アナナス後継者問題
ようするにアナナス後継者問題でアルスはかなり旗色悪いわけだ。つまり王家としては辺境伯との結びつきを強めつつムルベイを抑えつつモッセレンも収めつつクリフト公爵家に力を持たせ、第三王子は辺境送りだ。笑えるくらいピッタリハマってるな。
「そーかいそーかい、つまり王子さまは継承権がアリーチェより遠いわけだね」
「……なんでそこまでわかるんだろう……」
「物事は人の思惑なく流れやしない。それは権力にからめばなおさら顕著だろ。その場にあるパーツを全部眺めていたらちゃんと元の絵は分かろうってもんだ」
「自分の中に全体像を作るってのは物事の本質をつかむ上では重要なことだな。アルスぅ、ちゃんと学べや」
「おっさんはおっさんでコイツ使おうとしてるじゃねーか。クリフト派閥にある程度辺境への介入を許してるってことはクリフト公も別に王家転覆してやるとかではないんだな」
「そりゃそうだろ。貴族の権益なんて王家あってこそ。根っこを枯らすバカはいないだろ」
「それが歴史的にはあるんだよ。権力ってのはなにも伝統にだけ生まれるもんじゃなくてね」
「金か」
「流石だな〜。まあそういうのはアリーチェたちの勉強に取っておきたいところだけど」
「王制が潰れる可能性については女神様たちも言ってたことだが。実際に神政を摂ることなく象徴として存在し王家に任せていることになっているしな」
「この世界ならではの複雑さがあるねえ」
偽神たちが現れたもんで王制が崩れかけそれを偽神たちのほうが止めた。象徴としての神だな。日本人だねえ。ところがどっこい元々の王制があるもんで知恵の足りないだろう神たちは政治丸投げの方法としてこれを取った、が、元々の王制がまあまあひどいもので、それが神の存在で中央集権は進んで、まあメリットデメリット半々だけどとりあえず現地民の意向に沿う形で政治にしろ文化にしろ緩やかに進歩して法制度なんかも隙なく育っていくために放置する形に落ち着いた。
いい神様ってのは人を見守りながらも手出しはしないものだからな。人の存在がどれだけ神を苦しめるか考えたらお願いなんてできないね。誰だよ通販スキルとかねだったの。
まあ私も成長してるってことだね。当たり前だけど。
辺境伯には長男がいるから普通に考えたら辺境伯も継げないしそうなるとこの第三王子が治めるのはムルベイになる可能性があるな。
「ムルベイのおっさんは息子いるの?」
「うちは娘だけだ」
「ローザね。従姉妹だけどあんまり好きな子じゃないわ」
ローザって言うとロードバースのワルテルが通ってた酒場のねーちゃん思い出すな。当たり前だけど同じ名前の人は結構いる。これからは個性の時代になるけどなぜかルッキズムとか流行ってるよな。まあそれはいいや。アリーチェがあんまり好きじゃないって言うのは珍しいかもしれないな。どんなヤツだろ。中身がない恋愛脳とかだったりするのかね。
「許嫁とかってどうなってるんだ?」
「私は決まってないけどそっちの話じゃないわよね。ローザの許嫁ってソイツじゃない?」
「うぐ、そうですね、今の所そうなっています」
ルーベンが……ええ、かわいそう。ハゲそう。
「禿げませんが。禿げそう」
「そんなにひどいのかい?」
「ひどいっていうか」
「そうですね、愛嬌はあるのですが」
「まあお前さんは気にいるかもな!」
「見てみたいね」
このリベルトのおっさんの娘だしな。政治とかはロードバース子爵のとこでも相当調べたが家系とかはめんどくさくて覚えてないからな。果たしてどんな娘やら。
「連れてこい」
「はい」
リベルトのおっさんがメイドに命じて娘さんを呼んだらしい。立石みたいなのが来たらどうしよう。水野みたいなのもまあまあヤバイけどな。アイツ後ろから刺すタイプだし。現れたのはなんか公爵の娘にしては質素な白いワンピースの娘だった。黒髪はこの国の貴族に多い色だっけ。日本人に見えるな。
「……なに、パパ」
「よおー、今日も陽気だな!」
「……ぜんかいばりばり」
「大丈夫? 息してる?」
つい心配してしまったわ。全開バリバリとか数十年ぶりに聞いたわ。このおっさんのノリについていきながらこの暗さってなかなかにアクの強い人物だぞ。なんか宇宙人とか妖怪と戦ってそう。これがムルベイの後継ぎかぁ……。
「ムルベイヤバくね?」
「まあまあやばい!」
「自分で言うなおっさんがなんとかしろや」
「……はじめまして、魔女さま……」
「大丈夫? 呪われない?」
「天職は呪術師」
「バッチリ呪われそう!」
公爵の娘なんだからそこはプリンセスとかでもよかったんじゃないですかねえ? まあキャラにめっちゃ合ってるけど。なるほど、これはアリーチェ苦手だわ。アリーチェってまあまあ怖がりだからな! 誰だお前が言うなって言ったの!
