第13話〜後輩、宣戦布告を受ける〜
頭が痛い。
初のアルコールにテンションが上がって、呑みすぎてしまったらしい。
ベッドの上でミノムシのようになりながら、唸り声を上げていた。
「もう、二度と、呑みません……」
「そうしなさい、大馬鹿者」
扉を開けて現れたのは先輩だった。
「先輩、レディの部屋に、ノックもしないで、入ってきてはいけません、よ」
「呑みすぎで二日酔いになった大馬鹿者に、そのようなことを言われる筋合いはありません」
うっ、と思わず言葉を詰まらせた。
「朝食の席に来れないほどに、酷いそうですね? 心配をかけて楽しいですか?」
「せ、んぱい、ごめんなさい……」
私はしょんぼりとして肩を落とした。先輩はベッド横の椅子に座ると不機嫌そうに足を組んだ。
「せっかく、先輩が、用意してくださった、のに」
先輩は思ったよりも柔らかな表情を浮かべて、頭を優しく撫でてくれる。優しくて温かいその手に、私は思わず笑みを浮かべた。
「それは構いませんよ。ただ、リアとの食事を存外楽しみにしていることは覚えていてください。今日は、一日屋敷で執務をしていますから、昼食には来れるように」
「絶対に行きます」
「よろしい。無理はしないように、いいですね」
「はい、先輩」
私はギュッと両手を合わせて握りしめた。
先輩が私との食事の機会を惜しんでくれるのが嬉しい。心配してくれるのも嬉しい。
「そう言えば、アーク様、じゃなくて、アーサー殿下は大丈夫だったでしょうか」
「アーク様……? そう言えば、あいつは貴方のことをリアちゃん、とふざけた呼び方をしていましたね。そのような仲になったのですか?」
先輩の瞳に剣呑な色が宿る。
何やら、よくないことを言ってしまったらしい。
「先輩、怒って、ますか……」
「怒ってはいませんよ。ただの悋気です」
「りんき……? りんきって、何ですか?」
「ああ、古い言い回しですからね。知らないのなら、それで構いません」
先輩は、私の髪を両手でぐしゃぐしゃとかき乱した。私のふわふわ髪がボサボサになってしまう。
「せ、せっかく、綺麗にしてもらった、のに」
「綺麗にしている姿も可愛らしいですが、今の姿の方が、僕は見慣れていますから」
「可愛らしい……」
そう思ってくれるなんて、胸が暖かくなる。
「先輩、そんなことより、アーサー様は?」
「……アークなら、セオドアが王城に送り届けましたよ。今頃、こっぴどく叱られているでしょう」
「そんな、私が勝手に呑んだだけなのに……」
「いいんですよ、たまには。あの馬鹿王子はお忍びをしすぎなんですよ」
先輩は舌打ちをすると立ち上がった。
「貴方は何も気にせず、養生しなさい」
「はい、先輩」
私が頷いた時だった。外からノック音が聞こえてきた。
「誰ですか」
「私です」
セオドアさんの声だ。
「どうした」
「はっ、王城より使いの方がお見えです。アルメリア様に陛下より、手紙を預かってきている、と」
私と先輩は顔を見合わせた。
陛下からの手紙は私自身が受け取らなければならない。二日酔いで代理を立てるわけにもいかないだろう。
私は小さく頷いて布団から出る。
「セオドア、すぐにメイドを集めてください」
「はっ、すぐにご準備をして参ります」
セオドアさんが離れていく気配に、先輩は眉を寄せていた。
「申し訳ないですが、用意をしてください」
「私は大丈夫です。後で、二日酔いの、薬を調合します」
「貴方の得意分野ですね」
ふふ、と笑い合った。
先輩は「では」と言って部屋から出ていった。
私は魔術で二日酔いに効くきのみを作って食べる。ほんの少しだけ気分が落ち着いて、頭の痛さも和らいだ。
「頭を切り替えよう」
ボサボサになった髪をドレッサーの櫛でとく。元のふわふわ髪に戻っていくのを見て、日々の手入れの大切さを感じた。
これからは、もっとちゃんと手入れをしよう。
「失礼致します、アルメリア様」
返事をすると様々な道具を持った複数人のメイドが現れて、皆揃って一礼した。
「ご準備を行います」
「お願い、します」
メイドが持ってきてくれたドレスは、薄緑色の肌触りがいいものだった。ドレスを着せてもらい、髪を結われ、化粧を施される。
短い時間だと言うのに、とても美しく仕上がっていた。
私は姿見で自分の姿を確認した後、メイド達に礼を言って、陛下の使者へ案内を頼む。
逃げるわけにはいかないし、逃げる気もない。
客室に案内され、中に入ると、騎士団に守られた妙齢の使者がいた。
「アルメリア様、お待ちしておりました」
「大変お待たせして申し訳ございません」
私はスカートをつまんで一礼をする。
そして、その場で跪いて陛下の使者の言葉を待つ。
「こちらが、陛下より賜ったお手紙でございます」
「拝領いたします」
手紙を受け取ってから立ち上がり、使者があけるように促すまで待つ。
「どうぞ、お開けください」
「ありがとうございます」
封を切って手紙を開けると、そこには簡潔にこう書かれていた。
ーー宵花の魔術師、アルメリア=アーネット。汝に会える日を楽しみにしている。
これはーー宣戦布告だ。
逃げるな、と言う意味の。
最初から逃げるつもりなんてこれっぽっちもない。
私は自分に自信がないし、不安だらけだけれど。
「恐悦至極に存じます」
ーー売られた喧嘩は買うものだ。




