魔女の遊び
さて、呪いの病の元凶だが推測するに病にかかった強力なモンスターを更に拷問を加えてそのまま生かして縛り付けるようなことをして土地に呪いを染み込ませてそれを他の動物、ネズミなどに感染させて広げているんだろうことは推測できる。私もわざわざ呪術を取ったが呪いと言うのはこの世界では物理現象のひとつだ。マナ物理とでも言うべきか。
特定の情報を加えたマナを相手に打ち込むとその情報の効果が相手の中に循環するエネルギーに作用して方向性を加える。平たく言うとこれだけのことだが力関係とか密度とか従属可能性とか強制力とかこれだけでひとつの物語ができちゃうほど細かいんだよな。それはおいおい考えていくとしてまずはこの呪病の仕組みだが、これは菌そのものが呪術に感染していると考えられる。特定の病に犯された生き物がその呪いを病そのものに当て続けた結果病が呪いに変わるという。もちろん病を呪っているわけではなくて呪う対象がいる。今回の場合は人間だろう。病原体は中間宿主であり病原体そのものだ。つまりやべーってこと。
つまり人間がなにかの生き物を病に犯させたあげく生かしたまま拷問にかけるような胸糞悪いことをして病の種を作っているわけだ。術者は防毒とかしてやってるんだろうな。やられてるのはある程度知能の高い生物なんだろうから亜人、ゴブリンとかオークとかオーガとかコボルトとかのシャーマン種じゃないかと思う。それ以上となるとドラゴンとかもいるが、そこまでしないと疫病を広げるほどにはならないのかもしれないな。シャーマンは精霊の力で魔術を使うがそのためマナは高い。イルマタル経由の魔法ではなく原始的な生物が使えた魔術だ。世界にマナが存在するということはそれを当てにした進化形態が存在するということ。ただ、マナを扱えるようになるにはかなりな脳容量、情報操作力が必要になるようで原始的な生物はほとんどマナを使えないようだ。なんというか元の世界の物理も世界は精密に作られてるなと思わせたがこの世界はその上にさらにマナがある。物理的に存在するというと変だが物理と並行した次元として存在している。
まあそれは論文かけるくらい理論があるんで置いといて、呪病だ。正直発生源の村あたり調べたらすぐ見つかるんだがどうしようかね。戦争を止める方法っていろいろあるはあるんだ。和平するのが一番だがなかなかそうは行かないんだよな。一方的に民を殲滅するのは生産力を落とすことにもなるし。そもそもが気候などで生産性が落ちた時に間引きのような意味で戦争をすることもある。未熟な世界では全員で飢えるか戦争をするしかなくなる。品種改良なんかでも何年もかかることでそれはまからない以上緊急的に数年持つ対策を打って絶滅を防ぐ、そんな防御機構があるのかもしれない。どのみち現代日本のように豊かだと想像がつきにくいが飢饉でもそうじゃない国から輸入したらいいと言うのは大きいし強い。自国で生産できるがゆえに輸入という手が取りづらい大国だとそこは不利だったりするんだ。なんせ気候にダイレクトに景気を左右されるからな。日本の輸入依存というスタイルは安定性という部分では実は有利なんだよな。
さて、実際にそれらしきもの、呪物というか生贄というか、犠牲になってるドラゴンがいるな。そして虫がたかってそれを痛めつけている。虫にそんな習性はないのでテイムされてコントロールされていると見るべきだろう。虫ってハチとかトンボだと肉食だけどカブトムシとか樹液しか吸わないというのも珍しくない。最強の昆虫と言えばトンボだな。有名。ゴキブリやフナムシは雑食。
ゴキブリみたいなのにたかられてるドラゴンは案の定呪いをまきちらしている。さっさと救ってやろうかね。
