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「我は魔女なり」 〜引きこもるためのスキル【マイルーム】をもらったがあまりに世界が酷いので暗躍することにした〜  作者: いかや☆きいろ
不思議の国のアリーチェ

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若さ

 まあこの世界はコイツら権力者が進歩の鍵を握っているわけだ。お恵みください女神様とか言い出さないだけ理性的だよな。今の私くらいの力があれば求めてすがってくるヤツもいておかしくはない。どうするかってそんなもん自分の足で歩けって蹴り倒すけど?


 世の中大体自分が悪いんだよ。そのほうが楽だろうに。馬鹿なんだ、他人や世の中を変えようなんてのは。自分なら好きに変えられるぞ。変えられない? 意思が弱いのは神経質なせいなんだよな。傷んではいけない、傷ついてはいけない、苦しんではいけない、強制されてはいけない、生きねばならない、成功せねばならない、……もうわかったろ。窮屈にしてんの自分だよ。傷もうが腐ろうが馬鹿かろうが構わないだろ。そこから前に進むだけなんだから。進歩するのはなんのため? 楽をするため、幸福になるため、楽しむためだろ。そのために苦しむなんて意味がない?そりゃそうだろ、だから努力や勉強は苦しんじゃダメなんだ。まずは続けること。そのうち飽きてくるのさ、ヌルゲーってヤツに。思い切ってハードモードやってみてもそれはそれで楽しいじゃん。ハードモードを余裕でこなしたら爽快だぞ。


 そういうわけでこのお姫様をハードモードに移すことにする。ステージが無いと挑戦もクソも無いからな。


「アリーチェだっけ、お姫様。自分の国を良くする気はあるかね?」


「は? その気がなきゃ辺境まで来ないわよ!」


「そうかい。と言うことはここ以外にも用事があるわけだ。ここで旅半ばで折れてどうするんだ」


「お、折れてないけど?!」


「私に挑んだ時点でポッキリ行き止まりだと思うがね。相手も知らずに喧嘩売るようじゃダメダメだね。はい、アウト〜」


「うぐ、もう勝てないのはわかったわよ! ……むう、これからどうするか考えろって言うのね」


 察しがいい。もともと育ちいいもんな、お姫様だし。


「ここで漫画読んでてもべつにかまわんけど、滞在費は払わないとダメだな」


「う、わかったわよ。ジョバンナ、お財布」


「国の金使ってんなよ。稼げ」


「はい?」


「自分の足代を自分で稼ぐ。自然だろ?」


「わ、私弱いしなんにもできないけど?」


「鍛えりゃいいじゃん。鍛える気があるなら、この魔女が杖を貸してやる」


「き、鍛えるのね? わかったわ!」


 素直。そういうわけでお姫様トレーニング開始だ。すぐに他人を頼って打開するのは子供の特権だが自力で歩みださなきゃ大人の資格も得られない。二十歳やそこらじゃガキすぎるのがわかるのは三十四十過ぎてからだよな。考えても見ればわかる。お前さんらあと十年後まで、ただ劣化していくつもりか? 育つんだよ人間は。八十九十になっても、それこそボケるまで。そんな人たちから見ているとやはり若さなんだな。積み上げてきた物に新しい学びだけで勝てると思い込む。その学びの元を積み重ねたのがその目の前にいる人たちなのにな。


 無知だとは言わんが経験値は足りん。足りんと自覚してこそ前を向ける。そういうもんだ。目の前に広がる大海原、これから始まる大冒険。ワクワクしてこないか?


 老害って言葉があるのになぜ若者が馬鹿にされないか考えたことがあるか? 馬鹿だってわかってるからだよ。若さを馬鹿さと言うやつはいるだろ。そんなふうに言い返してるヤツはまだ若いんだよ。なんも言わないのは、成長するのもまたわかっているからだ。人は育つ。それこそ壁にぶち当たりまくり転がりまくり泥にまみれて窒息しかかってそれでもはい上がり泣きながら前を向いて叫びながら突っ走る。そうして気づいたら壁の向こうにいる。それが人生ってもんだ。それを楽しめばいい。


 お年寄りだから語っちゃうんだよ。若かったら無我夢中で走るけど!


