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「この世界で頂点に立てる能力はなんだと思う?」
黒毛の男は問いかける。
「全てを燃やす地獄の業火や、万物の温度を奪い去る凍てつく氷塊を操る力ではない。ましてや人を操る力や物理法則を捻じ曲げる力でもない。」
「時間を超越する力だよ。」
西暦2900年、この世のほとんどの事象は科学で解決できる時代にノート・ヴァレンタインという男が生まれた。
この時代の人間は科学の介入で受胎した者がほとんどで、彼らはそれぞれの遺伝子に適合した一つのスキルを持って生まれる。ある者は無から火を作り出し、ある者は触れずとも物を動かす念力を手にした。
そんな中生まれた彼は、科学の介入なしで生まれた異質な存在であり何の能力得ていない無力な「障害者」であった。
これはそんな彼が時間停止系AVに憧れ日々修行を重ねて得た1つの能力で奮闘する物語である──。
俺はノート・ヴァレンタイン。能力を持つことが当たり前の世界なのに無能力で生まれ、周りからは障害者と蔑まされている。
何もできない俺の特に気に入らないのがこの黒毛で、無能力者は必然としてこの髪色で産み落とされる。
何が嫌って、長蛇の列に並んだ時は当たり前のように最後尾に立たされ、学校では僕の教科書だけなぜか全ページ破れられる。この黒毛のせいだ。
大昔は障害による差別が少なくて誰でも平和に暮らせる世界だったらしいけど今はダメ。黒毛は何をしても迫害される。挙げ句の果てには動物にも唾を吐きかけられ、足で踏まれる始末。
そんな俺にはある趣味がある。そう、AV鑑賞だ。
AVには夢が詰まってる。あれはいい。全てを忘れさせてくれる。
特に小さい頃から気に入ってるのが時間停止系AV。
時間を止めて欲望を解放させるその姿に感銘を受け、日々時間停止の修行に明け暮れていた。
最初は無駄だと思ったけど、なんか詳しい人が1割はホンモノだって言うから長年続けてる。
そして気づいたら手にしたんだ、この能力「時間停止」を。
一つ欠点があるとしたら自分も動かないことくらい。致命傷じゃねえか。
ここで諦めるわけにもいかなくて修行は今日だって実施している。全ては漢のDreamのために。
とはいえ明日は月曜日。登校日なのでもう寝る。