Mの黙示録
とてもゾワゾワして気持ちが良い。
どうやら死んだようだ。
「いいえ、死んだのではありません」
『?』
気づけば俺は白い空間に浮いていた。
暑いや寒いもなく上も下もない。
強いて言うなら目が疲れるくらい白かった。
そんな所に謎の存在を感じる…
なんか居るってのを感じる…
『死んでない?』
「ええ、貴方は死んでません。18歳になったので今まで事情があり渡せなかった天啓を与えに来ました。
気付きませんでしたか?ちょうど日付が変わり貴方は18歳になったのです」
声だけ聞こえてくるもんで凄く不安になっていたのだが、何かがプツと鳴ったかと思うと白の空間に何やら映像が浮かび上がった。
「ちょうどこの瞬間ですね。」
見ると俺の顔面にヨロヨロの爪が突き刺さる瞬間であった。
『あ、死ぬ直前ですね。ここから貰える天啓があると?』
俺は絶望した。
ここからはどんな天啓でも状況を覆す事が出来ないからだ。何より、恐らくだがこの謎の声と対談が終われば現実の時間に戻れるわけだが、俺はマリアに愛してるの「る」を言えてない。戻った直後に「る」を言わないとマリアへの想いを伝えきれないのだ。難しすぎるぜ。
こんな事なら子供達の避難に付き添えば…
「貴方らしくもない」
『え?』
「貴方が受け取る天啓は今回の貴方の選択無しでは全く意味がありませんでした。そしてもし違う道を選んでいたら、この選択をしなかった事に気が狂うほどの後悔をしながら死んでいく事となります。」
『そんなに』
顔は見えない…見えないけどもそして何故か…理由も無い、無いけども何となくこの人優しい気がする。
『その天啓とは一体…』
「その天啓とは、<Mの黙示録>。
神聖で真性のマゾに贈られる最強の自己犠牲スキル。」
『は?』
「Mの黙示録です」
『そーじゃなくて!』
この謎の声さんは凄い事を言い始めた。
俺が真正マゾだと。死ぬ寸前にこんな笑い話を…って、あ!
『もしかしてだから18歳…!』
「えぇ、R-18です」
今年の誕生日は嬉しかったり悲しかったり怖かったり凄く忙しくて泣きそうだぜ。
「しかしこの天啓、貴方1人では発動できません。」
?不思議な事を言う。俺が貰った天啓だろうに。
「パートナーが要るのです」
察した。なるほど。真性マゾの天啓だからな。
逆も然りだが、本来この手の話には相手となるパートナーがいないと成立しない。
自己完結では成り立たないのだ。
稀に自分を傷付ける自己破壊願望がいるが同じにしてもらっては困る。
しかし俺には…
「そう、マリアさんが居ます。
これは誰でも良いわけではありません。
貴方が心の底から尽くしたいと思った人でなければ駄目なのです。」
!
目から何か落ちた気がする。
貴方は真性のマゾですと言われてムッとしたがなるほど、確かにマリアの為なら屁とも思わない事ばかりだ。
「先に言っておきます。
この先、パートナーとなんどもこの天啓のお世話になると思いますが、プレイの難易度でスキルの出力が3倍から8兆倍ほどまで変わります。」
『そんなに』
「ですので、勝てない敵が出てきたからと言って急に難易度を上げてしまうと…」
ゴクリ…
「貴方の体が壊れてしまいます」
恐ろしい…
『しかし俺は本当に真性のマゾなのか?どうも信じられない』
そうなのだそこが1番な問題なのだ。
自分がマゾである事を拒もうと脳がフル回転をするのだ。
考えてもみればそうだ。本当の自分がこんな変態であるわけがない、や。
「こっち側」で良いのか?やり直しは効かないぞ、など。
拒否の気持ちが強すぎて神聖な真性では無いのではないかと疑わずにはいられない。
認めてしまうと今までの価値観がガラリと変わり、通常の生活を送れなくなるのではないか。
そもそも俺は責める方が好きなのではないか。
「安心してください、貴方には素質があります。
実はこれまでもマリアさんの態度や言葉に身体が反応しています。間違いありません、真性のマゾです。」
(うわー失敗したー!)
(もぅバカねー)
ゾワリ…
これも
(ご、、ごめん!)
(もうソーマなんて知らない!大っ嫌い!)
ゾワリ…
これも
(なんか方言喋ってみて)
(きさんなんしょーとかコラ飛ばすぞコラ)
これは違うか…
しかし思えば頷ける事が多すぎる。
まさか…俺は…本当に…
「えぇ、とびっきりのマゾです。それも神聖で真性の。他の追随を許さない圧倒的な隠れマゾです。」
とんでもない罵詈雑言をよくもまあツラツラと並べられるものだ。
だが、真実だからなのか、マゾだからなのか俺は自信に満ち溢れた顔で受け入れた。
「だからこそ、この天啓は貴方の物なのです。
さぁそろそろお渡ししましょう、この
<Mの黙示録>を。」
『一体どうすれば…』
「名前を…」
『ソーマ…』
改めてはっきり言ってやった。
『俺の名前はソーマ=ゾデス』
「そう、マゾなのですね」
『そう、マゾです』
隠れも何も最初からマゾであった。