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第20話〜後輩、騎士様と出会う〜




宵の時間。


私は、飛行魔術で屋敷から飛び出した。


飛行魔術でしばらく飛んで、噴水のある広場に降り立った。


そこは王都の中でも、一際出店が多くある場所で、夜の方が活気付くらしい。


先輩に行きたいと言ったら、夜は危ないからと言われて却下されてしまった。


それが悔しくて私はこっそり屋敷を出てきたのだ。


宵の時間はたったの三時間。


戻る時間を考えても、一時間で切り上げなければいけない。


私は足早に出店を見て回る。


アップルパイの店は甘い香りとシナモンの匂いがする。熊の形のカステラが売っていた。


装飾品類も多く売られており、可愛らしいものばかりだった。


やっぱり、こっそり出てきて正解だった。


私が出店を見ながら歩いていると、誰かとぶつかってしまった。体勢を崩して転びそうになった時ーー誰かが私を支えてくれた。


「ご、ごめんなさい!」

「いえ、こちらもよそ見をしておりましたので。レディ、お怪我はございませんか?」


金髪で碧眼。まるで、物語に出てくるような美丈夫だった。彼は剣を腰に下げている。

胸にはアレキサンドライト王国の王立騎士団の紋章があった。


「騎士……」


先輩がかつて所属していた騎士団の人だ。


「レディ、失礼ですが、お連れ様は?」

「え、っと、私、一人です……」

「レディがお一人で?」


訝しむような目を向けられて、私は「魔術師です!」と主張した。


「魔術師です! 魔術師免許は……置いてきちゃったけど、自分の身は自分で守れ、ます」

「これは失礼いたしました」

「い、いえ、それが、正しい反応、だと思うので」


騎士は胸に手を当てて一礼する。


「サイラス=クロウハーストと申します。どうか、私のご無礼をお許しください」

「クロウハースト様……!?」


黒羽の家紋を持つ五大公爵家の一つだ。

アレキサンドライト王国の者なら誰だって知っている家名。


私はあわあわとして頭を下げた。


「大変失礼いたしました! 私はアルメリア=アーネットと申します!」

「アルメリア=アーネット様……!?」


今度はクロウハースト様があわあわし始める番だった。


「宵花の魔術師様とは存じ上げず、大変なご無礼を!! どうか、お許しください!!」

「い、いえ、しがない魔術師ですので、どうかお気になさらず」

「そのようなことはございません! 貴方様がお使いになられる魔術の何と美しいことか! 私は貴方様ほど美しく魔術をお使いになられる方を存じ上げません!」


熱量に押されて、私は後方に数歩下がる。その様子に、彼は落ち着いたようで、「失礼しました!」と頭を下げた。


「憧れのお方に会えた悦びで失礼を。重ね重ね申し訳ございません。感情が前に出るなど、騎士としては大失態です」

「い、いえ、でも、どうして騎士の方が? 何か事件でも?」

「ワイルドハントが出現した事件がありましたので、見回りです。宵花の魔術師様と龍騎士が解決したと聞き及んでおりますが」

「さっきの……」


わたしと先輩で倒したやつだ。


「そんなに、深刻なんですか」

「そのようなことはございません。ですが、民の間では不安が広がっていますから、少しでも安心できる要素が必要でしょう」


そのための、見回り。役目とは言え、大変だろう。


「ですが、今夜はとても良いことが起こりました。貴方様に会えたのですから。レディ、宜しければ、私のことはサイラスと呼んでください」

「……!?」


高位貴族を呼び捨てで!? 一介の魔術師の分際で!?


「む、む、無理です!」

「呼んでくださらないのですか……?」


子犬みたいな目で私を見ないで!


「う……わかり、ました……サイラス様とお呼びします」

「敬称は不要です」

「必要なんです……!」


身分の高い人に対して、呼び捨てなんて恐れ多すぎる。


私はヤキモキしていると、サイラス様は剣に触れた。その瞳は、どこか剣呑さを感じる。


「失礼。レディ、お連れ様がいらっしゃるので?」

「え……いいえ、私一人です」


私は周囲を警戒する。


魔術師たるもの、いつ襲われてもいいように警戒を怠らないものだ、と先生が言っていた。


「……先輩だ」


先輩の護衛の人の気配を感じて、私は知らず知らずのうちに入れていた肩の力を抜いた。


「大丈夫です、抜け出したところを見られていたみたいです」

「おや、抜け出して来られたのですか? それはいけない方だ。ですが……なるほど、龍騎士殿が貴方を大切にしているわけがわかりました」

「そうなんです。先輩ってば、私のこといつまでも子供扱いするんです」

「そうではないと思いますが……いいえ、敵に塩を送りすぎるのも良くはないでしょう」

「敵?」


サイラス様は首を横に振った。


「どうか、お気になさらず」

「宜しければ、レディの夜遊びの供に私を選んでいただけないでしょうか?」


身分差を考えれば、断ることなどできない。でも、多分、サイラス様が言いたいのはそういうことではなく、私の意思を尊重してくれているのだろう。


「……私、あと二十分くらいで帰ってしまいますけれど」

「もちろん構いません」

「じゃ、じゃあ、そういうことなら、是非お願いします」


私はサイラス様に手を差し出した。サイラス様は柔らかく微笑むと私の手をとって歩き出した。

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