暴虐の魔女
さてさて、一回目の最後がまあ少し大変だった。アントニオのおっさんも本気出したけど剣聖オウリさんが傭兵として参加してたんだよな。こいつがやべえ。レベルは百六十ほど、もちろん十分高い。黒いショートヘアに明るい赤紫の瞳がどこか星のんを思わせる。ショタだけど。たぶん自力で仙人になっちゃったタイプだ。普通に剣じゃまったく勝てる気がしない。トレーニングルームで戦ったレベル二百超えの剣士より強え。魔法でやるしかないが窒息も大規模破壊も後でやるんでここはタイマンでぶっ殺したい。これがもうスピードで勝ってるのにまったく攻撃は当たらないわ迂闊に距離を詰めようとしたらすぐに向こうから距離をゼロにしてくるわ、え、人間だよな?!
「この前やった神もどきより圧倒的に強えな」
「あー、あいつな。あれを追い出したのワシ」
「やるな〜。さすがに剣聖だな。神でも殺せるかもな」
「悪さしてるなら殺しに行くがそうでもないからな。戦争も飯が食えないならやるしかないだろう」
「止めてくれたら楽なんだけどな〜」
「ワシ一人じゃ無理だな」
協力してもらうのもありだがたぶんこの人私とおんなじで自由にやるタイプだからな。絶対変なことするだろうしほっといたら適当にやるだろう。しかし隙がない。どうすんだこれ。アントニオのおっさんたちは悪いけどキャンディをラッシュして消し飛ばしておいた。うーん、あとで復活するけど嫌なもんは嫌だね。
「傭兵だし金次第だろうけど」
「ワシ好きなことしかせんよ?」
「だよな!」
キャンディとか見えないキャンディも使う。距離を詰めるとか無理だ。一合合わせたら首が飛ぶ。スピードじゃない、力じゃない、隙間を縫い合わせて読み切って誘って首を落とす。近づけん。なのでまあ反則だけど、爆風の檻で閉じ込めてさらに空気も窒息方向で無酸素に変える。
「おっと、こりゃ、無理か? さすがに魔女だな」
「なんで動けるんだよすげーな」
「いや、もうマナが尽きる……」
どさり、とオウリは倒れた。うわー、コイツと何度もやり合いたくねえわ。まああとは一撃で虐殺だけど。
まずは全員復活させる。状況を確認するまでは待つ。まあオウリの兄さんが何があったかは話してくれるだろ。
「さて、第二ラウンドと行こうか」
拡声して言ってやれば、う、うおおおお、と動揺しつつも叫び向かってくる騎士たち。大したもんだね、一回死んだら普通に切り替えるの難しいんだけど。まあ近づいたやつから、馬も人も倒れる。叫び声も動揺もない。後ろからやってくる奴らは止まるし動揺するがコートのポケットに手を突っ込んでゆっくり歩いていく。
「死の風、どこからでも攻めてこいや」
なにもできずにどんどん倒れていく兵士や騎士、馬も誰が持ってきたのか使い魔のモンスターたちも手も足も出ない。ゾンビとかいたら倒せなかったけど幸い呼吸する奴らしかいない。本陣の前まで行くとアントニオのおっさんたちは全員顔を青くしている。
「生と死を司る魔女だからな、これくらいは見せんと」
「す、凄まじい。村や町どころか大都市でも全員殺せるということか」
「やらんけどまあよっぽど勘がいいとかでも無理だろうね。気づいたら死んでるから。オウリさんはさっきのこともあって気づいて風をまとってるけど。まあやっぱりズルさせてもらう」
この人普通にズルしないと倒せん。下手な神じゃやられるだけじゃね? 不断の努力ってマジチートだよな。誰にでもできる? ホントに? 私にはとても無理だね。遊ぶのはできるけど。
「ベル、頼んだ」
「きゅ」
「あ、風の精霊逃げた。そりゃないぜ」
「うーん、あんただけはズルしないと倒せん」
一回見せた技は通用しないタイプだぞこの人。まあ剣聖なんてやってるんだからそうなんだろう。命なんて狙われまくってるはずだからな。
さて、死屍累々、二回目。三回目はどうしようかな?
