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2-4 不穏

 薬草採取の為に森林区域に踏み入ってから、表現し難い感覚が湧き続けている。

 隣を歩くエルミラの表情を横目で覗う。差し当たって別段変わった所はない。

 俺の杞憂であるならばそれでいい。しかし、歩を進める毎に違和感……不快感といっていいだろう。それを一層強く感じると同時に、確信へと変わっていく。

 空気が淀んでいる。詩的な比喩表現でも、緊張感や臆病風に吹かれている訳でもない。肌に突き刺さるような感覚と息を吸う度に空気に重さを感じる。間違いなく、この森の魔素濃度は異常だ。

 ヒトによっては魔素に対して敏感な体質の者がいる。恐らく俺はその類であり、その所為で体調不良に陥ることはないようだが、このまま探索を続けるのは危険だろう。

 「あなたも気付いたのね」

 いつの間にか足を止めたエルミラが俺に問いかける。

 「この森、魔素が充満しすぎているわ。ダンジョンが存在した土地だからある程度は濃度が高くても不思議はないけれど、何か異変があるといって間違いないでしょう」

 驚きで目を見張る。素っ気ない面持ちだったが、俺と同様にこの森の異様さ気が付いていた。そして、にも関わらず眉一つ動かさず平然としていられる事に。そして、

 「だから、貴方は先に帰っていなさい」

 彼女がそう言葉を続けた事に。

 「何を言っているんだ。その言い草では君だけここに残ると聞こえるぞ」

 「そう言ったのよ」

 魔素は空気内に含まれる気体の一種であり、生物の生命活動にも必要不可欠な物質である。だが同時に、魔素とは毒でもある。過剰に吸ったり浴びたりをすると最悪死に至る場合もある……と昔誰かに教わった……気がする。

 保有魔素の多い尖耳族は他種族に比べてこれに対する抵抗力や適応力が高い。だがこの森の空気はその枠組みでは収まらないレベルだ。例え尖耳族であっても、長居出来る場所ではない。

 「どうして?」

 「原因を探るのよ。このままにしておく訳にはいかないでしょう」

 「それはそうかもしれないが……君が身を挺する事ではないだろう」

 「いいえ。私が率先してやらなければならないことなの」

 穏やかで悪戯っぽく、けれど艶やかなエルミラの姿はそこにはない。まるで使命感のような、確固たる強い意志が窺える。

 「……理由は分からないけど、なら俺も一緒に行くよ」

 強引に連れて行こうとも考えたが、彼女は一度決めると何が何でも屈しない頑固者に思える。かと言って彼女の言う通り一人で帰る気も更々ない。俺も大概頑固なのだろう。惚れた弱味、ともいうのか。

 エルミラは少しだけ悩んだように顎に手を当て何かを逡巡した。

 「……まあ、あなたなら多少は平気でしょう。丸耳族だけど魔法が扱え、この空気に耐えられているようだし。でも、私が次に帰りなさいと言ったら素直に従ってちょうだい」

 「……」

 返答はしない。エルミラを残して一人だけ逃げ果せるつもりが毛頭ないからだ。

 そこから言葉もなく、魔素のより濃い場所を目指し二人で進行を再開した。

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