パチリ、と指を鳴らせばドラゴンは開放された。そしてその状態の意味がしばらくわからずにキョロキョロしている。私が上から見ているのを見つけて助けたのが私だと理解したらしい。ぎゃあ、と可愛らしく鳴いてから虫をあっさりかじり殺しショートブレスで焼き、復讐を果たしていく。普通にやれば負けるはずないよな〜。最強生物だもの。最強におごってる生物なんて怖くもなんともないが最近のドラゴンは狩られることが多くてその持ち前の知恵で進歩している。誰だよドラゴン狩りまくってるの。良くないぞ。また真竜狩ってオークションしないとな。資金はいくらあってもいいし〜。ドラゴン保護もしないとな。
まあそれは置いといて、このあたりに……予想通りテレポート用の板が置いてあった。五メートル四方の大きな板でテレポート先のポイントとして確保されているものだ。これを使って異大陸から渡ってきたわけだ。昆虫が支配してる大陸なんてすごく気持ち悪そうだが行くしかないな。マイルームの機能でテレポートポイントの逆算、こちらからテレポートできるようにする。
「虫だけに虫好かんな」
「悪い人は倒すよ!」
「たまには私も暴れるか〜」
魔女三人はやる気である。
「私も」
「「「「神が出るな!!」」」」
「えー、仲間外れとか神いじめ辛いんですけど〜」
魔女三人はノリノリだから大陸いっこ沈めるのは余裕だが神が出たら銀河畳むのも朝飯前だからな。楽しめないからな。ほんと存在するだけで全知全能って無能でなにもできないんだよな。だって何かする前にわかってるからやる必要がないんだ。やらなくてもどうでもいいからな。未来は全部わかっているわけで。神辛くね?
「人の身サイズでやるから! さきっちょだけ!」
「さっきっちょて。まあ面白そうだから見物させてもらうけど」
魔女たちが暴れるのも十分に面白いだろうけど、神がどうするか見てみたいよな。大破壊とかやってくれるんだろうか。それはそれで面白そうじゃね? どうせ無かったことにするんだろうしな。
呪いの大本を断つというか、そもそもこの大陸に攻めてきてる虫大陸の奴らにちょっと黙っててもらう。なのでまあ軍事施設を破壊していくんだが、赤の魔女リディアがどう成長したかとかも見れるな。あとは弟子たちもたまには暴れたいかもしれんな。スクルドとマリーちゃんもまあ半端なく鍛えてるからな。私はいいや、軍隊相手に無双するのはもうやったしね。
虫大陸に移動したらまずは星のんがスカートの後ろあたりから地図を取り出す。どこからか取り出したように見せてるけど創ってるんだろうなぁ。ちょっと遠い目になったが地図を見る。大陸の大きさは一国が支配できる程度の大きさで大したことはないがこれ全部焼くのは無理だな。一応治安は安定しているが外敵を作って攻めてるのはその安定のためでもあるんだろう。人をひとつにまとめるには必要なことだ。そういう時代である。近代でもそんなもんだからな。政治をまとめるのに外向きに敵を作るのはよくあることだ。
なのでまあ統率できなくするだけで戦いは終了。中央を潰してしまえばいい。中央集権はやはり強いからな。だが混乱をもたらすために各武装勢力も潰させてもらう。まかり間違って孤軍で暴走されても困るしな。立て直しに金と時間がかかると戦争はやりづらくなるだろう。まあ本格的に潰してしまうのもな。
それでどう攻めるか考えるのに敵の大陸のマップを立石に出してもらい一か所ずつ潰して回ることにした。いくつかの国を倒して作られた虫帝国ことスプリンクハーン帝国なので一国ずつ潰していく形になりそうだ。内部の事情がわかるなら効果的な潰し方とかも考えるんだが面倒くさいので一国ずつ戦闘不能に追い込んで向こうの動きを見る。内乱になるならそれはそれで良し。エゲツない? いや、戦争仕掛けてくるほうが悪いだろ。
それではいってみよう。まずは水野からやるらしい。いつ決めたの? くじ引き? 神がサイコロ振った? それインチキじゃないの?
