表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/22

第21話〜夜遊びの行方〜



「わぁ、すごく綺麗です」


私は手を叩いて歓声を上げていた。


噴水と魔法によるショーが夜の帳が下りた広場で行われている。


二十分で戻るなんて言ったけれど、結局、私はズルズルと宵の時間を過ぎて夜遊びに興じていた。


幸い、邸宅から出てくる時にお金は持ってきたから、帰りは辻馬車で屋敷の近くまで行って、身体強化の魔術を使って部屋の窓から戻ればいい。


先輩にばれているかもしれない、なんてちょっと思いつつ。


「魔術師のレディには、少々子供騙しかと思いましたが、喜んでいただけて良かったです」

「サイラス君は、こういうのお好きなんですか?」

「いえ、私には妹が三人いるのですが、妹達がこう言った催し物が好きなのです。レディは好きなものなのよ、と妹達は言っておりました」


いつの間にか、サイラス君を君付けで呼ぶことになっていた。


彼のたくみな話術で言質を取られ、渋々呼ぶことになったのだが、だんだんとそう呼ぶことが正しいように思えてきた。


「そうなんですね。私も綺麗なものは好きです」

「その指輪もお綺麗ですね、よく似合っています」


私は自分の指輪を見た。


先輩が出店で私に買ってくれた防御魔法のかかった指輪。ただの指輪のはずなのに、それ以上の意味があって欲しいと思ってしまう。


私はそっと指輪を自分の目線の高さに持っていき、思わず表情を綻ばせていた。


「……龍騎士殿から、頂いたのですか?」

「え、ど、どうして、わかったんですか?」

「レディの表情を見ればわかります。とても大切に思ってらっしゃるのですね」

「そうですね。この指輪は大切です。先輩が私に贈ってくれたものですから」


そう言って何だか恥ずかしくて、私はあわあわと言い訳を始める。


「それにこれ! 防御魔法がかかっているんです! 魔術師にとって防御魔法は呼吸と似たようなものですけど、それでも自分の身を守るのには有効です! 私は魔力量が少ないですから、その分こう言ったので補うのが良いと先輩はお考えなんですよ! だから、特別な意味があるとか、そういうのではなくて」


ーー特別な意味があるとか、そういうのではなくて。


そう、ないのだ。


浮かれていた気持ちが急激に萎んでいくのを感じる。


先輩は、私の身を心配くれただけで、それは別に特別な意味があるわけではなくて、ただの、後輩、だから。


「そんな顔をしないでください、レディ。せっかくの夜遊びなのです」

「で、でも、私、お仕事中のサイラス君まで付き合わせて……」

「巡回のルートに沿ってレディをご案内しておりますから、私には問題はありません。それよりも、レディの護衛の方が重要な任務です」


「何せ、レディは」と言って、サイラス君は黙った。私はサイラス君の方に視線を向ける。何故か、目を大きく開いてひどく驚いている。


「サイラス君、どうかしたのですか?」

「ほぅ、君付けで呼ぶくらいには仲良くなったのですね、リア」


地獄番人もここまで怖い声は出さないだろう。


「せ、せん、せんぱ……!!」


ーー先輩ぃ!!


私はひぃっ!と叫んで、思わずサイラス君の後ろに隠れた。


「王都に友人がいるとは知りませんでした。ねぇ、リア」

「せ、ん、ぱい……あの、怒って、ます、か……?」

「ええ、程々には」


それはかなり怒っているという意味では!?


「おや、保護者の方に見つかってしまいましたね」

「保護者ではありませんよ、サイラス」


先輩はサイラス君と知り合い?


そう言えば、先輩は騎士団の団長を務めていたんだった。騎士のサイラス君と面識があってもおかしくない。


「団長がお可愛らしい小動物を飼い始めた、とアーサー殿下から聞き及んでおりましたが、アルメリアとは思いもしませんでした」

「アルメリア……? 僕の前で呼び捨てで呼ぶとは、いい度胸ですね、サイラス?」

「私達は友人、ですから」


ひぃ!!

何が何だかわからないけれど、先輩の怒りがどんどん増しているのはわかる!!


「サ、サイラス、君……」


ぐいぐいっ、と彼の服の裾を引く。


サイラス君は私の方を見ると「いかがされましたか? レディ」と何故かかなり嬉しそうに言った。


「あんまり、先輩を、怒らせないで、ください……」

「おや、心外ですね。団長は私に怒っているわけではないのですよ」

「えっ!? わ、私に!? 私に怒っているんですか!?」


ばっ! と先輩を見ると、バチっと目があった。


「先輩……私に、怒って、いるんですか」

「……いいえ、怒っていませんよ」


先輩は私に手を差し出すと、懇願するように「帰りましょう」と言った。


「帰る、ですか」

「……帰りたくなくなったのですか」


帰る、と使うべき場所は研究室だけで、先輩の家ではない、と思う。


でも、帰ると言っていいのなら、私はーー先輩の家に帰りたい。


私はサイラス君の背からおずおずと出て、先輩の手を握る。


「帰ります。怒らないでくださるのなら」

「……もう怒っていませんよ」


あ、嘘だ。


私は何だかおかしくなって笑ってしまった。


「帰りましょう、先輩。お腹空きました」

「屋台で何も食べなかったのですか? いいでしょう、シェフが喜んで夜食を用意してくれますよ。貴方は食べる量が少ないですから」


先輩と手を繋いだ。


「サイラス君、またね」


私は手を振って、サイラス君に別れを告げる。サイラス君は少し目を細めると小さく頷いて「また」と言って礼をした。


先輩が握る手に力が入ったような気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