衝突
どーん、と。
目の前にいたヨロヨロが吹っ飛んでいく。
死の寸前の俺から得体の知れない何かが迸り、圧縮された風の様なものとなり目の前の敵を吹き飛ばした。
俺はマゾ。
18歳になりMの黙示録なる天啓を頂戴した、最強の男である。さぁどこからでもかかってこい!
と、思っていたのだが。
不思議だ。戦い方がまるで分からない。
そもそも得体の知れない何かが迸っているのは俺ではない。俺の後ろから滾っている。
『マリア…』
溢れる風の胎動、響く地鳴りの出所を求め後ろを振り向いた俺はとんでもなく驚いた。
「ソーマ…!これって…!」
浮いてる。浮いてるのだ。
地面10センチ程の所をフワフワという形容詞ではなく、ゴゴゴゴと周囲の空気を震わせながら浮いている。
溢れ出す命のエネルギーを極限まで抑え込み、周囲に留まらせた物といえば分かりやすいだろうか。
結果浮いている。
俺は理解した。
謎の声さんは言っていた。最強の自己犠牲スキルだと。なんて事はない、俺が強くなったと思っていたがどうやら自分の代わりにマリアを強くしていたらしい。
見たら分かる。ありえないくらい強そうだもん。
「グガッ…ギ…」
吹き飛んだヨロヨロが起き上がりこちらを見ている。
鋭い眼光、妖しく煌めく爪などはフンフンと素振りなんかをしている。まだ戦る気だ。
『詳しい事はあとで話すけど、マリアは今すんごく強くなってるからあのヨロヨロ倒せるかも!』
「えぇー!」
こんな時なんて説明すればいいのやら。
全て分かってる人からしたらさっさと攻撃してくれれば終わるのに、何をもたついているのだ!と思うのですがまぁ上手くいかないよね。
誰か教えて欲しい物だぜ。
『とりあえずアレ!あの光の矢をぶっ放しちゃえ!
今ならあのヨロヨロ倒せるって!』
「う、うん!」
(人を動かす時には、具体的な事を示してあげると割と上手く解決します。)
俺の言葉を素直に受けてくれたマリアは光の矢を放つモーションに入る。
その姿を見たヨロヨロは、もはやヨロヨロでは無くハヤハヤで突っ込んで来た。この魔族ににも焦りが見て取れる。
背中に生えた翼を折り畳み空気抵抗を抑え、正に「私凄く速いです」と言った感じでヨロヨロは疾風となった。
マリアに精神を落ち着かせ、矢を中るという所作をやっている暇はない。諸々の工程をキャンセルし驚きの速さで驚きの白さの矢を放った。
あちらが疾風ならばこちらは光だ。
初弾以上の威力と速度を持って撃ち出された矢の衝撃で、俺は前のめりにぶっ倒れた。
ずしゃ、と倒れ込みながらも俺は矢の行方を見守った。
もちろん矢は直撃。直撃なのだが…
『ゲ…』
あの野郎…耐えてやがる。
綺麗に頭を撃ち抜かれればいいものを、よりによって顔面の前で交差させた腕で凌ごうとしている。
マリアの矢は初心者から見ても数倍は強くなっている。それは最強と言われた天啓のお陰であろう。
その最強が魔族最弱に耐えられている?
ダメだ。
そんな事は許されないし、許さない。
そんな俺の心とは裏腹に、ヨロヨロは見た目以上に頑丈な脚先から伸びる爪で地面をガッシリ掴み、脅威の背筋力で背を反らすと、のけぞりながらも交差した腕で受け止めていた光の矢をまたしても空へ弾き飛ばした。
俺とマリアの初めての共同作業は星になった。