「三回目はじめっぞ。ベル、全力で遊んでやりな」
「きゅっきゅー!」
「う、うわあああああああっ!」
「ひえええええ!」
「ぎゃああああああああ!!」
ベルが全力で嵐だの雷だの砂塵だの巻き起こしまくって暴れ回る。キャンディも大きなサイズで放ちまくってる。キャンディって大きさを倍にすると四倍の力がいるんだよな。サッカーボール大とかエゲツない威力だぞ。うーん、派手。さすがにやりすぎじゃねーかって感じ。さすがにオウリの兄さんでも風の精霊王には勝てないか。私の方に向かってきたけどベルが私を巻き上げる。まあ死なんけどゲームのルールとして私がやられたらアウトなのを理解しているわけだ。やっぱベルは賢いな。ベルに勝てるのは同族か精霊王か天使くらいだ。もうこれだけでも白の魔女に逆らっちゃ駄目ってなるだろうな。まあ別に世界終わらせないけど。
「さて、最後でいいか。絶望ってのをひと目でわからせときたい。覚悟はいいかな?」
大きな声を戦場に響かせるベルの魔術。さすがに三回も死んだらすでに泣き出すのとかいる。心を壊さないようにマイルームの設定で痛みや恐怖を鈍らせてはいるけどそれでも死んだ記憶は堪えるだろうな。戦争してたらいずれそうなるんだから別にそうなっても仕方なくねーか? 嫌ならやめたらいいじゃん。現地の思い? 知らんがな。命より大切な思いなんて未来への希望くらいじゃね?
さてさて、風をまとい空高く飛び上がる。兵たちの真ん中辺りまで飛んで空に片手を突き上げる。手のひらの先にマナを集めていく。巨大な、巨大な。そして今回はベルが全力で協力する。風が、渦を巻き空を、天を巻き込んでいく。プラズマ化し雷鳴が轟きさらに風が集まっていく。
渦を巻き、うなり、光を放ち、球体はどんどんとふくらんでいく。ベルの力で小山ほどの塊ができていく。その光だけでも太陽より眩しく、すでに多くの兵は目を開けていられない。叫び声や泣き声や悲鳴や、およそ人が絶望したときに放つあらゆる声が上がる。
「すべてが終わる。小さな太陽。破滅の一撃・終末の光!」
星を砕く核融合。小さい太陽を出現させヘリウム以上の原子さえ融合して作れるようにさせる大規模な破壊エネルギーの衝突。私一人ではとてもできないが世界を支配できるベルの力を継ぎ足せばできる。
原理で言うと数億気圧のプラズマを集めさらに熱も集め中心にマナでレーザーのように集約しその中心付近に重水素とかを集めて核融合を起こさせ連鎖させるという、まあベルが賢いから教えたらできたという凄まじすぎる技だ。できたときはベルもめちゃくちゃ大喜びしてたわ。これ天使でも制御困難じゃね? まあ天使とかからは次元が変わってくるんで物理でなんとかならないかもしれないけど。ミネルバに聞いたら頬を引きつらせてたわ。マイルームの外じゃやるんじゃないって言われた。そういえばマイルーム制御できるんだから私も物理効かねーわ。そもそもマイルームじゃ無敵だしな。天使にはギフトは効かん。星のんしだいだろな。
かくして、半径一キロ直径にして二キロ、全部吹き飛んだ。誰も生きてないって当たり前か。チートの限りだからな。この大地の破壊の状態のまま全員生き返らせてっと。本陣のとこに降りていく。終わったしトレーナーとナイトキャップに着替えてでかい熊の頭型のぬいぐるみ(ニメートルくらい)に乗って降りていく。ふあーあ。終わった終わった。
「おつかれ〜。どうだった?」
「ははは、うはははははは!!」
オウリさんはめっちゃウケてる。この人心臓強すぎない?
