お茶会
さて、戦争は魔女が介入したことで終わることになった。神を名乗り暴虐を振るい悪い名声を高めていた神もどきは魔女に触れられただけで消え去った。ちゃんと宣伝よろしくお願いしまーす。まあリベルトのおっさんに任せとけば大丈夫。公爵だし。なんかワルテルの話し方真似てた。怖くないからやめろ。
「その時、暴虐を奮っていた神もどきにヒタ、ヒタと魔女が忍び寄り」
「やめろバカサッサと派閥の会合なりなんなりしてこいや」
リベルトのおっさんはワルテルに指導されながら語りだす。顔を下からライトで照らすのってこっちでもやるの? まあ私が私の話でビビるわけないが。ビビらないからな?
しつこく怖い話しようとするリベルトのおっさんを負い散らかしたが暇になったので、リベルトのおっさんが私の噂を広めるまで暇になったのでアルス王子さんたちに話を聞いてくることにした。アリーチェがお茶会をやるらしい。さすがアリーチェって名前なだけはあるな。お茶会好きらしい。なんか張り切ってたのでシ○ベーヌを出しておいた。チョコケーキの美味いヤツはいくらでもあるんだけど舌が肥えすぎたら普通のご飯を食べられなくなるだろ。まあ日本の駄菓子は十分ヤバイけどな。ご飯食べられなくなるからって言ってるのにお菓子食べちゃうのは定番だな。私もよくやった。まあお菓子もらえるぶん私は恵まれていたよな。
私が子供に絡みたがるのは、子供らを見守り育てるのは子供のいない大人の仕事だと思うからなんだよな。私は働きアリ理論と呼んでいるんだが、働きアリって子供を自ら残さないけど社会のために働くだろ。自分で子供を残したいヤツはそんなポジションに落ち着くのは嫌だろうが残せなかったら仕方ないだろう。働きアリとして頑張れば世の中良くなるんだから不満があるんなら黙って働けってこと。別に誰かに従う必要もない。社会の役に立ってない働かないアリも存在していいしな。それで満足ならそれでいいさ。誰にも認められず求められず死んでいけ。流石に何もしてないヤツを特別扱いできないしな。相対的ってことは人と人がひとつになることはない以上、個人の排他原理がある以上相対性を埋めることはできないわな。誰か見つけてもつれ合ってたらそれもいいんじゃね。フェルミオンよりボソンのほうが幸せなのかもな。光のように自由に存在することこそ人類の求めるところなのかもしれないな。まあ物理的なものなんだ、心って。機械仕掛けではないけどね。
さて、恒例のグダグダひとり逍遥するのはこのへんにしておこう。お茶会の始まりだ。三月うさぎのように茶化さなくちゃな! 狂ったように! やらないけど! やるか?
「……はじめまして、アナナス王国第三王子、アルスだ」
アルス王子様とお付の二人、アリーチェが待っていたガゼボに用意された椅子に座る。王子様が最初にご挨拶。ビクビクしちゃってまあ。これはアリーチェと比べちゃうねえ。アリーチェは横で呆れた顔で兄貴を見ている。二人は普段はどんな関係なのかね。母親は違うが仲のいい兄妹とは聞いている。まあゆっくり探ってみようか。
「アルス兄様、ムルベイ平定の主役ですわよ。鷹揚に迎えるのではなく称えるなりしてはいかが?」
うげえ、アリーチェがお嬢様言葉使ってる! ホーッホッホッホッ、とか笑いそう! 似合う! アリーチェもトレーニングルームで一年分成長してるもんでお姉様な雰囲気が出てるぞ。十四歳か十五歳くらいになってる。胸はデカいが身長は伸びてない。勉強もしたから学園に飛び級で入るとか言ってる。まあこの兄貴と比べたら悪いくらいアリーチェは成長してる。もともと私も学ぶことの多い子だ。とにかく後ろ向きにならないのがすごい。同年代では一番賢いんじゃないかね。猪突猛進なら周りが止めりゃいいけどちゃんと考えて動くしな。安心してみてられるというか。
