表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/22

第16話〜後輩、喧嘩をする〜


宝飾店に入ると、先輩はオーナーに呼ばれた。


心配そうに私を見たあと、先輩は言った。


「ここで待っていてください」

「わかりました、お気をつけて」

「すぐに戻りますから、大人しくしていてください」


先輩は私を歩き始めた子供だとでも思っているのだろうか。


「何処へも行きませんよ。だって、先輩のそばが一番安全ですから」

「……そうですね。ええ、そうでなければ困ります」


私の頭を優しく撫でたあと、先輩は歩いて行った。その手が暖かくてやけにくすぐったい。


手持ち無沙汰になってしまった私は、近くの宝石を眺めることにした。


色とりどりの宝石が並んでおり、既製品もいくつかある。


貴族はオーダーメイドで作るというけれど、既製品があるのは何故だろう。急ぎの用事で購入することもあるんだろうか。


その時、大粒のルビーに目が留まった。大粒なだけでなく、その色の濃さも一級品だ。


「これを粉末にして加えたら、魔力を吸収してくれるかな……」


魔力中毒の薬を開発している私も、宝石を触ることがよくある。富は地中から出でるもの。宝石はその最たる例で、魔力を吸収する特性がある。一度に吸収しすぎると割れてしまうが、一定の割合でゆっくり注ぎ込めば、いくらでも吸収できる。


私も一つ宝石を身につけていて、そこに魔力を注ぎ続けている。私の魔力は微々たるものだから、宝石に溜まっていく魔力量は大きくない。それでも、いつかの備えとしては重要なものだった。


「あら、誰かと思えば噂の渦中のお方じゃない」


甲高い、耳につくような嫌な声がした。


顔を挙げると煌びやかな服装の女性がいた。


私は居住まいを正して頭を下げる。


「宝飾店に似つかわしくないお方だと思ったら、魔法伯を叙勲されるお方だとは思いませんでしたわ」


私は黙ってその言葉受ける。口を挟めばもっと大変なことになってしまう。


「そのような身なりであのお方の隣に立つなんて、不相応だとは思いませんこと?」


それは常々思っている。先輩に私は似つかわしくないんじゃないかって。


「貴方には不釣り合いかと思いますわ」


ふっ、と鼻で笑われた。


私はドレスを掴んで、その言葉に耐える。


魔法伯になろうとも、先輩と自分の身分が埋まるわけじゃない。現に、私には似合わないとはっきり言われてしまっている。


何を、浮かれていたのだろう。


でもーー私は、私だ。


それに、売られた喧嘩は買わなきゃいけないと教えられている!


「ええ、そうですね。私にはもっと質の良いエメラルドが似合うんですもの」


エメラルドは先輩の瞳の色。賢い人なら、この言葉の意味がわかるだろう。


私は先輩のような男性に似合う立派な人間だ、と言っている、と。


私には胸が張れるものはあまりないけれど、それでも、先輩の隣に立ちたいのなら、これくらいして見せなければ。


「な、何ですって、あのお方をどなただと心得ていますの! あのお方は……!」

「ガヴァーディル侯爵ですわ」

「そうよ! 貴方ごときがそばにいていいお方ではないの! 私のような公爵家の令嬢こそがふさわしいのよ!」

「私は、魔法伯を国王陛下より賜る宵花の魔術師です。そして、私がシルビオの隣に立つ者よ」


陛下から身分を賜るのはこれからだが、それは嘘も方便ということで。タイミングが違うだけで、実際に賜るのだから良いだろう。


「何より、私は誰よりもシルビオのことを大切に思っています! そう、誰よりも!」


私は私の気持ちを初めて口にしたような気がした。


「花の称号を与えられた魔術師は、古来よりキングメーカーと呼ばれているのはご存知でしょう?」


ごめんなさい、先人の皆様。私そんなにすごいわけじゃないけど、皆様の胸を存分に借りさせていただきます!


「本当に、私よりも貴方の方が、あのお方に相応しいのかしら?」


にっこり、と笑えば完璧だ。


令嬢は顔を真っ赤にして立ち上がり「失礼させていただくわ!」と歩いて行った。


私は、内心ガッツポーズをしてそれを見送る。勝ちましたよ! 先生!


「こら、はしたないですよ」

「せ、先輩、いつから見ていたのですか……?」

「貴方が自分をキングメーカーだと言ったあたりから、です」


よかった。大切に思っている、のところは聞かれなかったらしい。


私は自分の体温が上がるのを感じながら、先輩に「もうよろしいのですか?」と尋ねた。


「ええ、貴方の意見を聞かなければならないですから」

「私の、意見……ですか?」


先輩は私をエスコートするとお店の奥へと入っていく。一室の中に入ると、私たちは揃ってソファに腰掛けた。


「貴方が先日依頼した宝飾品が届いたのですよ」

「え!? こんなにも早く!?」

「えぇ、最も腕のいい職人が不眠不休で仕上げてくれたそうですよ」


私は職人さんに感謝しつつ、机に並べられた宝飾品に目を向けた。


「素晴らしいです……」


先輩の瞳と同じエメラルドが埋め込まれたそれらは、上品かつ華麗なデザインだった。髪飾りには、私のオーダー通り鷲があしらわれていた。


文句のつけようのない、素晴らしい出来だ。


「この宝飾品に合わせて、ドレスをデザインさせましょう。夜会までには間に合いませんから、後日の社交用にはなってしまいますが」

「そんな……楽しみ、です」


私なんかにそこまでしないで、と言いかけて、私は素直に好意を受け取ることにした。先輩からもらえるものなら、何でも嬉しい。


「私も、そのドレスで、先輩と踊りたい、です」

「ええ、ぜひ。踊りましょう」


私達はじっと顔を見合わせたまま、しばらく見つめ合った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