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1-3 冒険者組合

 空は薄命。日が沈みかけ、直に宵闇が染め始める頃。

 俺は商業区域の一端にある広場のベンチに腰を掛け、噴水から吹き上がる水の飛沫を呆然と眺めていた。

 結果だけ言えば何の成果も得られなかった。修道院を出て今までの半日間、各所に赴き事情を説明して回ったがそれらしい遺失物や手掛かりはなく、最後の頼み綱である冒険者ギルドでは登録まで漕ぎ着けなかったのだ。



◆◇◆◇◆◇◆



 冒険者ギルドは各地に支部を置く自治団体施設である。

 その昔、未開拓地が世界に溢れていた時代は数多の冒険者が存在し、ギルドの運営も盛んだった。ダンジョン探索や魔獣の討伐や調査、危険地域への採取などの依頼が集まり、手に職がない者も手軽に金銭を稼ぐ事が出来るからだ。

 しかし月日は流れ、華々しい冒険者の時代は衰退の一途を辿る。理由は至極単純、需要と供給の減少。その陰には魔石産業と称される当時の新技術の存在が関係にある。

 魔石を加工して作られる魔装具(まそうぐ)なるものが開発されると世界に激震が走った。それまで魔法とは使用者本人の魔力に依存し、魔力量が少ない或いは皆無の者には無縁で未知なる力だった。事実それが生物の優劣を付け階層構造……平たく言えば上下関係に大きく影響していた。魔法の扱いに長ける者こそが優秀であり神に愛された者であり、行使出来ない者は劣等種、といった具合に。

 だがその魔装具を所持または装備すれば使用者の魔力に関係なく魔法を使うことが可能となった。正確にはその魔装具に刻印された魔術式で展開されるものに限定されるのだが、たったそれだけでも革新的、いや革命的な発明だ。

 閑話休題。

 魔石の加工を主とする求人が増加し、態々自身の命を危険に晒してまで冒険者を生業にする必要性がなくなったこと。魔装具の誕生による副産物として軍事力ないし個人の戦力が格段に向上し、討伐や護衛の依頼が減っていったこと。未開拓の土地やダンジョンの存在が希薄となり、探査依頼も縮減したこと。冒険者ギルドの凋落にはこれらの理由があげられる。

 故に組合所は閑散とし、職員も大幅削減。掲示板に貼られた依頼書は雀の涙。待合室はご年配の方々の井戸端会議の場として使われる事が専ら。


 ……と思っていたのだが。


 ギルド内は活気付いている。

 軽装の者もいるが胸当てや鎧を着こんだ者もおり、パーティと思しき集団や歴戦の猛者の風格を漂わせる老兵など多種多様な面々が覗える。

 組合所そのものは三階建ての構造。ここ一階が受付兼待合所。この場所だけで大人二百人程度余裕で収容出来るであろう広々とした造り。受付の職員が二人。清掃や依頼書の整理等の雑務を熟す職員が見えるだけで三人。何れも身綺麗な制服を着用し、立ち居振る舞いも姿勢正しく慇懃である。俺の知っている話とは大違いだ。思い返せばここの外観も石造りの立派な造りであり、何度か看板と建物を確認してしまった。

 二階以降は会議室や職員専用の部屋が設けられているらしい。現在は立ち入り禁止の立て札が置かれて閉鎖されている。

 都会にやってきたばかりの田舎者の雰囲気丸出しで見回してしまったが、俺が冒険者ギルドに訪れた理由はひとつ。当面の活動資金の獲得、依頼の受注だ。

 修道院を出て先ず最寄りの自警団詰所、次に騎士舎へと向かった。記憶喪失である部分だけ端折って事の経緯を話し、該当するような遺失物がなかったかを尋ねたが結果は空振り。騎士の一人に遺失物届を出すよう勧められたが自身の名前すら思い出せない為やんわりと断り、礼を告げてその場を去った。この時既に時刻は昼を過ぎていた。

 つまり俺にはもう地道に金を稼ぐしかない訳だ。

 丁度空いた受付の前に立つと、若い女性の職員が手本のような会釈をし笑顔を向ける。

「いらっしゃいませ。ギルド証を拝見致します」

 ……うん?ギルド証?

 「えっと……では、そのギルド証を作りたいのですが」

 「失礼致しました。新しく登録をご希望のお客様ですね。では身分証明書のご提示をお願い致します」

 ……なにやら雲行きが怪しくなってきた。

 「身分証明が必要なの、ですか?」

 「はい。冒険者という職業は危険が伴います。万が一を想定し、お客様の所在を記録する規則となっております」

 おいおいティティさんや。冒険者ギルドに行けば依頼を受けられるとしか言ってませんでしたよね。身分証明が必要とは聞いておりませんよ。

 確かに、冒険者には等級が存在する。等級が高い者ほど危険だが報酬の高い依頼を受託することが出来たり、国から直接依頼を出されるケースもある。その証明がギルド証である事は知っている。が、雑用のような仕事には必要なかったと記憶していた。

 「俺はこの国の出身ではなくて、所在が分かるものを持っていないんです」

 この時、ほんの僅かだが女性職員の眉間が動いた気がした。

 「左様でございますか。では入国許可証やお客様のご出身の国のものでもご対応出来ますので、何かございませんか?」

 「いや……持って、いません」

 「では申し訳ございませんが、改めてそれらをお持ちいただきご来訪ください」

 一礼する女性職員の優しい微笑みを余所に、俺は成す術なく組合所を後にした。

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