「こほん、白の魔女カーラよ、大儀であった」
「熱でもあんの?」
ぺたり、と額に触ってやる。王子様は私が神もどきを瞬殺したのを見てるのでがたり、と音を立てて後ろへ下がる。はいはい、怖かったねー。なんだコイツ。うーん、程度が低いって言っちゃ悪いんだけどね……。
「そんなに怯えなくても悪いことしてなきゃ地獄にも楽園にも送らないよ。まあわかってて触ったんだけど。ケラケラ」
「く、き、……白の魔女カーラには王城を襲撃した疑いが」
「王様がそう言ったのかい? どこかの伯爵にそそのかされたろう」
「!?」
「魔女反対派閥にはクリフト公爵とそれに連なるスケルフィス伯爵家が主体となって第三王子派閥が全体で反王制、貴族議会主義を主導している。それでお前さんは犬のようになにも考えずに爺さんの命令に従ってワンワン吠えてるわけだ。可愛いねえ」
「だ、誰が犬だと……」
「あ、訂正、駄犬は可愛くないわ」
「きさ、く、」
「カーラ殿、あまり煽らないでやってください」
王子様をいじめてたら流石に宰相の息子ルーベンが突っ込んできた。ちょっと様子見てたの知ってるぞ。悪いやつだな。
「あいよ、ルーベンが禿げると可哀想だし」
「禿げませんが?! そんなに禿げそう?!」
「いや、周りがこれじゃストレスフルだなって」
「誰のせいかな?! 主に誰のせいかな?!」
ルーベンはノリがいいから可愛いね。いじりがいがある。私はどっちかといえばインテリだけどやんちゃするタイプのほうが好きだね。
「きさまー、アルス王子に向かってー!」
「ハイハイ。ポッ○ー食べる?」
「もぐもぐ」
ジャコブの方はなんか吠えるだけで実は噛んだりしないタイプの小型犬みたいなんだよね。可愛い。なんかわかっててスタンスとして一応私に向かってくるんで多分オヤジになにか吹き込まれてるんだろう。無体はされないから何度も挑んでみろ、とかね。流石に騎士団長だけあって見る目があるってことだ。まあ一撃で不意をついてノシたからね。普通の雑魚騎士なら卑怯呼ばわりするけどあのおっさんはそれは立派な戦術と考えていた。戦略家だし、武人だわ。
問題なのはアルス王子様、コイツだけだ。叩きのめしてやろう。
「人の頭に立たなきゃいかん王族が誰かの尻について尻尾振ってワンワンじゃダメだろ。お前さんの見解は。お前さんの意思は。お前さんの思考は。お前はどこにいるんだよ?」
「お、う、ううぅ」
「私は自分で前に進もうとしないヤツが嫌いでね。社会のためにならないなら社会も必要としない。当たり前のことではないのかね? それでも経済的に役に立つからただ生かして生殺しにしておくんだけどね。そんなヤツの不満聞くわけないだろ。お前ならどうするんだ」
「そ、それは……」
まあ犬の命令なんぞ聞くはずもないんでね。コイツがなんか言ってきても聞いてやることはないだろう。
「私は……僕の国は戦争なんてしてなかったから……」
「んん?」
なんか変なこと言い出したぞ。この国戦争だらけなんですがねえ? ムルベイやモッセレンだけじゃなくトーナイン公爵家とかコイツの派閥のクリフト公爵家だって戦地に直面してるから戦争戦争だぞ。他国に対しては三大公爵家の意見はまとまってるからね。徹底抗戦だけど侵略はしない。それは愛の女神の方針だね。みんな仲良くできるなら仲良くしよう、なんともお花畑だねえ。コイツもそのお花畑思想に飲まれてる?
