前を向くと言うこと
そもそも問題は深いはずなんだよな、この大陸の。戦争は複雑に根を張っている。それを引っこ抜いて覆すのは並の胆力じゃ無理だ。私にそんな胆力あるか。無神経で鈍感にはなれるけど。年寄りだからね。いいことじゃないけど悪いことばかりじゃない。理性的に周りを見渡せるぶん広く物が見える。冷淡でも不可解でも真実は真実だ。それを深く見つめていくだけ。
この世界の歴史とか今ひとつ説明書じゃわからないことがあるし、戦争を減らすためのアイデアは必要だろう。狂信的な理由で戦争を起こされたらたまったもんじゃない。この世界では無しにしてもらいたいね。神様は人類は人類のためにあればいいと考えると思うよ。星のんはそんな感じ。
お姫様のトレーニングにしばらく付き合いつつ大陸のあれこれを聞いていく。主要六カ国が頻繁に争ったり交易したりしているのは説明書通り。宗教的な対立も起こってはいるがどの宗教も主神はイルマタルとしている。これは悩ましいことだな。つまり神は一つと言いながら争ってるその構図がもうヤバい。つまり神が出てきても止まらないってことだからな。神は信じてるがだから自分の主張が正しい、と戦争してるわけだ。やべえ。できれば関わりたくないヤツだぜ。正味最初に考えてる通り偽神を排除するのが良さそうなんだが殺したらまさに狂信者の群れを生み出してしまう。リアルな神の声があるなら人はそれに従うはずだから大きな争いは神が止めるけど神が不在ならそこにいる未熟な人間が司令することになる。こうなると止めどころがいなくなる。恨みが恨みを生む、地獄の様相になってしまう。
人間が人間の命を奪うことは人間という種の一番の禁忌だと私は思うんだかね。
まあわからないヤツらはちゃんと教えろと言うかもしれないがわからないヤツが毎日生まれてくるのが世界ってもの。若者は無知だ。それはただの必然だ。真っ白で生まれてくるんだから。だからそこを非難するのは意味がないどころか反発を招いて害悪でしかない。自分が馬鹿なことを深く自覚して常に学ぶ姿勢を持たせるのが理想だけど私だってそんなふうに考えれるようになったのは最近だしまだまだ学ばなくてはならないことが多すぎて、……ワクワクしてしまうだろ。なのでそれは教えるまでもなく人がたどり着く場所なんだと思う。考え続ければ。
少しずつ組み立てていく。失敗なんてどんな完璧なやり口にも潜んでるものだ。社会はデジタルじゃない。まあそのうち量子コンピューターやスーパーAIが主流になるとデジタルに見えてくるかもしれないけどな。人間より賢いし。人間って思いの外馬鹿なんだよな。ただ馬鹿をやる能力は高い。それは一概に悪いものでもない。多様性と言うならまさに馬鹿の作る文化こそ多様性を生む。縛ったんじゃなにも生まれない。馬鹿や不成功者の声こそ聞くべきだ。そもそもおんなじやり方しても成功者なんてそのうち一パーセントくらいだぞ。そんなたまたま上手く行ったやつになんの教訓があるよ。運がよかったら勝てる、なんて誰にでも言えるからな。それなら負けても全然問題ない方法を探ったほうが建設的ってものだ。それには負け犬の生き様を見るといい。
それはそれとして、じゃあ勝つにはどうするか。当たるまでやり続けるんだよ! 地球人が怠惰に生きたいならあと十年か二十年してからだな。シンギュラリティが起こったらそこで人間はAIのサポート役になるだろう。ほぼほぼペットな毎日になるな。だからって主体でなくなるわけがないけど。人類が人類史の主役だよ。人類にとって意味って人類にしかないだろ。世界がなにか答えたりするわけでも無し。もちろん世界の環境は人のためにも整えないと駄目なんだけど。それも人類のためだしそれでいい。人類以外のためになんてヒマなヤツでやってたらいい。こちらに害がない範囲で。主義主張が人類を攻撃するため、になっちゃ駄目なんだ。それが無意味で業の深い戦争を生むんだ。