「はーい、そして来ましたトレーニングルームでーす。ジョバンナちゃんも一緒に鍛えるがよい!」


「私も?!」


「なんで急に偉そうなのよ!」


「教える側だから?」


「教わることなんかないわ!」


「そりゃありえないな。私だってお前から教わることがあるのに」


「はい? じゃあ私が偉そうにしてもいいのよね!」


「最初から偉そうじゃね? 上から目線だろ? なあ?」


 上から目線で見下ろしてるんだよ、ただの老人の戯言だと。そりゃ耳に入らにゃその価値もわからんだろうな。馬鹿は悪くないが馬鹿を自覚しないのは最悪だ。私なんて知恵は愚かであるゆえに必要と思ってるが。さあ馬鹿者共、喜べ、学べるぞ、学べ。


「うひゃあっ、なんでいきなりオーガ?!」


「でけえ声出すな。狩りだぞ。ほれみろ気づかれた」


 さっとオーガに向けて、前転。オーガは面食らっているのでスネを切り飛ばす。うが、と前に転がろうとするのでそのまま後ろから首をハネる。一秒いらんだろ。百メートル十秒ってことは一秒平均十メートルも動けるんだぞ? もちろん駆け出してすぐトップスピードにはならないが、前に転がる速度でスネを切り飛ばし立ち上がる足で向きを回転させその回転で斬る。ほら、一秒いらん。


「こんなのに負けるのが難しいんだよ。まともに当たらなければだけど」


「あ、お、鬼?」


「オーガは鬼だな」


「アンタよっ!」


 こんなキュートな鬼がいるか。理屈がわかったら力も普通に剣を振るだけあればイケる。まあ普通に一キロちょいある剣を片手で振るのって大変だったりする。人間の握力は少なくとも十キロはあるのにたかが一キロの物でも手の先に長さ六十センチ以上あるとテコの原理で振れなくなる。実は手足が長いデカいほうが剣を振るのには不利だ。自分の足腰から剣の重心までが遠く、振り方によれば大きく態勢を崩すハメになる。体格がいい人間は力でカバーしているだけだ。なので剣を振るときは体に巻きつけるように重心を近づけて振ると振りやすく、回転により力を継続して加えられるのでこの際の回転斬りは十分な威力が乗っている。


 全部物理だ。体でわかってるヤツはだからすごいんだよ。剣を理屈じゃなく体で分かれってのはこういう理由からだな。全部物理的に考えてたら高等数学が必要になる。動くのにそんな手間かける馬鹿はいない。だから動けるヤツを馬鹿にしちゃいかん。考えなくても高等数学を実現しているんだからな。そう考えたら化物だろ。


「お前さんの腰に差してるのはレイピアか。軽いだろそれじゃ」


「振り切れば一応切れるわよ」


「武器は軽いより重いほうがいいんだよな。使い回せるならだけど」


 一キロの剣を振り回すのが大変なのに二キロの長刀使ったら倍も大変になるのは事実。普通に使えたもんじゃないはずだ。戦場で必ずしも長刀が有利かは怪しい。そこで足さばき体さばき込みの剣術となるわけだ。短刀術とか発展したのもそのせいじゃないかね。二キロのダンベル持って振ってみればわかるけどまっすぐ足を揃えて立って振れるか、難しい。肩幅まで足を開くのは普通に安定するからだな。重い剣を振って安定させるのはそれだけ技術が必要だ。いたずらに素振りしてるんじゃ意味ないぞ。筋肉を必要なところにつける意味はあるけどそれはフォームができてからの話だ。いい加減なスタイルで振ってたら邪魔なとこに肉がつくからな。それで才能がないとか言ってたら笑うわ。やり方間違ってたら百年やっても成果は出ない。


「ゆっくり剣を動かしてみろ。むちゃくちゃ重くないか?」


「……うっ、重い」


「うーん、普通に剣を極めすぎじゃないっスか魔女なのに」


「近接で魔術の隙を作れないと弱点ができるだろ。まあ結界を張ってもいいんだが近づいたらやられるという精神的な結界は物理的なそれよりデカいだろ」


「確かに。その上で魔術。騎士団長にも勝てるスね」


「騎士団長は知らないけど人間に負けるつもりはないよ」


 そうじゃなきゃこんなに大きく動けないからな。力こそパワーだし。戦争力こそ外交力だろ。今は金の力もパワーだけど。力のない国が大国のように他の国とつきあえるか? 普通に無理だろ。大国と向き合ってるだけでも自国が底しれない強さを持ってるのはわかるってものだ。だから政治に文句言ってないで手を動かせってな。


 自分が気持ちいい情報だけ求めてるからマスコミもインフルエンサーも金で腐るんだろうが。気持ちいい情報じゃなくて必要な情報を取れ。手にした物が自分に必要なもんなのかよく考えろ。まあ、ボヤいて治るなら若さなんて誰も持ってないのかもしれないが。反発してこその正義、みたいなのが若さだよな。よく情報を読み込めばそこに必要なものといらないものが混じってるのに気がつくんだ。ひとつの物事の理由はひとつではないし一つの情報は一つの向きでしかない。一つの物事は多面の情報を持ち、意味を持つ。それを知れ。


