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朝7:00。伝説の朝の幕開けだ。
戯言を言いながら洗面所に向かう。
シャコシャコシャコシャコ…
心地いい歯磨きの音が響き渡る。
ガラガラガラ…ヴォエッ!!
心地悪いうがいの音が響き渡る。
そうして朝のルーティンを迎えた俺は家を出る。
一人暮らしなので見送ってくれる親もいなければ一緒に登校する幼馴染もいない。寂しい。
「おはよー!昨日の銀曜ロードショー見た!?」
「みたみた!オナりのトトロ!良かったよね〜」
「え、誰?」
知らない女の子との朝の挨拶を終えたところで俺は校舎に向かう。
下駄箱を開くとそこには一通のラブレターがあった。
「ふむふむ、今日の昼休み屋上にて待つ。ね」
完全に果たし状特有の字だったがまぁ字が汚い女の子も俺は好きだよ。
中に入っていたカッターを捨て、教室へ向かう。
教室に入ると驚きの光景が広がっていた。
黒板に大きく書かれていたのは
“昼休み、屋上で決闘!!"
「まいったな、屋上は今日要入りなのに…」
俺は1人で項垂れると同時に周囲からの熱い視線を感じ取った。この時俺は完全に理解した。これは俺に対する決闘の申し込みなのだと…。
もちろんこんなことをされて素直に屋上にいくはずもなく、俺は中庭で持参した二郎系ラーメンを食べていた。
「うっひょ〜!ワシワシとした食感、たまらん!」
1人で食レポまがいのコメントを残していると後ろから水をかけられる。
「おい黒毛、てめえ屋上来いって言ったよな?あ?」「障害者は屋上もわかんないのかなぁ」「なんで二郎食ってんだよ…」
いわゆるいじめっ子集団が俺の背後に現れた。
その中でもリーダー格のダーク・クリスマスは水の使い手。おそらく先ほどの水はこいつの能力だろう。
「てめえに教育するために昼休み時間削って屋上で待ったってのに何メシ食ってんだよ、黒毛ぇ?」
「何をするのも俺の勝手だろ、教育なんか頼んだ覚えはないしお前から教わることはない。」
「てめえ言わせておけばチョーシに乗りやがって!」
ダークは腕をこちらに向ける。
「おいおい良いのか?こんな人に見られるところで派手な能力使ってみろよ、センコーに捕まって面倒なことになるぞ?」
「チッ!人気のないところにはせいぜい気をつけるんだな!」
最後に三下っぽい忠告を残すとダークとしもべ達は引き下がっていった。
「うまくやり過ごせたか…」
俺は水増しされて薄くなったラーメンを飲み干した。
少し派手な騒動を起こすとすぐ注目される。特に黒毛となれば、だ。あいにく俺は修行の末「時間停止」を手にしたがこれは決して戦闘向きの能力ではない。こと戦闘においては結局無能力者となんら変わらないのだ。だから争いごとは避けるに限る。
だがそれでも避けられないものは避けられない。
俺が通ってる学校は特殊なカリキュラムが組まれている。
この学校では生まれ持った個人の能力を効率よく養成するためには戦闘が1番だと考えられており、授業の一環として戦闘という科目があるのだ。もちろんこれはルールに則った上でさらに医療班の確保や力を抑制させる設備を充実させて成り立っているため授業外での戦闘は御法度とされている。
無能力者を理由に授業を免除してもらうことはなぜか叶わず、この授業で俺は常に笑われ者になっていた。
そして午後最初の授業は戦闘。相手はかなり優秀な女の子らしいが、なぜ無能力者である俺と対戦を組ませたのだろうか。
憂鬱な気持ちと疑問を抱えたまま俺は授業へ向かった。