「ローザは相変わらず元気そうね!」
「……ちょうノリノリ……」
「のれよ、そこはもっとこうガっとノレよ」
アリーチェに対しても陰気にハイテンションで返したので思わず突っ込んだ。やべー、テンション高いのか低いのか謎だ! 確かに面白い娘だけど!
「こんな子だけど頭はいいわよ。本の虫なのがアレだけど」
「アリーチェが戦場にでも引っ張りだせばいいんじゃないかい?」
「そうね、狩りとか行く?」
「……ちょーたのしそう」
「大丈夫? 歩いてたら息止まったりしない?」
やっぱり突っ込むわ。すごい暗いのにセリフがめっちゃ前向き。なんなのこの子テンションがわかんない。でもそうさね、狩りとか連れていってみるか。ついでに王子さまとも遊ぼうかね。
「え、遊んでる余裕は」
「頭固いんだよあんたは。じゃあ三十分くらい連れてくね?」
「おう。三十分?」
そういえばリベルトのおっさんには説明してなかったな。ついでだし連れて行くか。
「んー、じゃあワルテル、ここで待機してて誰かに聞かれたら魔女にさらわれたとでも」
「そういたします。ホーッホッホッホッ!」
笑い方ぁ! まあいいや。マイルーム内にソリド島原風景というのをセットしてある。開発してないソリド島で遊べるぞ。
急に南国風というか無人島風の景色に変わったので慌てる貴族たち。アリーチェとローザは動揺してない。ローザ大物ぉ!
「……動揺?……あわわわわ?」
「なんで疑問形なのよローザ。これはカーラのスキルよ。私もここでめちゃくちゃトレーニングさせられたのよね」
「よーし、説明すんぞ」
このトレーニングルーム内では千倍の速さで時間が流れる。二十日過ごしても外じゃ三十分程度しか時間が流れない。そのあたりを説明した。これに一番反応したのはリベルトのおっさんだった。
「ななな、なんだとお!!」
「落ち着けおっさんいつでも出してやるから」
「出たくない! ここで暮らすぅ!」
「さすがにここでは暮らすな! いや、二十日は暮らしてもらうんだが!」
リベルトのおっさんにはバカンスである。それはもう疲れてるんだろうノリノリである。
「配下も連れてきたかった」
「呼んでやる。ほれ、どいつだ?」
スマホ風空中パネルを出して屋敷の中を覗けるようにする。外はゆっくりだが時間が流れているのでちょっと見てて楽しい。まあ一分はしないとほぼ動かないんだけど。リベルトのおっさんはコイツとコイツとコイツ、いつも忙しいからな。うーん、全員休暇にしてやろうか!とか言い出したので衛兵は残して残り全員入れてやる。さすがに衛兵はな。衛兵にはワルテルが説明してくれるだろう。思いがけずムルベイ公爵領重臣バカンス月間になった。まあこのあとあちこちの貴族から一週間でもバカンスをと要請されることになるがそれは後の祭りであるのでここでは語るまい。それくらいはいいよな。みんな疲れてるし。知ってるか、怠けると筋力が落ちてガンガンダルくなるんだぜ。なので遊べ!
リベルトのおっさんはミネルバと交渉して海パン買って海に駆け出した。おおい。適応早すぎるだろ。ミネルバもなにギフト使わせてんの?
