ、と舌打ちをした僕を見てアークは笑った。


「盗らないよ、って言いたいところだけど、あんなに可愛いなら盗っちゃいたいよね。何せ、あの『花』の魔術師だ。国益になること間違いなしだ」

「第二王子の身分に釣り合う令嬢なら、他にいくらでもいるだろ」

「ちょっと、そんな怖い顔しないでよ。冗談だからさ。第一あの子を盗ったらお前が反逆しかねないだろ!」


リアは理解していないだろうが、『花』の称号は魔術師ならば喉から手が出るほど欲しいものだ。


昔のキングメーカーの称号で、名誉であることは間違いない。それとは別に、もう一つ意味がある。


「リアをお前の妃にするなんて言い出した日には、叛逆をする。他の魔術師にしておけ」

「花の魔術師なんて、今代は三人しかいないし、他二人は男だろ。俺、男と結婚する気はないよ? いくら世継ぎを産む必要がないからって男はちょっと勘弁だよ」

「花の魔術師は王国随一の強者だからな」


この国で、キングメーカーはそれだけの力を持っているのだ。


「そう多くても困るだろ。確かに、リアを妃としてそばにおけば、箔がつくだろうな」

「あの子に会うのは初めてだけどさ、聞いたよ? 魔法学校時代、模擬戦で同級生も上級生も全員開始十数秒倒したらしいじゃないか」


アークは僕の同級生で、同じ魔法学校に通っていた。もちろん、リアとも同じ学校だが、在学中会わせないようにあれこれ手を回していた。


純粋無垢なリアが王子様というだけで憧れて、なつきでもしたらと気が気ではなかったからだ。


「本人は、研究職を目指す生徒ばかりだから大したことはないと思っているんだよ」

「そんなわけないだろ!? 研究職の中にも肉体労働必須で、戦闘だってこなさなきゃいけない職はあるよ! それなのに、そんなこと言ってるの?」


信じられないと言った様子でアークは言った。その点に関しては、僕もアークに賛成だった。


自己肯定感が無さすぎる。


自分がなすこと全てに対して、誰にでもできることだと思っている節がある。自分にできないことに対しては、過剰なほどに落ち込み過敏なほどに気にするというのに。


「そこがいじらしいとは思う」

「うわぁ……筋金入りじゃん」

「わからないのか? リアが自分のしたいことのために全力を出している時の彼女が、この世の何よりも美しいんだ」


深い氷の海のような青を閉じ込めたリアの瞳に、燃え盛る熱が灯る。その時の彼女の瞳は、どんな大きな宝石を用意して並べたとしても、決して勝ち得ない美しさがある。


あの赤髪が風に靡いている様も可愛らしい。


あの美しさに魅入られて仕舞えば、リアがリアらしく進めるように守らないわけにはいかなかった。


「侯爵の身分は厄介だが、リアを守るための権力や財力があるのは美点だな」

「お前、魔法学校時代からあの子の世話焼いてたもんね。絶対俺に見せないように手を回してさぁ! 侯爵になるっていうのに、執事の真似事みたいなことして。あ! 今もしてるだろ?」

「するか! そんな時間があるのなら、他の面でリアを支えるわ!」


執事は誰にでもできるが、金と権力で彼女を支援するのは誰にでもできることではない。


そのおかげで、一番交流があるものとして、国王陛下からリアの世話を頼まれる地位にまで上り詰められたのだ。


「僕が世話を焼かなくなってから、生活が破綻したのはいただけないが、侯爵家で生活させれば、それも改善されるだろう」

「え、お前、まさか、婚約もしてない子をずっと家に置くつもり?」

「……問題あるか?」

「大有りだよ! お前、良識はあるのに、あの子のことになるとネジ飛ぶんだね!?」


確かに、アークの言う通りだ。


結婚前の男女が同じ屋根の下というのは、外聞がかなり悪い。婚約していれば花嫁修行ということでながされるが、そうでなければかなりまずい。


先輩後輩の関係性が長すぎて、すっかり抜けていた。


アークはソファに座ると足を組んだ。


「それで、叙勲式のことだけど、父帝は、花の魔術師を王族にしたくてたまらないみたいだよ」


僕は思わず眉を吊り上げていた。


「あの老人も懲りないな」

「兄上の妃にでもなれば、王家は安泰だと思っているんだよ。そういうジンクスを信じる人だから」

「だからと言っても、魔法伯程度じゃ、身分が釣り合わないだろ?」

「今は、ね」


アークの言葉の真意に気がついて、僕は嫌気がさした。


「そのための王都に一年滞在せよ、か」

「そう。王都に滞在している間に、あれやこれやと理由をつけて、伯爵以上の身分の家に養子に入れるつもりだよ。そうしたら、身分が釣り合って妃になれるって寸法だ」


チッ、と舌打ちをするとアークはおかしそうにケラケラと笑った。


「兄上の花嫁は許せるかい?」

「リアは人前に出るのが苦手なんだぞ。許せるわけがないだろ」


何か策を考えなければ、と僕が考えたところで、は、とした。


「魔法伯の段階で、僕の婚約者にしてしまえば問題ないだろう」


そう言って、胸の内に甘い感情が湧き上がった。


「おいおい、彼女の意思はどうした。いや、お前なら、利点を説明して説得するだろうけどさ。でも、婚約破棄したときに、リアちゃんの経歴に傷がつくだろ」

「そこは、僕が相手を見つけるから問題ない。リアに見合う男なら、貧民でも僕が世話を焼く」

「そこは、自分が……いや、なんでもない」


アークはため息をつくと、「お前はそういう奴だよなぁ」と遠い目をした。


「なんで、そんだけ大事にしているのに、その考えが思いつかないんだか……リアちゃんを王都に連れてくる世話役になるために、騎士団の職を辞したのにさぁ」

「リアを守るために全力を尽くすのは当然だ」

「そういうところだよ、お前は」


 今更、当然を変えるつもりなど、僕には毛頭なかった。

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