第17話〜王都での散策〜
宝飾店を後にして、私達は王都を見て回ることにした。
出店が並び、庶民向けの宝飾品や食品が並んでいる。
私はその一つに興味を持った。
「魔道具が露店で売っているなんて、珍しいですね」
私は魔道具を見渡した。
どれも簡単なものではあるが、魔道具としての役割を果たしうるものだった。それでいて安価なのだから、良い腕の魔術師が作ったのだろう。
「……あれ、これは」
そのうちの一つ、水晶とローズクウォーツが使われた指輪には一際強固な防御魔術がかけられていた。過剰なほどに。
「お? お嬢ちゃん、お目が高いな。それは宝飾品の魔術師の作品だ。試作品らしくて安価で譲ってもらったんだ」
「……へぇ」
宝飾品の魔術師といえば、魔道具作りの天才と呼ばれる人だ。魔法学校時代に何度か見たことがあるが、滅多にお目にかかれるものではない。
ーー本物だね。
「欲しいのですか?」
先輩のその言葉に首を横に振る。
「私よりも、もっとふさわしい持ち主がいます」
防御に関する魔術は基本的に、呼吸と同じように無意識に出来るものだ。私には防御魔術は必要ない。
「そうですね、貴方にはエメラルドが似合います」
「……そう、言ってくれるのは、とても嬉しいです」
ぎゅっと両手を胸の前で握りしめる。
「先輩が、買われてはいかがですか? 宝飾品の魔術師の魔道具は、試作品でもとても価値があります。だから、収集するのは良いことだと思います。それにこれは、防御魔術の品とはいえ、魔術師以外には有効です。護衛したいお方にプレゼントするのもいいのではありませんか?」
「ええ、そうですね。ですが、僕が贈りたい相手には不要の品です。ですが……宝飾品の魔術師ですか……」
先輩は指輪を手に取るとじっくりと観察した。
「店主、これを頂けますか?」
「へい、ありがとうございます」
お金を渡し、指輪を受け取ると、私の手を取って私の左手の薬指に指輪をはめた。
「せ、せ、せん、ぱい……!?」
「王都では何が起こるかわかりません。持っておいて損はないでしょう。あなたは魔力量が少ないですし」
「で、で、でも! こんなの!」
ーー婚約指輪みたいじゃない!
私は、顔を真っ赤にしてパクパクと口を動かす。
そんな私を満足げに見ると、先輩はそのまま私の手を取ってエスコートしてくれた。
二人でしばらく街を散策することにした。
その時だ。
「わっ!」
子供に押し飛ばされて、私はよろけてしまう。
先輩は私を受け止めると「大丈夫ですか?」と尋ねてくれた。
「はい、大丈夫です」
私はすっと、子供の方へと視線を向けると追いかけっこをしているらしかった。楽しそうだ。
「可愛らしいですね」
「ええ、そうですね。子供は愛おしいものです」
その時、片方の子供がもう一人を突き飛ばした。突き飛ばされた子供はよろけて階段を踏み外した。
「ーー駄目!」
私は魔術を使って風を起こすが、魔力が足りない。子供を持ち上げることはできない。
すぐさま、草木の魔法を使う。蔦を生み出し、子供を受け止める。そして、蔦で元の場所へと持ち上げた。
子供はきょとんとしていたが、事態を理解したのか泣き出してしまった。
私は慌てて子供のそばに行って、涙を拭う。
「怪我はない? 痛いところは?」
しゃくりあげながら子供は首を横に振る。
「怖かったね、大丈夫?」
「だい、じょう……ぶ、ありが、とう、お姉ちゃん」
「ごめん……こんなことになるとは思わなくて」
突き飛ばした方の子供が申し訳なさそうに言った。
「お兄ちゃんの馬鹿……!」
「兄妹だったんだね……二人とも、大丈夫だよ。落ち着いて」
二人ともの頭を撫でて、落ち着かせる。しばらくして、二人は泣き止んだ。
「遊ぶなら、もっと危なくないところで遊ぶんだよ」
「はぁい」
「ごめんなさい、お姉さん。ありがとう」
「お姉ちゃん、ありがとう!」
子供達は手を繋いで、去っていった。
よかった、と安堵の息を吐いた私の頭を優しい手が撫でた。
「先輩……?」
「いえ、微笑ましいと思いまして」
「微笑ましいって、一歩間違えば大怪我をしていたんですよ。傷を治療する魔法は許可がなければ使えませんし」
治癒魔法は魔力中毒を起こす可能性があるため、許可がなければ使えないのだ。たとえ、怪我をしたとしても、私達ではあの子達を助けてあげられない。
「そうですね。ですが、貴方には許可があるでしょう」
「え……?」
「花の称号はあらゆる特権があるのを忘れたのですか?」
忘れていた。
私にとって花の称号はあまり重要に思っていない。だから、特権の数々を記憶していなかった。
「貴方は自身の特権を理解しなさい。自分自身の価値を正しく理解しなさい。それが、貴方を自由にするのですから」
「……努力、します」
本当は、ただ研究室に引きこもって研究をしていたい。でも、いつまでもそれではいけない。私は、魔法伯なのだから。
「いつか、先輩の力になれる、私になります」
先輩は目を見張った後、やわらかく目を細めた。
「ええ、期待していますよ。私の可愛い後輩」