やってもいい戦争なんてゲームの戦争とかきのこたけのこ戦争くらいだぜ。どっちが勝ってもお菓子メーカーが得するだけだし。悲劇が生まれない戦争ならゲームじゃん。まあそれで悲劇を想像して戦争はやめようと言うならオーケーだと思う。戦争なんてホントくだらない戦費費やすだけだしな。お隣の某国、ずっとミサイル飛ばしてるけどあれで進化してるのかな? そもそもミサイルの時代は終わると思うんだよな。物理兵器で遠距離攻撃はAIの予測や計算で迎撃しきれる時代が来ると思う。だから海外拠点攻撃も必要なくなると思うぞ。攻めたほうが一方的に損をする技術が生まれるだろう。それまで戦争しないことだな。
すごく当たり前のことなんで昔からわかってることなんだけど守るより攻めるほうが大変だからな。それが現在の戦争でより具体的になれば戦争は終わる。それは現代人が世界の広さと狭さに気づいたときだ。歴史を見ればちゃんと未来はわかる。
この世界もそうなっていけばいいが、それはこの世界の住民たちが学んでいくことなんだと思う。歴史はこの世界のものだしな。私は戦争は悪であると言い続けるしかないな。そもそもなんのために戦争なんてやってんだ。思想だの信条だの過去だの歴史だのは人にとっての人の命より重いのかね。一人の命は一人分でしかないがね。
さて、お姫様はトレーニングをやりまくったあと外に出て狩りを始めた。ダンジョンでもレベル上げはしたしレベル百二十を超えてるのでほぼ一般人は相手にならない。中学生のプロスポーツ選手がそのへんの大人に負けるはずがないというくらいの強さだな。ブロに混じれる中学生っていったいどんな世界に住んでるんだろうな。親が良いとかならうらやましい限りだぜ。まあ私は自分ガチャ失敗だから関係ないけど。お姫様はやはり運がいいのかね。
お姫様じゃない魔女でもない自分はレアでもないカードなんだからレベルはマックスにしないと使えないよね。特殊な技能を持ってるとか。そういうことなんだよ。レベル上げ続けるしかない。逆に言えば生まれがレジェンドレアなヤツとか人生忙しそうで嫌だぞ私は。どこでも引っ張りだことか恐怖を感じるわ。生涯普通でいいよな。まあ夢を追うのはいいことだけど。年食ってから一廉の人物になったヤツもたくさんいるしな。そういうのは楽しみでやってるんだろうからいいことだ。私は今は魔女だしな。レジェンドレアだぜ。やったねカーラちゃん仕事が増えるよ。
前を向いたならまずは酒をやめること、あとタンパク質取って体内のアミノ酸を増やすと情緒が安定するとかあるけどまあそういうのは自分で勉強するといい。私が教えても一部にしかならん。人間の悩みはわりと栄養とか運動とかで解決する。腸は第二の脳だから腸内細菌で性格が変わるらしいぞ。
さて、生まれがウルトラレアなお姫様はなにを思ったのか自分が女王になる道もあるかも、とか言い出した。なんでそうなった。
|(アリーチェ視点)
もー、なんなのよこの島は! この魔女は! 最先端のダンジョン都市とか! てか教会の魔女様もいるし! 青の魔女までいるの?! 青の魔女は異大陸の魔女だったはずなのになぜかこの大陸に来たらしい。なんでよお!
いや、まあ、自由なのね、魔女は。私も自由がほしいと言ったら隣の芝生ばっか見てるんじゃねえこのウルトラレアが、とか意味がわからないことを言われたわ。
島を見て回り一通り困惑したけど、しばらくマイルームで漫画とか異世界のお菓子とかもらいながら幸せに暮らしていたら、……え、洗脳? なんのこと?
だって楽しいしやめられなくなるじゃないの! 漫画、ゲーム! もっと、もっとおやつを!
