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第1話〜マラカイトのワイルドハント〜


 想い人に恋人ができたと知ったのは、進路に悩んでいた頃だった。

 後からそれは嘘だったと知ったけれど、それでも、私の初恋が叶わないと思い知らされるには十分だった。



この時の私なんて、誰かを守ることすら考えられていなかったのだから。




 マラカイトの街にワイルドハントの群れが出たと言う話は、いとも簡単に街を混乱に陥らせた。

 

 ワイルドハントは正体不明の災害だ。


 彼らが現れた街は人の命のみならず、あらゆる命が奪われ尽くし、ゴーストタウンと化してしまう。


 近しい現象として蝗害があげられるが、被害規模は比べ物にならない。


 人は長い時間をかけて、ワイルドハントと戦い、辛酸を舐め続けている。


 私は杖を握りしめて、必死に詠唱を続けていた。


 防御。それから、空気を圧縮。圧縮。圧縮。


 魔力が持っていかれる。苦しい。


「燃え上がって」


 圧縮された空気を着火すると大きな爆発が起こった。それだけで私の魔力が吸い取られていく。


爆発で幾らかのワイルドハントは吹き飛ばされたが、キリがない。次から次へと、ゆらゆらと体を揺らして私たちへと迫ってくる。


 偶然にも、マラカイトの街で厄除けの儀式を行っていた魔法学校の生徒達は、ワイルドハントを押し留める役目に駆り出されていた。


 私達は戦闘慣れしていない。ほとんどの人は研究職に就くのだ。戦う力はあっても、今の今までやったことなどなかった。かく言う私もその類で、卒業後は草花の研究に勤しむはずだった。


 終わりが見えないワイルドハントとの戦闘に、私達は着実に、疲弊していく。


 その時、自分の横からぬったりとした動作でワイルドハントが現れた。姿形は人間に似ているが、身体を構成しているのは液体状の何かだ。



「ひっ! さ、咲き乱れて!」



 私が叫ぶと体から魔力が少し減る。必要以上の大規模に草木が生え、勢いよく伸びた枝がワイルドハントを大きく弾き飛ばした。肩で息をする私にマテウス=ヴァンルージュが空から叫んだ。



「魔力を無駄遣いするな!」



 同級生ながら、戦闘職に就職が決まっているマテウスは、授業で戦闘の訓練を受けている者の一人だ。


 この場では強者に分類される。私は涙目になりながら「わかってる!」と叫ぶ。


 こんなところ一刻も早く逃げ出したい。

 戦いなんて本当はしたくない。

 怖くて怖くてたまらない。


 それなのに、怒られなくてはいけないだなんて理不尽がすぎる。


 空を裂くような雷鳴が轟いた。それは、簡単にワイルドハントをなぎ倒す。続いて大量の水が津波のように押し寄せる。それらはまるで生きているかのように、私達を避け、ワイルドハントのみを押し流した。


 援軍だ。


 私はほっと息をついた。



「アルメリア!」



 その油断がよくなかった。


 自分の真横、鋭い爪を持ったワイルドハントがいた。

 


 死ぬ。



 漠然と、そう思った。


 その瞬間、ワイルドハントを突き刺すほど鋭い植物の蔦が私を守るように現れた。その魔法には覚えがある。



「マテウスの言う通り、魔力を無駄遣いしないようにしなさい」

「ーー先輩」

「あなたには必要のないことかもしれませんが」


そっと、先輩が私に触れて、後ろから抱きしめた。


暖かい。


「さぁ、時刻は貴方のための宵です。貴方らしく、魔術をお使いなさい」


 私から溢れた想いは、果たして貴方を守れるだろうか。


「ーーはい、先輩。私は貴方を信じています」

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