「……前世は、戦争が終わって八十年、誰もが戦争を知らない世代で……」
「ほう?」
前世ときたか。なんとなく呟いちゃってる感じだけど。
「ダン○ダン結構面白いよな。絵ばっかりだけど」
「え、それは」
「ポッ○ーで気づけ。勘まで悪いとはね」
「ううう……」
コイツも前世持ちか〜。そろそろいじめるのはやめておこう。いじめは嫌いじゃないかって? いや、必要ならやる。私に正義はないって言ってるだろ。上っ面だけの正義はね。
「お前さんはわかりやすいね〜。味方は全部正しいってか。人はみんな間違いを犯すんだけどね? 信じるなとは言わないが百パーセントはやめておけ。普通に自分と他人は別物なんだから」
気持ち悪いよな、一心同体とか言われたら私は嫌だね〜。私は私だもの。他人と連携しなきゃならないって群れの発想であるべきで同体になってどうするんだろうね。違うから連携になるんだろうに。一体の動物のように、とか言うけどそれはそれぞれが適切に動いたら指揮官の手の内で動くからそうなるんであって個々人が繋がってるってわけでもないだろ。
うーん、私だけかね、そういう感覚。尻をなでられるような不気味さを感じる。まず己がないヤツなんて使いたくないだろ。普通に。もし予測不能な状況に陥ったら指示待ち人間じゃ困るだろう。即断しなきゃならんときはそうしろよ。いつも勝手に動いてたら当然困るというか普通に使えないけど。これはできるんだろうなって範囲が広いヤツが使えるヤツなんだよね。
「んー、あれ、立石、アレ転生者特典でいいの?」
「ん? 通販ギフトのことか。んー、いや、この世界の転生者は全部とうぜんイルマタルが管轄してるけどお前さんのギフトは星野管轄だろ? そっちのヤツ、転生する前に眼帯した女に会ったか?」
「え、星野先生? あ、会ったけど」
「なんでこんなの送ってきたんだアイツ?」
星野は転生するヤツ選ぶわけじゃないだろうけど。適当だもんな。神はサイコロ振りまくるとか言いながら運命なにそれ美味しいのってタイプだ。
「さあ? 誰かのついでじゃね? そいつが望んだから一緒に、ああ、そういやコイツの許婚が赤の魔女じゃん」
「あー、アレの関係者か」
立石ですらつかんでないって本当にオマケみたいだな。まあ運命ってヤツは自転車の車輪で自分で転がすもんだけど。だからどんなガチャでも自分次第で外れはないってことだ。
「あ、あかりちゃん、リディアのこと?」
「やっぱりな〜。じゃあいちお転生者特典で通販ギフトは使っていいわけか。気は乗らないけど、ほれ」
アルス王子様に白のベルを渡す。うーん、なんかチリンチリン鳴らされそうで嫌だな。コイツ絶対に頼りまくってくるぞ。聞かないけど?
「アリーチェ、白のベルを使うつもりはあるか?」
「んー? このもらったヤツ? これ使わなくてもアンタには持ち主の状態がわかるんでしょ?」
「死んだらさすがにな。あとこっちで監視してる時はわかる」
「じゃあ使わないわね。漫画読んだりひきこもるときは使うかも」
「と、言うことだ」
「どういうこと?!」
説明が足りなかったか。白のベルを鳴らせば私を呼び寄せることができる。犬のベルじゃねーからチリンチリン鳴らすな。必要ならこっちから行く。このベルを持ってる以上、星野の使いである以上私から手を出すことはない。その辺りを説明した。鳴らすんだろうなぁ。まあコイツの場合通販スキル使うために私を呼び出さないと駄目だけど。使うか? 逆になんかコイツ通販は使わない気がするな。ズルは良くない、とか言いそう。チートってズルはズルだからな〜。星野のことだからどうでもいいんだろうけど。
「……大切に保管しておく」
「使えよ。チリンチリン鳴らすなってだけだ」
「うう、でもチートってなんか逆に危ないってのが定番では」
「そんなもん使い方次第だろうに」
やっぱりな。めんどくさいやつだな〜。大事なのは自分がなにを見据えるかなんだ。正しい方向向いてたら曲がりくねった道でも問題はない。
「やあ、やってるかね! ヘイヘイアルスぅ、顔が青いぜ〜?」
リベルトのおっさんが来た。まあアリーチェのお茶会におっさんはつきものだよな。おっさんこの甥っ子なんとかしろや。一応王族だから遠縁だろ! リベルトのおっさんは前王妹とモッセレン辺境伯の次男の子になるのか。元々のムルベイ公の血はモッセレンにも受け継がれてるので血統は問題ないと。王家がリディアとこの王子を結びつけてるのもこの辺境が戦争の中心地になると考えているからだろう。まあムルベイが真ん中だしモッセレンは西の森のモンスター対策で存在してるところがあるから……一応ムルベイの抑えとして機能しなくはないがモッセレンはモロにムルベイ派閥だから王家のほうが取り込まれるよな。それを防ぐためにもトーナイン派の第一、第二王子、もしくはアリーチェが王位につくことが望ましいと。ふむ。面白いねえ!