「うぬう、これでは力でどうにかとかは無理だな。完全に無理だな」
「そりゃそうだろ」
アントニオのおっさんも笑ってやがる。私でも核融合なんぞ起こされたらたまったもんじゃないわ。文字通り太陽が落ちてきたんだからな。ちなみに温度変化無しなら一京気圧はいるけどさすがにそれはベルでも制御しきるのが無理だった。ただ核融合反応をいくつか重ねてさらに気圧や熱量を上げる仕組みまで再現してるからな。それでも空気とかまでは普通は核融合しないんだけど。超新星爆発を再現するのはまだまだ無理だな。マイルームの機能使ったらできちゃうんだけど。やらねーよ。普通にやるには代替エネルギー集めるのがまず無理だし。太陽一個くらいじゃ起こせないからな。近くのデカい恒星捕まえにいかないと駄目だしそんな無茶する意味ないわ。月を落とせば惑星一個くらい滅びるし。うーん、滅ぼす意味まったく無いよな。世界なんて滅んだらいいのにって子供の頃はよく思ってたけど今はな〜。再現可能じゃないと駄目だよな。ちなみにベルに超新星爆発を教えたら宇宙を飛び回るようになったぞ。精霊は意識だけで飛べるから光速超えられる。
ふう、まあ宇宙とんでもねーって話だな。人間同士でバチバチやり合ってる程度のエネルギー次元ではとても再現不可能だから。ブラックホールとか。そんなことできるならもっと手前の弱い力で人間殺せるからな。そんな無駄なことしてんなって話。光速を超える宇宙膨張とか人間に制御できるといいな。できねーよ。てか意味がない。
カルダシェフスケールが上がっていくとマルチバースの宇宙を支配するようになる説あるけどな。一人一銀河とか一宇宙もらえるとして何をするんだって話。星のんはあんがいそのレベルの宇宙の知的生命体にすぎないのかもしれないぞ。まあやることは変わらないだろうけど。宇宙滅ぼしてもまったく面白くないぞ。汚え花火だ。スケールデカいだけ。デカいスケールで喜ぶのは小二までだろ。
そういうわけで生きてる人間は自分のスケールで生きるべきなんだよな。政治家も考えても星の未来までだろ。私も考えても戦争を無くするとこまでだな。戦争なんて物語の中だけにしとけ。人的資源がもったいねーわ。そこが一番コストかけるとこだろうに。まあAIとかできたらそっちにコスト移るんだけど。あとはエネルギー開発だけだな。
そういった社会構造はまだまだこの世界くらいだと見えてこないんだけど。未だに一領地をどう支えるかレベルの考えしかないんだ。そして資源が限られている以上それは仕方がないことだ。ダンジョンの傾向から言って資源が十分に賄える性質のものではない。例えば全部鉱山なら農業に力を入れる、とかできるが内容はバラバラだ。食料品しか出ないダンジョンもある。冒険者が限られてる上に資源の傾向がまばらで得られる量が分散して十分な量が得られない。ここで値段を釣り上げて冒険者たちに還元することでその分野の冒険者、例えば食料品分野の冒険者を増やす、とかは経済として正しい姿勢だ。国が一括管理するシステムになったほうが良さそうだが冒険者は基本自由人で、そのためにギルドがあるんでそういうわけにもいかない。まあだから資金還元で競争が起こる。ここまでは健全なんだよな。物価は高くなるけどインフレのほうが最終的に手元に入ってくるお金は増えるしな。そうなると必要なのは資源を増やすこと。ここにまた労働力が必要になる。消費と労働は経済の大切な歯車だからな。社会の歯車にならないやつはただの欠陥部品だ。いらねえよそんなもん。廃棄されたら怒るくせに必要なことはしないってなんだよ。アホなこと言って笑わせようとしてるならつまんねーよ。
まあそういうわけで人的資源は必要、戦争駄目、絶対。理論的に考えても情緒的に考えてもおんなじだろ。結局筋が通るか通らないかだ。
「さて、無力な王国軍の皆さん、現実を理解したかな? 戦争はやめようね」
「ぐぬぬ、しかし攻めてくる者共は返り討たねばなるまい!」
「それはそう。だが融和する向きもある。ぶっちゃけ誰がリーダーでもおんなじなんだよな。上が何者かでなく下が働くかどうかなんだわ。やる気なんてそもそも政治で決めるもんでもなかろう。しかし自由は必要なんでそれを守る必要はある。だが自由は必要だが横暴は必要ないってことだ。まあ豊かになるのが必ずしもいいこととは言えないんだよな。幸せの方向性が掴めなくなって到底手に入らない物に手を伸ばそうとする。そして苦しむ。道化だわ。豊かさが必要なのは飢えてるレベルまでだな。それ以上は個人の努力。何万何億と人がいるのに全員成功なんてありえないわ。そもそもがやる気ねえ奴に特別な幸福なんて不自然なほどの幸運がなければ絶対に来ない。まあそれはいい、防衛戦争ならやればいいが内政基盤を固めないと守り続けるのは無理だろ。そっちやれよって話でしかない」
豊かさがまず第一、だが満たされたらどうするってなると豊かさをより無理なランクまで求めないといけなくなる。そしたら侵略だろうが。方向性が間違ってるんだよ。一番重要なのは安定と内面の豊かさだ。私は内面は豊かだぜ。外見は貧相だからな! 努力もしてないのに文句言ってんなよって話。そんなに変なことは言ってないと思うがね。才能がないのは自己責任だわ。あとは運だろ。運こそ正義。運をつかむ方法ならあるぜ。チャレンジを無限にすればいい。必ず成功する。まあそれが難しいんだがな。
「そしてまあ、暴虐の魔女は停戦を進言する」
三章後少しですがまだ書けてません、すみません。とか書いてたけどなんとか書き切りましたので三章最後までお楽しみください。
このお話は読めるように書いてないので次のお話はちゃんと小説を書こうと思います。よろしくお願いします。




