表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/13

第12話〜後輩、酔う〜


苛立ちを抱えて、僕は酒場へと向かっていた。


アークとリアが酒場で食事をしに出た、と聞いたのは、王城からようやく帰れた夜更けだった。


アークが勝手に酒場に行く分にはいい。いや、護衛なしでうろうろする王子がいていいわけがないのだが。


屋敷をすぐ飛ばして馬に飛び乗る。セオドア以外の護衛を置き去りにして、僕は酒場へと向かった。


アークが行く酒場は一つしかない。その酒場は中流階級の者か、裕福な者が利用する治安のいい店だった。


リアを連れ込むのなら、そこであって欲しいと言う思いもあって、その酒場へ向かうことにする。


馬を走らせて単身酒場にたどり着いた僕は、酒場の中へと入った。


「お待ちください! 旦那様!」


静止するセオドアに内心イラつきつつも、一度立ち止まる。


「何ですか?」

「侯爵の御身分の旦那様が、酒場の中に入るのはいささか」

「関係ありません。リアを連れ戻さなければいけませんので」


その時、一際大きな歓声が上がった。


「おお! すげぇな! 嬢ちゃん!」

「ありがとうございますぅ……」

「飲み過ぎだって、リアちゃん」


ーー今の声は、リア?


何故か一つの机に人々が集まって騒いでいるようだった。その中に、リアがいるらしかった。


「もう一杯! どんどん持ってきてくださぁい!」


またリアの声がした。


嫌な予感がして、足早に人だかりの中へと向かう。


「失礼」


人々の波を押し除けて、僕はリアを探す。


リアを見つけて絶句した。


机に置かれた大量のグラスに、僕は頭が痛くなる。後ろにいたセオドアも頭を抱えていた。


リアが呑んだと思しき大量の酒とそばで眠そうにしているアークがいた。


「何を、しているのですか、リア」

「あれぇ……せんぱぁい……? どうしたのですかぁ……?」

「ようやく来てくれたよ……やっと、俺も眠れる……」


すっかり出来上がったリアに、僕は小さく息を吐いた。初めて見た、彼女の酔っ払った姿を。


赤らんだ頬に潤んだ瞳に、僕は一瞬見惚れて首を横に振った。


「酔っているのですね、全く」


側にいるアークはすっかり酔っ払って眠り始めていた。護衛もなしで何をしているんだ、この男は。


可愛いリアを守りもせずに放置するだなんて、許されることでないだろう。


ーー目を覚ましたら絶対に一発殴る。


僕はそんなことを考えて、リアがさらに飲もうとした酒のグラスを止める。


「これ以上はやめておきなさい、リア」

「大丈夫ですよぉ」

「君の大丈夫は信頼できない、とこの前も言ったではありませんか」

「ほんとぉに、大丈夫ですよぉ〜。全然、飲めますよぉ〜」

「どれだけ呑んだのですか」


グラスを数えようとして、途中でやめた。そんな生産性のないことをするよりも、この馬鹿達を連れて帰る方が良いに決まっている。


「セオドア、お前はアークを送り届けろ」

「はっ、どちらにお送りいたしましょう」

「王城に」


セオドアは本気か? と言いたげな表情をしていた。


「酷く、お叱りを受けるとは思いますが」

「構いません。この男は少し痛い目にあうべきです」

「旦那様の宝物に手を出したから、ですか」


その言葉に、僕はセオドアを睨みつけて黙らせる。


「当然のことを、わざわざ口にする必要はありません」


僕はリアを抱き抱えると、人混みの中から彼女を連れ出した。


リアは嬉しそうに微笑むと僕の胸にすりすりとすり寄る。その動作が微笑ましくて、いまの今まで抱えていた怒りが霧散していった。


「リア、そんなことで許されると思っていませんよね」

「せんぱぁいは、怒っているんですかぁ?」

「ええ、無茶な飲み方をしている貴方に、怒っていますよ」

「私、強いですよ。唯一の取り柄ですもん」


「まだ呑みますぅ」と、また僕の胸に擦り寄る彼女の頭をペチンと叩く。それなのにも関わらず、彼女はさらに笑みを深くした。


「綺麗……」

「綺麗、ですか?」

「うん、とっても、綺麗……」

「何がですか?」


リアは両手をあげて、僕の頬に触れる。むにゅむにゅと指を動かして、僕の頬の柔らかさを堪能している。


「何ですか、リア。そろそろ怒りますよ」

「エメラルド」

「エメラルド、ですか? 僕は宝石を身につけていませんが……」

「先輩の、瞳が、とっても綺麗です」


ひゅっ、と喉の奥で音がした。

ごほん、と咳払いをして僕は動揺を押し隠そうとする。酔っ払い相手にそこまでする必要はないのだが、プライドがこうさせていた。


「僕の、瞳の話ですか」

「そうですよぉ〜、えへへ、先輩、宝石を買ったんです」

「好きなだけ買うように、と伝えてあったはずですが」

「だから、エメラルドを買ったんです。先輩とおんなじ、だから」


誰だ、こんなに酔わせたのは。アークか。あいつを引っ叩くのはやめてやろう。


「そうですか、気に入ったものがあって良かったですね」

「はい! とっても!」


また胸に擦り寄るリアの頭を優しく撫でる。


「やめなさい」

「えへへ、ごめんなさぁい」


謝罪しつつも擦り寄るのをやめないリアに、僕は呆れつつも、こっそり喜んでいた。


「馬車で来るべきでしたね、今の貴方を抱えて屋敷に戻るのは難しそうです」


飛行魔術で帰ると言う選択肢もあるが、リアを落として怪我でもさせたら事だ。


「仕方ありません、辻馬車を探しますか」


僕は少し逡巡して、リアの頬に口付けをして、大通りに向かって歩き出した。


「ゆっくり眠りなさい、僕が側にいますから」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