「ほんだらいくわの」
水野はとりあえず大きめの国の城に乗り込む。帝国に取り込まれた哀れな国のひとつだけど今はノリノリで尖兵として送り込まれているらしい。領地は切り取り放題となるとそれは張り切るだろう。微調整のために飛び地を売り買いするとしても持っていると有益なのが土地だな。他の大陸にも手を出してるようだが戦術としては間違いだろう。世の中を知らなすぎるというかたぶん海を渡れない情報の限られる世界だから仕方ないのかもな。他の文明圏を遅れているとして攻めた結果方向が違う進化をしているだけだったのでやられた、とかな。英語もしゃべれない日本人と言う人が日本語をしゃべれた試しがないようなもんだ。おそらく英語圏の人が日本語を覚える難しさと日本人が英語を覚える難しさはあんまり変わらないんだと思う。まあそれは置いといて。
「まっすぐかちくらっしゃげたらえーんちゃん?」
まっすぐ攻めて王をどついたらいいんじゃない? らしい。まあこの国はそれでいいんじゃね。一応爵位として伯爵の位らしいけど帝国に完全服従してるわけでもない。固まったばかりの国がすぐに機能するほどインフラ整ってないからな。ヒュドラが統一意識を持ってなかったら首が絡まっちゃうよな。
青の魔女水野はまっすぐ街を凍らせながら進んでいく。そもそも絶対零度なんて現代科学でも再現が難しい物を普通に扱えるので線状にマナを放ち空気を凍らせて周囲の気温を吸収しつつ液体となった窒素や酸素が降ってくる。液体化した空気は密度が通常の七百倍から千五百倍とかあるわけで化学反応すると爆発しかねないな。液体酸素はロケットの助燃剤として使うように熱を加えれば燃えるものがある限り爆発的な燃焼を可能にする。なのであちこちで火のあるところが爆発している。すげー惨劇だな。凍った空気のダイヤモンドダストが気温で溶けて雨になり液体酸素は可燃物と熱に触れた瞬間に爆発を起こす。災害だわ。さすが魔女。まあマイルームの権能で一人も死なないんだけどな。実際には痛みとか死の恐怖とかは残る。目的は戦争反対の風を吹かせることだ。そもそも魔女なんで法や倫理なんてどうでもいいしだけど人死なんてメリットが低いことはやらない。世の中には無駄も必要だが必死になる必要もないしな。
水野はサラッと街の建物を崩壊させていくと城へ向かう。この地域にもともとあった国の城だが元王族は地方領主として残っているようだ。要するに戦争になったら即座に降伏して褒美で命をつないだ感じ。よーするに負け犬野郎なのでもっと強い力が現れたら即座にペコちゃんするのである。こういうのは国民には嫌われるが私は無駄に死ぬより命をつないで次へつなぎたいね。まあ自由がある限りはな。独裁を許し選択肢の無いまま死ねと言われたらそこからやっぱ嫌だとは言えないんだよな。だからまあ王政にするにしても立憲君主制にして政党は民主的にしたほうがいい。当たり前だけど人間って馬鹿なんだよな。変化を受け入れ外からの感覚を受け入れないとどこかで行き詰まる。
そしてここの領主はやはり即座にペコちゃん。まあ内乱とかさせるつもりもないんで一旦解体したほうが早いかもしれないが負担が増えるのはな。なので王政は維持して内政重視政策を取らせる。地球ならAIでロボットが全部やってくれるようになるとしてもこの世界じゃ人間が働かないと良くなるはずもない。現実は厳しいねえ。
まああんまり私らが手を入れ過ぎたらそれはそれで意味がないからな。なんでもやってやる義理もないし。とりあえず交渉とか一人で終わらせた水野を迎え入れる。なんだかんだ言ってコイツも魔女である。
「もーちょい暴れたいけんどね」
「順番だろ順番。次はリディアちゃん頑張ってね」
「私だね! うん、やってみる!」
とりあえずマイルームマイワールドで領地を部分的にくり抜いているのでどれだけ破壊してどれだけ人が死んでもこの範囲内ならなかったことにできる。宇宙を消し飛ばしても星のんがなかったことにするしね。なかったことにされるとなにがあったかわからないのでやってんだかどうだかわからないけどなんでも自分の思うままにしたらなんにもできないのと変わらないからな。自由の究極は不自由の極みという。面白いよな、世界って。
とりあえずどんなことができるようになったのか、見せてもらおうか、赤い魔女の才能とやらを!