「向こうもしっかり金は払うからミネルバ商会として売ってるのよ」
「そういう抜け道があんのか。まあこのギフト自体オマケだもんな」
いろいろゆるいんだ。
「て、てててて、天使ぃ?!」
「こ、これは、報告」
「落ち着け童貞ども」
「「童貞関係ないけど?!」」
ジャコブとルーベンは適応が早いのか遅いのかわからんな。もうマイルームの力で水着になってるし。パン一。ミネルバは外では妖精として振る舞ってるけどこっちでは普通に天使。隠さないのかって? 意味あるの? 要請とかしつこけりゃ蹴るだけだ。妖精への要請とかよーせい。よっこいせ。バーベキューセット〜。ピカピカドドン。某タヌキロボット風。
「よーし、肉の準備するぞ〜」
牛型モンスターの肉を締めてすぐ解体して浄化して保存するってスキル頼みの荒業で血の腐食を防ぎ旨味マックスで肉にした。塩、胡椒、オールスパイス、にんにく、みりんで味付けして寝かせる。この場合みりんに耐腐食させたいのでアルコールの強いやつ。さすがに飲まねえよ。海外の依存症患者がアルコール消毒液飲んだ話は聞いたことある。酔っても苦しみは無くならないからやめろ。依存症は強くなればまったく酔えなくなるしな。酔ってても酔ってなくても異常になる。前頭葉溶けるしな。まあそれはいいや。
肉は表面カリッとなるくらい焼きたいけど両面焼かないほうが美味しいんだよな。火は通すけど。レアって火が通ってる状態なんで火をまったく入れないとさすがに生臭いし硬い。ブルーレア好きって人もいるけど。
寿司とかでも海外からしたら雑菌まみれなんじゃって思うけどそもそもの衛生観念が違いすぎるんだよな。向こうは未だに菌を全部殺さないと危険って発想だけど日本だと清潔すぎたら逆に危ないのがわかってるし。そういうとこは賢いよな。
さて、いい感じに肉が焼けてきたとこで海で泳いでた奴らが帰ってきた。この世界水練じゃない普通の水泳も流行ってるらしい。ミネルバは小銭を手に入れてニヤニヤしてる。お前金使わないだろ。
「なんつーの、気分?」
「まあわからんでもないけど」
その感覚がすぎると守銭奴になるから気をつけろ。英語だとマイザー。
泳いでたガキども、一部高齢が水を飲んだあとバーベキューコンロに集まってきた。脱水症状予防ってこの世界に流行らせたの誰だよ。愛の女神はその辺りの知識チートは惜しまなかったらしい。まあ迷信を迷信で塗り替えるように真実で塗り替えたようなことになってる。そのうち研究が進んだら迷信じゃなかったってなるんだろうな。この世界魔法あるけど脱水症状を治す魔法って特に無いみたいだ。水魔法とかで純水を飲むらしいけどそれって水中毒とか熱中症の原因になるんだよな。やめておけよ。ミネラルウォーターかスポーツドリンクにしろ。せめて塩入れろ。
食べ物の塩分は濃いからあんまり気にしないのかもしれないけどな。塩って取り過ぎたら駄目なのに失われやすいっていう本当に重要な物質なんだよな。経済でも重要だろ。ちなみに象とかも塩を舐めてたりする。肉食動物が塩を取ったら危ないことがあるのは草食動物から取ってるからだな。血がしょっぱいとかあるだろ。その少ない塩を逃さない仕組みがあるから少しの塩を取っても取り過ぎになるんだろう。難しいものだ。
ジュワ〜っと音とともに広がる肉の焼ける香り。うーん、たまらんね! いただきまーす。むん、甘い、うまい、柔らかい! 香ばしさも加わって最高なんである。やはり肉。肉はすべてを解決する!
周りで見ていただけのキッズたちもどんどん肉に集ってきた。食うがよい。嬉しそうに食うキッズたち。おっさんたちも集まってきてついでに立石と水野もミネルバも星のんもおい神まで混ざるなややこしい。
野菜も乗せていく。おっさんたち嫌そうな顔すんな野菜食わないと血管詰まるぞ。星のんしいたけ避けるななんか私と食べ物の好みはかぶるんだよなコイツ。まあ星のんの部分は普通に人なんである。
この二十日間キャンプとサバイバルで自然から世界を学ばせることにした。