ダメだって。稼いでこいと言われたわ。まあね、働かざる者食うべからず、とは愛の女神ソフィア様も仰ってたしね。
自分で戦い、働いてみて思うのは私がなんにも知らない空っぽな存在だってこと。不安になってくるレベルよ。それも自分の目が開いたためと白の魔女は喜ぶべきことだと言うけど、自分が馬鹿なことを思い知るのがいいことのようにいう彼女の感性は私たちからは遠い物のように感じたわ。そこまで行けるかしら。
人類の知恵というものはそもそも足りないからこそあるもので知恵があるということはすなわち馬鹿であることらしい。そこまで言っていいのかしら? まあ魔女でなければ人をバカ呼ばわりするな、とか怒ってしまったでしょうけど。
そして本当にそのとおり、学べば学ぶほど、体験すればするほど自分がスッカスカなデータを寄せ集めただけの知識しか持っていないことがわかるのよ。例えばナナホシテントウという虫の名前を聞いて姿をイメージができるのか、実際に星の数を数えたことはあるのか、そう言われたらできない、無いと答えるしかないわ。私ってその程度なのよ。
じゃあ、と見せてもらったら本当は虫は嫌いだったんだけどなぜか普通に観察していたわ。確かに星が七つあるわね! 黒いのに星なのね!って言ったら星が名前につくやつはだいたい黒いとかよくわからないことを呟いていたわ。
虫って足の節がたくさんあるイメージで嫌いだったんだけどよく見ると鎧のような物なのね。これが外骨格と言うらしいわ。ほー。へー。うん、実際に見るといくつもわからないことがあるのがわかるのよ。これがデータでは得られない物。いや、もちろんデータに起こすことはできるけど赤が何色かは赤色を見るまでわからないのよ。それがデータ勉強からの脱却でより深く世界を知る一歩なのね。
それがなんの役に立つか? 経験値は必ず役に立つわね。知らないことがあったという経験値。それを見るということの意義。世界との接し方はデータだけでは掴めない。人との話し方の教科書はごまんとあるけどそれであなたは流暢に話せるようになるのか。話せたとしたらそれは思い込みだって。結局人と接する勇気は自分で奮い立たせるしかない。それはデータでは起こせないわ。挨拶が何故大切なのかもわかるわね。挨拶もなしに人と話すのは普通に恐ろしいことだわ。
だから私は外に出てきてよかったのよ。王族なんてダルいのよ。周りは何もしないでもかしずくしお金には困らないし気に入らないやつは遠ざけられるし。勉強だって他の人たちができないことをやっているのよ。それもまた王族の特権であり義務。
忙しいのは間違いないけどこうやって理由を付ければ外にも出られるわ。今回は国内の他部族や白の魔女の動向の調査の名目で来たのよね。でもなんか私がこっちにいるうちにカーラはお父様といろいろ話をつけてきたらしい。それで数ヶ月後に王国と戦争するんだって。
はい?
いやちょっとまってカーラって戦争反対派じゃないのそもそも魔女の力見せてもらったけどあんなもん軍隊でも止められないし大量虐殺でしかないしそもそもお父様と話をつけてるのに戦いになる理由とかさっぱり意味がわからないわ!
いったいなにを考えているの?! え、自立する私を見てひらめいた? 世界と関わっていくことにする? この人と話してるとなにを言ってるのかさっぱりわからなすぎて人間と話してる感じがしないのよー!
ま、まあそれで私のすることといえばレベルアップして引き続き敗戦者部落の調査ね。あと、なんか隣のシトロン共和国にいるらしい神を名乗る不届き者を捕まえに行くらしいわ。それらはカーラの名前を高めるための作業らしい。そのためにお父様と裏で手をつないでまずは反魔女派をあぶり出して黙らせるのが目的らしい。魔女としての立場を守りつつ権益は手に入れる。戦争を止めるためにまずは一歩。これで一歩なのがすごすぎる。私とはスタンスが違うとはいえ、力が違うとはいえ、考えることが違う。見ている未来が違うのよね。
そう思ったんだけど、平和な世界でなにも考えずに自由に楽しいことをする、そんな当たり前のことのために頑張るらしい。当たり前のことを当たり前に。それが前に進むということ、前を向くということ。そう、まずは前を向かないと駄目。どちらが前かもわからない暗闇の中から脱するためには、触れ、学ぶこと。当たり前のことだわ。周りが見えなければ前もわからない。
周りを見て、自分を見て、前を見つけて、前を向く。
私は王族なんだからそんなカーラの力になるすべがあるわ。私が女王になることよ。大丈夫、前例はあるし問題ないわ。
まずはそのための力を手に入れる。レベルアップだけじゃない勉強だってするし仕事だってするわ。
まあしばらくはカーラについていくことにするけど。漫画とおやつは捨てられないのよー!