「そう言えばアリーチェ姫さんはどっちの子(・・・・・)だっけ?」


「第一妃のイザベラよ」


「そういやトーナインって名乗ってたか」


 この国の名乗りのルールだと先に母方の名を名乗るんだよな。アリーチェ=トーナイン=アナナス、アナナス王の子、トーナインの血を引くアリーチェ、みたいな意味だ。トーナイン公爵家は代々王に仕えてる家で王家の縁戚でもある。一番権力のある家なんで逆に第一妃になってるということは恋愛結婚の面もあるのかもな。政治的にはトーナインと王家を近づけすぎるのは危なそうだ。第二妃はそのためなのか伯爵家のスケルフィス家だし。第一と第二の王子がトーナインなので権力争いはさほどでもないらしいが。それでも王子たちの背後についてる貴族には派閥があり、そこが争っている。


「兄弟仲はいいのかい?」


「そんなに付き合いがないのよね。もちろん顔を合わせることはあるけど他の貴族家みたいに家族顔を合わせて食卓に、というのがめったにないわ。そこで起こること一つが政争に絡むとなるとなかなか顔を合わせづらいのよね」


「政治方面は強そうだな。さすが王女様」


「ふふん! 家庭教師の受け売りに決まってるじゃない!」


「偉い偉い」


「なでんな!」


 可愛いもんだよな。子供の知識なんて八割は人からもらったもんなんだから持ってるだけで誇ればいい。やり遂げたことはすべてほめてやらねばね。得たことはそれだけで勲章だ。努力は必要だがなによりその努力を自分でも、積み重ねをほめてやるといい。自分が自分を甘やかすぶんには問題ないだろう。まあサボりは駄目だがほめそやしても誰も困らん。労働に報奨があることが重要なんであって寝て褒美を得ようというのがなめくさってるだろ。それは甘えではなく犯罪だ。なにもしてないのに物くれるやつがいたらまずは詐欺を疑うくせにな。


 人に物を教え語るのはそれで自分の中で整理がつくからだし、それを上から目線で教えるのはたしかに正しいからだろう。それをプライドで受け取らないやつがいたらバカでしかない。もったいない。私なんてたいがい苦労なんてしてないしもっとしんどい人はいっばいいる。でもその人たちは人に物を教える暇なんてないんだよな。


 だから教えるってことは学ぶってことだ。苦労しないとね。


「ゴブリンくらいから始めなさいよぉ!」


「たいして変わんねえよ。ゴブリンって強いぞ」


 ゴブリンは一メートル程度の体格しかないが筋力は大人のそれだ、これがどれだけ恐ろしいかは格闘技とかやらんとわからん。チビが痛え攻撃をしてくるとそれはもはや立派な敵だ。当たり判定は小さい。動きは速い。同等に戦えるのは鍛えこんでるヤツだけだ。そんな化物。


 オーガなんて当たり判定デカいし動きは悪いし足元はお留守だし雑魚じゃん。鍛えた武闘家がなんで怖いかよくわかる。デケえだけじゃ強くない。これと力比べするヤツはただのバカだけど。鍔迫りなんて実戦的じゃないだろ。投げナイフとかされたらどうするんだ。剣が合わさる前に詰むわ。投げナイフから前転でスネ斬ったら剣の達人もアウトだわ。達人がそんなヘマするわけないがな。だから達人。


「そっか、組み合おうと考えたら怖いしかないけど少しずつ削ってやろうと思ったらそんなに怖くないわ」


「デカいほうが体力食うからな。デブの長距離選手なんて聞いたことがない。エネルギーは蓄えれば蓄えただけ重くなり損失も大きくなる」


 なので人間は絶対に音速では動けない。その代わり神経の一拍子、0,2秒で相手の首をハネる程度は難しくない。ボクシングでガードを下げるのがどれくらい危険かわかるだろう。遠くからライフルで狙われるのと変わらん。気づいた瞬間に頭を撃ち抜かれてアウトだ。映画だと味方が押し倒した瞬間にガラスとかがガチャン、てなるけど本当なら撃たれたあとに反応するので手遅れか、見つけた瞬間に押し倒すので相手が発砲しない、かどっちかだろうな。ライフルの弾丸とレーザーならそんなに変わらん。撃たれたら、弾が放たれてから反射じゃ追いつかない。音速の弾は音と一緒に着弾する。リアルを知らないと怖いよな。まあ撃たれる機会ないけど。魔女になったからありえるか。こわい。この世界にも銃は一応ある。銃弾にマナを込めるのは難しいのでそんなに怖くはないが。そもそも頭を撃ち抜かれても私は死なないし。だからって撃たれたら痛いだろうな。一キロ以内なら奇襲も不可能だけど二キロ狙撃ならやられるな。そんなやついるかわからんしその距離からならマナはほとんど届かないので皮膚で弾ける。魔女をなめるなってこと。


 さて、どんどんと鍛えて実戦でお金儲けの味も教えてやろう。欲があるのはいいことだ。それに振り回されるのはただのバカだが。そんなバカには見えないのがこの王女様のいいところだな。基本的に賢いんだろう。そして意欲があり前に進む強さがある。そこは若さゆえとみなすんじゃなく見習わないと駄目だな。






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