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第14話〜乱入するは第二の星〜



魔法学校時代に、先生から言われたことがある。


『女たるもの売られた喧嘩は買わなければいけませんよ! ただし、買う場面は弁えなさい!』


その人は喧嘩っ早いことで有名だったけれど、その代わりにとても優秀な人。自分の失態は自分の功績でかき消してきた人だった。


「と、言うわけで、マナー講座をもっと、厳しくして、ください」

「やる気が出たのは大変結構ですが、理由がいささか……」


昼食を食べながら、私は先輩に決意を伝えた。やる気に満ち溢れた私に対して、先輩は何処か嫌そうにしている。


「あのお方は、リアに何を伝えているのですか……!」

「その通りだと、思いました」

「思わないでください」


スープを飲みながら、私はぐっ!と手を握った。


よく冷えた冷製スープが熱った体を優しく冷やしていく。


これも先輩の優しさだろう。


テーブルマナーを身につけるための食事だけらど、私の体調に合わせて考えてくれているのだ。


「あの、先輩……質問よろしいでしょうか」

「何でしょうか」

「立食式、なのに、テーブルマナーが必要なのでしょうか」


叙勲式の夜会はテーブルマナーを必要としない立食式のはずだが、毎日のようにテーブルマナーを叩き込まれている。

できることが増えるのは素直に嬉しいが、叙勲式のためなら必要のないことだ。


「嫌でしたか?」

「い、いえ、先輩のお手を煩わせるのは、その……申し訳なくて……」

「貴方のためにすることに、煩わされることはありませんよ。どちらにせよ、食事は必要です。貴方の栄養不足や睡眠不足の姿で陛下に会わせる訳にはいかないでしょう?」

「う……貧相で、すみません……」


自分の胸を見て、首を横に振る。だから、先輩が言いたいのはそういうことではないのだ。


「今の貴方はそれなりに見れる姿ですよ。話を戻しますが、貴方は一年間王都に滞在することになります。その間、ずっと立食式のパーティーだけに参加されるおつもりですか?」

「あ……パーティーにも、参加しないと、ダメですか……」


それはそうか、と思う。貴族のご令嬢は社交も仕事の一つなのだ。自分も貴族になるわけだから、パーティーなどの社交の場に出なければならない。


そのためのテーブルマナーだ。


「逃げて、ばかり、いるつもりはありません」

「貴方ならそう言ってくれると思いましたよ」

「そのための、武器の一つに、なるわけですね」

「ええ、貴方の強力な鎧になってくれるはずです」


スープを飲み干して、私は先輩の顔を見る。柔らかく微笑んだ表情には、美しいエメラルドの瞳が輝いている。やっぱり、私はこの色が好きだ。


私が先輩に何か言おうかと考えあぐねていると、にわかに扉の外が騒がしくなった。


「何事ですか」

「見て参ります」


そばにいたセオドアさんが部屋の外に出ようと扉を開いた時、ギョッとした表情を浮かべた。


「セオドアさん……?」

「もう! 酷いじゃないか! シルビオ! リアちゃん!」


ばんっ! と勢いよく扉を開けて入ってきたのは、アーサー殿下だった。


「で、でん、殿下!? どうして、ここに!?」

「何だい? お酒を飲んだ中じゃないか! そんな冷たいことを言うのかい!?」

「い、いえ、ですが、この前のことで叱られたのでは、ありませんか」


そう言うと殿下はげんなりした様子で「聞いてよ、リアちゃん!」と言った。


「父帝にこってり絞られたんだよ! リアちゃん連れ出して何やってるんだ! って!」

「陛下が、そのようなことを……?」

「おかんむりだよ!」


だから、あの手紙、か。

アーサー殿下の行動を失態だとでも思ったのだろうか。


私が誰と交流しようとも、それをとやかく言われるのはーー嫌いだ。


「腹が、立ちます」

「……珍しいですね」


先輩が目を見張っていた。


「アーサー殿下、私のせいで、ご迷惑をおかけいたしました」

「え、もう、アーク様って呼んでくれないの?」


ピキッ、と隣で音がした気がした。

おそるおそる先輩の方を見ると青筋を立てている。


「……せ、先輩」

「いいえ、何でもありませんよ。リア、食事を再開していてください。僕は、これを放り出してきます」

「だ、だめです。アーサー殿下は、この国の、第二王子、です」

「どうせ、公爵の位を与えられて市井に下りる男です。適当に扱っておきなさい」

「う……それでも、だ、め……なのかな……?」

「リアちゃんまでそんなこと言うのかい……王子様だよ、僕」


アーサー殿下は勝手に食卓に座るとセオドアさんに「紅茶をもらえるかい?」とまるで我が家のようにくつろぎ始めた。


「食事中を邪魔して悪かったね、続けて」

「お前の分はない。帰れ」

「お構いなく〜」

「第二王子相手に構うなと言う方が、無理だろう」


先輩は私に椅子に座るように促すと、私を席までエスコートしてくれた。そして、自分も席に座ると足も腕も組んで不機嫌そうに眉を寄せる。


「それで、何の用だ」

「用は無いよ? 友人達に会いに来るのに、理由が必要かい?」

「友人、達……?」


先輩の表情がさらに険しくなる。


「せ、先輩……お顔が……」

「いつ、リアとお前が友人になったんだ」

「えー、酒場で飲み交わした仲だよ? それはもう友人と言って差し支えないはすだよ。ね? リアちゃん」

「えっと……そう、ですね、アーサー殿下」

「アークって呼んでよ。僕も、リアちゃんって呼ぶからさ」

「アーク様……?」

「そうそう、よろしくね、リアちゃん」


私とアーク様は顔を合わせて、ふふっと笑い合う。怖い人だと思っていたけれど、何だか、とてもいいお方な気がする。


「リアが、いいのなら……」

「何だい? 僕とリアちゃんが仲良しなのがそんなに不服かい?」

「お前のような奴がリアのそばにいるのに、反対しない理由がどこにある」


「ひっどーい!」とアーク様は冗談めかしていった。


「友達を作るのも社交の一環だよ」

「これも、社交……!」


なるほど! 私も貴婦人に近付いている!


嬉しくて笑っていると先輩は頭を抱えた。


「これと仲良くすることが社交であってたまるか……」

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