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第22話〜眠りの国へ〜


フルーツやら紅茶やらを持って、僕はリアの部屋に向かっていた。


「旦那様、優しく、ですよ?」


セオドアに軽食を渡される時に言われた言葉だ。誰よりもリアを傷つけず、優しくしている僕に言う発言ではないだろう。そう思ったが、側近の言葉は受け入れるべきだ。


「わかっている」

「わかっていせんね……アルメリア様に嫌われても知りませんよ」


そんなことあるはずがない。


僕はリアの部屋の扉をノックする。


「入りますよ、リア」


僕は返事を待たずに部屋の中に入った。


リアはソファに腰掛けて眠っていた。本を読んでいたのか、彼女の膝の上には本が置かれていた。自分が渡した薬学の本だ。


少しだけ、気分がいい。


僕は持っていた軽食を机の上に置いて、リアを抱き上げた。


ベッドに運んでいる最中に、リアが重々しげに目を開く。


「せん、ぱぁい……?」

「目が覚めましたか。軽食を持ってきましたよ」

「食べ、ます」


リアは目を擦った。可愛らしい仕草に、内心ときめいたが、それをお首にも出さずソファに降ろす。


「フルーツをいくつか。最近、流行っているケーキ屋のカヌレとフィナンシェも用意しました。シェフが作ってくれたプリンもありますよ。どれでもお好きなのをどうぞ」


ハーブティーをポットからカップに注ぎながら、リアの様子を見る。眠たげにしながら、楽しげにお菓子を選ぼうとする姿に、優越感を覚えた。


こんな姿を見れるのは、自分だけ。自分だけなのだ。


薄暗い感情に思わず笑みが溢れる。


カップを渡して、僕は口を開く。


「貴方は友人を作れたのですか?」

「ゆう、じん……? サイラス君のことですか?」


イチゴを小さく齧りながら、リアは小首を傾げた。


「そうなんです、先輩。サイラス君、とってもお話がお上手で。仲良くしてくれました」


嬉しいです、と言ってリアは笑う。


「サイラスは騎士として、とてもいい人物です。好青年ですし、貴方と友人になる人間としては悪くありません」

「とってもいい人です。また会ってお話ししたいなぁ」


ーーまた会いたい?


僕は忘れていたのだ。


リアにとって頼れる人間はたった一人、僕だけではない。


リアは僕以外を選べる。


例えば、サイラスのような他の騎士でも、リアを守ろうと思えば守れるのだ。


偶然、魔法学校で会えたのが自分で、リアは自分に懐いてくれただけで。偶然が重なって今の関係があるのだ。


リアがその気になれば、この関係を崩してしまえる。


それがやけに腹立たしかった。


「ーーリア、貴方は僕じゃなくてもいいのですか」

「……え?」


リアは目を見開いて聞き返した。眠気がどこかに飛んでしまったようで、あわあわとし始める。


「先輩、それって、どういう意味で……やっぱり、夜遊びしたことを怒っていますか」

「夜遊びは、そのために護衛をつけていましたから、好きにして構いませんよ」

「だったら、どうして、そんなことを、聞くんですか」


裏切られたような傷ついた顔に、僕は言いようのない気持ちになる。リアが僕の言葉で傷ついた罪悪感と傷ついてくれた優越感。その二つがない混じったよくない感情だった。


「リア、僕は」

「私は!」


リアが僕の言葉を遮った。珍しいことだった。


「私は、先輩のこと、誰よりも、その……信頼しています。先輩じゃなくても、いいなんて! そんなことありません!」


そう言われて、僕は初めて自分の失言に気がついた。


リアを追い詰めて操ろうとする言葉だった。よくない。リアには自由でいて欲しい。それでいて、許されるのなら、ずっと、僕のそばに置いておきたい。だから、僕の発言は許されていいものではなかった。


「すみません、リア。リアに友人が出来たのを喜ばなければいけなかったのに」

「い、いえ、でも、友人が出来たのを、一番に言いたかったのは、先輩です」


リアはにっこりと無邪気に笑う。


「サイラス君、先輩のこと褒めていたんです。龍騎士こそがこの国で最も強い騎士だ、って。私、先輩が褒められてるのが嬉しくって」


無邪気に笑うリアに、僕は罪悪感でたまらなくなる。彼女を抱きしめて、彼女の肩に自分の顔を埋める。


「すみません、リア」

「なんだか、今夜の先輩は、甘えたさんですね。いつもと逆です」

「たまには、いいじゃないですか。僕も甘やかしてください、リア」

「ふへへ、いいですよ。ぎゅっとしましょう」


リアが僕の背中に手を回してくれる。


暖かくて優しい温もりに、僕は息を吐いた。


ーーなんて、落ち着く温もりなんだろうか。


先ほどまでの荒れた感情が凪いでいく。


「可愛い、可愛い、僕のリア。どうか」


僕のそばから離れないで、どこにも行かないで。


抱きしめる手に力を込めると、リアはくすぐったそうに笑い声を上げた。


「リア、明日は狩りの日です。朝から用意がありますから、早く寝ましょう」

「そうですね、先輩」


離れる温もりに名残惜しさを感じながら、僕はリアを抱き上げた。


「ゆっくり眠ってくださいね、リア」

「はい、先輩、おやすみなさい」


ベッドに降ろした後、彼女の額に口付けをした。


「おやすみなさい、アルメリア」

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